もう一人の大神
朝何時もの様に珈琲を入れて木祠の前に、テーブルを用意していると
「…………」
みことは木祠から出て来た、それはそれは美しい女性に釘付けになった。
「大神よ、あれが其方の〝あれ〟か?」
それはそれは美しい女性は、大神様にとても馴れ馴れしく言っている。
「ああ、みことである」
「ほう……」
みことを値踏みするように、上から下まで視線を送る。
「大神様、どなた様ですか?凄く綺麗な女性ですが?」
みこともそれはそれは美しい女性を、ガン見して聞いた。
「大神様、それはそれは美しい女性だそうで……」
大神様は、含みを持たせて言われた。
「え?此方も大神様なんですか?えー!お姉様?」
みことが驚いた様に言った。
「お、お姉様?」
もう一人の大神様は、いきり立つ様に言い返された。
「お姉君様。みことがその様に申すのです。その様に……」
大神様は笑いを堪えられずに、顔を綻ばせながら言われた。
「お姉君様?」
「みこと、お姉君様の大神様である」
大神様は、それはそれは朗らかに紹介された。
「はい……」
みことは惚れ惚れとして見て、目が輝いている。
「共にコーヒーを飲みたいので用意致せ」
「あ、はい只今」
大急ぎで店に戻って行った。
「大神よ。如何してあのような者が良いのだ?」
もう一人の大神様は、呆れ果てる様に言われた。
「気に入ってしまったのだから致仕方ない。貴方様にはお解りになるまいが……しかしながら、大神を女神と見るとは……」
「確かに其方と違い、私は美しくできておるからな」
「同じく実体はないはず……」
大神様は至極真顔で突っ込まれた。
「実体はないが、基礎となる物が、其方とは大違いである」
もう一人の大神様は、天を指差して言われた。
「なるほど……。しかしながら、何故に女神なのだ?そろそろ女神の登場を、期待しておったか?」
考え込まれる様に呟かれた。
「お母さん凄いよ凄い」
みことは興奮して、朝食を取っている母親に言った。
「また何?どうせ大神様でしょ?」
「そうそう。大神様のお姉さんが来た」
「ええ?」
母親も流石に吃驚仰天だ。
「凄い美女……。ヴィーナス様?美の女神様?」
「それって、私だったら猫令嬢に見えるって、ヤツじゃないの?」
「あ?」
みことは、色ボケってヤツにハマっているから、すっかり忘れているが、母親は年の功ってやつか凄く冷めている。
「そういう事か……」
今更ながら思い至った。
「また神様が来たのね。失礼のない様にね……」
「神様じゃないよ。〝大〟神様!」
「神様に違いないでしょ?」
母親はいつの間にか〝神様〟のスペシャリスト、みたいな態度になっている。
あの大神様のお出ましの際に、大騒ぎしたのはいったいいつの事?
「さっさとお茶でも、お出ししなさい」
……大神様に子供を授けて頂いたくらいだから、態度も横柄なのかい?……
みことは大急ぎで、それは美しい女神様に飲んで頂く、美味しい珈琲を入れた。
「全く遙の家系も出世したもんだわ。神のご神託どころか、大神様が降臨する家系だなんて……」
自分の撒いた種とは、思いもよらない母親は、忙しげなみことを尻目に呑気な事を言っている。
「叔母さんにはもう一人来た事は黙ってよう、妬まれたら大変だわ……くわばらくわばら……」
「大神様がお出でなのか?」
木祠の前で後片付けをしていると、青孤が慌てた様子でやって来た。
「お姉君様の事?」
「お姉君様?」
「凄く綺麗な……。美の女神ヴィーナスなの?」
「何を申しておるのか?」
「大神様が素敵なんだから、お姉さんだったら美女で当然だけど、大神様は私の理想が実体化したものじゃないですか?……って事は、お姉さんのあの美貌はなんだろう?」
青孤はどんな状況なのか、先にみことに確認を取ろうとしていた自分を、愚かだと思った。
「お二人は、仲良くしておいでであったか?」
「なんか、お互いに棘のある言い方してました」
「やはりそうであったか……」
青孤は残念そうに言った。
「お二人は仲がお悪いんですか?」
「見たままだ。何故其方はお姉君様だと思ったのだ?」
「大神様が……ちょっと、含みのある言い方っていうか……」
「なるほど……」
「大神様がそう呼ばれたんです」
「なんと!」
青孤は大慌てで、木祠の中に消えて行った。




