大神様の思い人8
「ああ、あれね。鹿静が大神様に差し上げたの」
鈴音の買い物に付き合わされている。
セレブ婚の鈴音は、それはそれは前以上に綺麗になった。
人妻のなんとかってヤツだろうか、顔立ちの良い方だったが、今では垢抜けて上流階級の奥さま真っしぐらだ。
入る店入る店、聞いた事もない様な高級な店で、みことに手が出る代物じゃない。
「大神様にスマホ?必要ないでしょ?」
「そうなんだけど急に思い立って、差し上げたみたい。それに赤獺さんには、いい勉強になるって……」
「人間の事?」
「さあ?只人間のする事は、やっぱり大きな影響を与えるんじゃない?」
「ああ……均整を取るのにね?」
「そうそう、みこちゃん勉強してるね」
「お仕えしてるからね」
「えーお仕えしてるって、毎日珈琲をお淹れして一緒に飲むだけじゃない?」
「毎日大神様の事考えてるし」
「それはみこちゃんの勝手でしょ?」
「はあ……お仕えもさせてくださらないのねぇ……」
「なんか、みこちゃん暗いね?こういう時は、パッとお買い物すれば気が晴れるよ」
「え?私は無理だよ。此処高いもん」
「大神様の恩恵で、鹿静に買わせるから大丈夫」
鈴音はそう言ってくれたけど、結局一枚だけワンピースを買って貰った。
あとは鈴音が爆買い的に買っていた。……様にみことには見えた、見えただけかもしれないが。
次の朝も、大神様はスマホちゃんに夢中だ。
「昨日鈴音ちゃんと、お買い物に行ったんです」
「ほう?鈴音は買い物好きであるな」
「女なら皆んな好きです」
「さようであるか」
「私も一枚買って頂きました」
「それはなにより」
大神様はそう言われたが、みことに目を向けてくださらない。
「面白いですか?」
「なかなか面白い。為になる事が盛り沢山である。イケてるってヤツである」
やっとみことを見られると、楽しそうに笑われた。
後光がパーと弾け飛んだ感じだ、眩しさに目を閉じた。
……こんな生活してたら、きっと身がもたない……
目を開けて再びスマホを食い入る様に見つめる、大神様を恨めしく見る。
見上げると、木々の間から木洩れ陽が差しこんでいる。
「私って神でも人間でも、こんな扱いされるタイプなのね」
悲しく呟いた。
今迄ときめいた相手は、こうして二人だけで一緒に居てくれた事はなかったけど……。
なんか虚しさは同じ様な気がする。
木々の間から覗く青空は、胸が痛くなる程に青くて高く、白い雲は少し色が付いている雲より、高くあって青い空に近い。
あの青空が大神様なら、青孤は真っ白な雲って所か……少し色が付いているのが鹿静で、どんより色が付いているのが赤獺……。
そしてみことは此処に居て、高嶺の華を拝み見る。
「みこと、ちょっとやつれたんじゃない?」
夕餉の時に母親が心配して言った。
「お仕えが大変……って訳ないわよね。店だって私がやってるし?」
まさか神に恋煩いしてやつれたなんて、口が裂けても言えない。
まあこの母の事だから、へんな男に貢ぐ生活よりも、神に一生を捧げる方を進めると思うけど。
みことは母親の心配をよそに、無言で食事を終えると二階に上がった。
「あんた本当に大丈夫?こんなに残して」
どうせ母親が残飯整理をしてくれる。
トボトボと階段を上るが、なんだか足が重くて上れない。
「はあ……」
やっとの思いで踊り場に立つと、直ぐにある部屋のドアを開けて中に入った。
「ぎゃ……」
みことは悲鳴を上げそうになってやめた。
「え?」
大神様が月明かりに照らされて、美しく浮かび上がられている。
「大神様どうされたんです?」
みことが、ドアの側に立たずんでいるのを見て取ると、大神様はみことの傍に立ち〝壁ドン〟をした。
「へっ?」
「壁ドンである」
大神様はそれはカッコよく壁ドンを、幾度もお決めになる。
「凄くカッコいいんですが、どうされたんですか?」
みことが聞くものだから、今度はみことの腰に手をやって、みことの腰を少し持ち上げられた。
「え?ええ?これって、ドラマとかでよくあるヤツですよね?」
「ドラマあるあるである」
大神様は真顔を作ってみことに言った。




