大神様の思い人3
翌日、大神様は自ら店にお姿を現された。
店内に居た女性のお客様は騒然となったが、大神様は気に留めるお気持ちすらなく、みことの前までお出でになると
「用がある故一緒に参れ」
と仰せになった。
「はい」
素直に後に従って店を出る。
「其方のこれは、如何したものか、全くと言っていい程良い事はない」
大神様は何故か不満そうに言われた。
「何やら、側にいる者達は騒然と致すし、カシャカシャと騒音である」
「でも、猫男爵だともっとですよ」
「さようであるのか?」
「それこそ、テレビまで出張って来るかと?」
「テレビ?」
「ああ、動画が動く箱です。其処からいろんな分野の専門家が、大神様目当てに押しかけます」
「…………」
大神様は、呆気に取られたようにみことを見た。
「女性群のカシャカシャの方が、まだマシかと……」
「さようか!ならば致し方ないな」
そんな大神様の不平を聞きながら、林の中の木祠へやって来た。
見ると木祠の側に手水鉢が、できあがっている。
「たった今青孤が従者に言付けて、ここに神山の神泉を湧き出してくれた」
「え?」
今日はまだ赤獺が居ないから、大神様とみことの会話に入り込んで来るものがいない。
「この水を使ってコーヒーを入れよ」
「ああ、湧き水で珈琲を入れるんですね?これって凄いですね?」
みことが大喜びなので大神様はご満悦だ。
「では直ぐにこれを持ち帰り、コーヒーを入れて参れ」
「今ですか?」
「今である」
みことは又々子供のように、ワクワク感を露わにする大神様を見た。
昨夜の甘くて陶酔する程の、甘美な面は皆無に近いご様子だ。
みことは惚れた弱みで、可愛く見える大神様の我儘を遂行すべく、大急ぎで水を汲んで運ぶ物を用意して〝神泉の水〟とやらで珈琲を入れて、祠の前に携帯用のテーブルと椅子を用意して、二人でモーニング珈琲と洒落込んだ。
「うん、これは良い。山本の嫁がくれた缶コーヒーとやらも中々であったが、赤獺の言う通り美味である」
「そう言えば、赤獺さんは?」
「なんと申したか?午後から出勤とやらである」
「午後から出勤?重役出勤ですか?大神様を放ったらかして、罰当たりじゃないですか?」
「鹿静が傅いておったが、なにせ新婚さんであるから、またみことに小言を言われては叶わぬから、嫁に傅くように申して帰した」
「わ、私は小言など申しておりません」
「其方の心の内が申しておったのだ」
「あ?」
みことは急に顔を赤らめて恥じ入った。
「如何いたした?」
「大神様笑いを堪えて、聞くのはやめてください」
「はは……。よいよい。其方の意のままに致すがよい」
「そのお言葉って、そういう意味だったんですね?」
「他にどのような意味がある?」
「それはそうですけど……って事は、車に乗っている時からですか?ずっとですか?外を見てるふりなんかして?」
「黙っておると其方の心中を計り易いのだ」
「じゃ、じゃあ、ずっと喋っててください」
「そういう訳にもいかぬ」
「うっ、どうすれば解らなくなるんですか?」
「如何して解らぬように致すのだ?かなり便利であろうに?其方の意のままであるのだぞ?」
「だってだって……凄く恥ずかしいし、私が思ってるからその……するなんて……」
「其方の望む事は、全て叶えてやりたいのだ」
「だったら何を私が望んでいるか、お解りになりますよね?」
大神様はみことをじっと見つめられた。
「…………」
大神様は困惑の色を浮かべて、みことを見つめ続けている。
「もういいです」
みことが涙を浮かべて立ち上がった。
しかし大神様は、何も言うことができずに見つめ続けた。
「みことよ……」
大神様は走り去るみことの手を取ろうとされて、その手を静かに引いた。
「其方の心中が読めぬようになったは、如何してだ?」




