大神様の思い人7
遙の家系なんて糞食らえだ。
第一かつて、神様から本当にご神託があったかなんて、全くもって何にも残っていないから解らない。
教団とか神社とか、そんなれっきとした証拠があるなら未だしも、只巫女だったかもしれない……。
そこからして〝巫女〟〝だったかもしれない〟から始まる言い伝え……。言い伝えだって胡散臭い。家訓とかならまだしもだ。
そんなもので、貧乏神とか厄病神とかじゃなくて、〝大〟が付く神様が、降臨して来てしまうなんて。
ありなのか?あり得ていいのか?そんな事。
だったら、沢山の信者を抱える教団の人達に、申し訳ないじゃないか……。
たかだか〝かもしれない〟家系のヤツが、神を見るなんて!
それも神使を三神使、その内一神使は眷属神という、またまた〝神〟だから、ほんと申し訳なくて訳が分からない。
そんな事言ったら、ポセイドンにも人魚姫にも会ってるじゃないか?
あとはゼウスかアマテラスか?
みことの思考が、大神様の所為でおかしくなってきた。
大神様が来臨する前は何をしてたろう?
毎日会社勤めをして、イケメンの先輩や後輩にときめいて。
ときめき過ぎて相手にされず……。うう……考えてみれば寂しい日々を送っていたものだ。
鈴音の言う通り先は詐欺にあうか、ホストにハマるか?
確かにそんな結末が待っているかも……。
ポジティブなみことが、どんどんネガティヴになっていく。
大神様が、みことの心中を読めなくなってから一週間過ぎた。
毎日大神様とモーニング珈琲を、朝陽に神々しく輝くお姿を見ながら頂いている。
これがいつまで続くか解らないが、こんな至福の時を過ごさせて頂いちゃ、信仰心の厚い方々に申し訳ない。
………ありがたやありがたや………
心の中で手を合わせていると
「え?大神様」
みことは大神様が似つかわしくない物を、手にしておいでなのを目ざとく見つけた。
「それスマホですよね?」
「そうであるか?」
「そうであるか?ではありません。どうしてお持ちなんですか?」
「ああ、鹿静が私と赤獺にくれたのだ」
「鹿静さんが?……って、大神様ともあろうお方が、そんな物必要なんですか?」
「余り必要とは思わぬのだが、実に面白い!赤獺も珍しく喜んでおる」
「へぇ……。大神様は何が面白いのですか?」
「鹿静が音楽と動画とやらを、使える様に致してくれたが、実に面白い。人間とは実に面白いものである」
みことはちょっと覗き見る様にした。
神様が、こんな物に頼る様になったらおしまいだ……と思いながらも、大神様のお好みが気になって仕方ない。
「こんな物に夢中になって、夜更かししたらダメですからね」
大神様は何につけても、没頭するタイプだと思う。
気に入ったら、神様に関係の深いお水を湧かさせるし、外に興味を持つと飽きる事無くずっと見ているし、毎日珈琲をお飲みになられている。
今もスマホに気がいくと、みことの存在を忘れてしまわれている様だ。
みことはまたまた不埒にも、大神様を恨めしく思った。
思ったところで、もう解ってくださる事もない。
みことの望む事を、叶えてくださろうとも、きっともうしてくださらないだろう。
……あの時、あんなに拗ねなければよかった……
今更悔やんでも仕方ないが、みことは後悔した。
あの時みことは本当に大神様が好き過ぎてしまったから、思いが叶って口づけてくださった事が嬉しかったから、だからちょっとだけ不遜な事に拗ねてしまった。
そんな事をしてよいお方ではない事は、今こうして身にしみる程に思い知って後悔している。
みことは大神様をずっと、目が眩むのを堪えながら見つめ続けてるいる。




