心して仕えよ6
「イケメンとやらは、何かしらにつけ便利なもののようだな」
叔母とみことの様子を見た大神様は、伏し目がちの表情のまま言った。
「……あ、はい。凄く便利です」
「まずおばさんは、優しくします」
「なるほど」
叔母とみことを交互に見て大神様は言った。
「では、現生におる間はそのように致そう」
「……どう言う意味ですか?」
「実態がないので、勝手に見て取られるのだが、しばし此処に滞在致すのだから、いろいろなものに見えては不便と思い、その方達といるのに都合のよい形でおろうと思っておるのだ」
「それって……」
「故に候補はイケメンと猫男爵となるのだが……」
「イケメンでお願いします。このわたしが見ているお姿が、みんなにも同じ様に見えるという事ですよね?」
「いかにも……だが赤獺はそうはいかぬが、どうしてもと申せば如何様にもなるが?」
「え?この人はそうはいかないんですか?」
「使いは実態が有るゆえ……」
「えー?青孤さんはイケメンなのに、神使いにも不細工なのはいるんですね?……って事は、青孤さんは正真正銘のイケメンなんだ……」
みことの顔面がだらし無くニヤけている。
「はん。あの眷属は美形なのだ」
赤獺が吐き捨てるように言った。
「赤獺残念であった。青孤に負けぬくらいのイケメンにいたそうと思うたが……」
大神様が不満顔の赤獺を見て言われた時
「大神様にあられますか?」
叔母は崇め奉るような格好を作って、大神様の御前にひれ伏した。
「確かに大神はわたしだが……?」
大神様はみことを見ながら言った。
「叔母です。わが一族の中で一番〝持ってる〟と称されてます」
「ああ、その方が……」
大神様は納得されたように叔母を見た。
「初めてお目もじ頂きます」
「いや……たぶん人間は全て初めてであろう」
大神様はそう言うと、恐縮極まりない格好の叔母に言い聞かせるようにした。
「そのように畏られると、わたしも型を外せぬようになる」
「は……?」
「此度は鹿静の婚儀につき、わたしもその方達の事をいろいろと知りたいと思い立ち、こうして足を運んで参ったのだ」
「鹿静さんって、青孤さんと同じ神使ですよね?」
「そうだ」
赤獺が即座に言った。
「……って事は、青孤さんも人間と一緒になれるんですか?」
大神様はとても綺麗なお顔をみことに向けた。
「如何にも……」
「あの青孤がその気になれば……の話だ」
赤獺が突き放すように言った。
「種族が違う故、いろいろな条件はあるが……。まあ、お互いの想いによるところが第一であろうな」
「えっ?愛があれば乗り越えられちゃうんですか?神様のお使いですよ?尊い神様のお使いと人間?」
「ふふ……尊い人間と神使い……と言わぬだけ誉めてつかわそう」
「有り難き幸せにございます」
何故か叔母がひれ伏して言った。
「その方達はかなり傲慢であると思っておったが、それ程でもないようだ」
「傲慢……だなんて。確かに傲慢な人はいますけど、遙一族に傲慢な者はいませんよ」
「なるほど……。太古の昔より、種族を超えた婚姻は数えきれぬほどある」
「人間界なんて、立場や出生で反対されたりするのに、威厳がありそうな神界の方が、 愛さえあれば……的考えなんてびっくりです」
「……遡れば名だたる神が人間と婚姻しておるではないか。立場出生など何の意味があろう……」
「神様がやってれば、使者はOKなんですね」
「何をとやかくと……。青孤に淡い期待を致しても、如何ともならんぞ」
赤獺が意地悪く言った。
「べ……べつに青孤さんとどうにかなろうなんて……」
「よいよい……。互いの想いが深ければ、わたしは叶わぬぞ?」
「大神様この様な者に、何をお言葉をお合わせになられます?」
「赤獺よ。みことが本気であれば、わたしは許すと申しておるは真実である」
みことは大神様が呼び捨てにしたその声音に、大きな胸の高鳴りをおぼえた。