大神様の思い人6
翌日の朝、みことは赤獺のお告げで目を覚ました。
みことはムッとしたまま、赤獺の顔を見ることもせずに支度を整えて家を出た。
「その態度は……何たる態度であろう」
別に一緒に来る事もないのに、傍にあって五月蝿い。
みことは超絶スーパー激おこであるから、キッと睨み付けるように赤獺を見た。
「な……何たる事……」
女の怒りは、雷様より怖いと知っているから、その先を呑み込んだ。
みことは黙って黙々と……。赤獺も大神様も無視して、神泉から引いたという水を汲んで、家に帰って珈琲を入れて、木祠の前に携帯テーブルと椅子を置いた。
「怒っておるのか?」
大神様は朝陽に照らされ、神々しく輝いているお顔を綻ばせて言われた。
「…………」
みことはお返事をする事なく、黙々と珈琲を入れて差し出した。
「其方も共に致せ」
一瞬みことの眉間がピクリと動いたが、自分のも入れて座った。
「みことよ、そう怒るでない。其方の願い通り、其方の心中を読み取る事が、できぬように相成った」
「え?」
無視をし続けていたが、その言葉で一瞬にして心配そうな表情を向ける。
「故にもはや二度と其方を、泣かせる事もない」
「どこかお悪いんですか?」
間髪入れずに問いかける。
「どこも悪い訳ではないが、其方の心中を読み取る事は、二度と叶わぬらしい。故に怒らせる事もなかろうから、怒りを鎮めよ」
「そんな……。この間お腹が痛かったから、どこかお悪いんじゃ……」
「私は実体が無い故、腹が痛いという経験は初めてであったが、有意義な経験であった」
「じゃあ、どうして読めなくなったんですか?」
「それは……。それは解らぬが、青孤も経験しておる事故、心配には及ばぬ」
みことは、穏やかに笑顔を見せる大神様を凝視した。
「そういつまでも凝視致すでない」
「あ、すみません」
慌てるように視線を逸らす。
「では、怒りを納めたのだな?」
「大神様、私は思っている事を読まれていたから、腹が立った訳じゃありません」
逸らした目を大神様に向けて、朝陽に浮かぶお姿で目が眩む思いだったが、其処をぐっと堪えた。
「???」
「そりゃ恥ずかしくて泣きたくなったけど、それが理由じゃないんです。けど、やっぱり恥ずかしいから、本当の事は言いませんけど……」
「…………」
大神様は、みことの言葉を理解しようと努めているが、理解ができない事をもどかしくお思いになられた。
………実に不便であるな……
大神様は呟かられた。
みこととしても、怒っている事事態が不敬な事くらい解っている。
朝陽に照らされただけで、目が眩む程に神々しいお方に、恋心を抱く事が間違っているのだって解っている。
だったら、みことの理想形態で現れないで欲しかったと、そう思う事が繰り言だって解っている。
だけど、こんなに好きになってしまったら、只の能無しみことは、どうすればいいのだ。
みことは恨めしい気持ちで、大神様を凝視しながら珈琲を飲んだ。
「明日から店を開ける前に、こうして二人で飲むと致す故、そのように致せ」
「何時がご希望ですか?」
「店を開ける前でよい。どうせ水を汲みに参るであろう?」
「祠の様子を見に来ますから、どうせ!」
好き過ぎて仕方ないのは自分の方である事は、ちゃんと認めているから言った。
何で大神様なんだろうと今更恨めしい。
余りに釣り合いが取れないじゃないか。
全てのものが崇め拝み奉お方だ。
みことなんてアイドルや男優すら、お近づきすら慣れない存在なのに、神様の上の〝大〟神様だなんて。
みことは呑み終えたカップを持ち帰りながら、天を仰いで大きくため息を吐いた。
生まれて初めて、遙の家系を恨めしく思いながら……。




