大神様の思い人
「其方は買い物に行かずともよいのか?」
大神様は海が見える公園のベンチで、みことの膝枕で横たわられながら言われた。
「あ?私はいいんです。海神様の所から、豪華なお品をお土産に頂きました」
「なんと豪華な品とな?」
大神様は身を起こそうとしながら言われたが、やはり具合が悪いのか、再びみことの膝に頭を乗せられた。
鈴音がお買い物に行きたいと言ったので、鹿静は大神様とみことを、それは雰囲気のいいデートスポットである公園に置いて、鈴音のお供で一緒に出掛けた。
鈴音の計らいであるか、真の目的であるか定かではないが、とにかく夢の様な光景と相成った。
鈴音様々である。
ところがベンチに腰掛けると直ぐに、大神様は
「腹が痛い」
と仰せになった。
海神様からそれはそれは手厚いお持て成しを頂いて、大好きなお酒も召し上がり、海の幸を堪能されておきながら、この手前の交差点で車が並んでいる光景を、それは目敏く見つけられ
「鹿静。あれは何だ?」
と問われた。
「ああ、あれはファーストフードです」
鈴音が即答する。
「ファーストフード?如何な物か?」
ご多分に洩れず再び問われる。
「客の注文に応じて、すばやく出せる料理の事です」
「それはまた神業と申す物であるか?」
興味津々となられてしまった。
「大神様。先程海神様の宮で、豪勢なお持て成しを頂いたばかりにございます」
鹿静が運転しながら、言い聞かせる様に言う。
「そうです。私達もう食べられません、ね、みこちゃん?」
連携プレーの鹿静夫婦が言うが、大神様が〝致せ〟と言われれば従わなくてはならない。
鹿静は仕方なく車をUターンさせて、並んでいる車の後に付けた。
「車に乗車致したまま、購入できるのでございます」
鹿静のため息の様なものが、聞こえた様に思えた。
大神様以外の三人は飲み物だけを購入した、大神様は鈴音のお勧め品を購入した。
「これは美味であるな!」
大神様は一口されると大喜びで言われた。
「流石は鹿静の嫁である」
お口にソースをつけられて、あどけないの一言だが
……果たしてこれで良いのか?大神様たるもの……
といった、皆んなの心配は当たって、大神様は腹痛を訴えた。
……マジか……
みことの心中だが、流石に何も仰っられない。
とにかくベンチに横たえて、みことが膝に頭をお乗せする。
「これはなかなか良いな」
長身の大神様は、物凄く体を縮めて言われた。
「…………」
みことは、実体として理想形態の大神様のお姿を拝見はできるものの、実際に触れた事が無かったので
……触れるんだ?……
正直な驚きである。
大神様は、暫く暗い海面をじっと見入っておられたが
「みことよ。海神の元より持ち帰った〝豪華〟な品とは、如何な物であるか?」
海を見続けながら言われた。
「あー。真珠の首飾りと珊瑚の首飾りです」
「それが豪華な物であるのか?」
「凄く豪華ですよ。だって凄く良い物ですもん」
「良い物?」
「高価って事です。うちで買える代物じゃありません。真珠は叔母に上げようと思うんです。あの人〝持ってる〟から……」
「言っている意味が解らんな」
「持ってる人って真珠持って、何か映し出して見てません?」
「それは水晶であろう?あれには偶にだが、神力が入り込む事があるからな」
「え?真珠じゃないんだ?……ずっと気になってたんですけど、今日大神様は〝豪華〟って言葉に、気になる程力を入れますよね?」
「其方達は豪華が好きなのであろう?」
「豪華……っていうか、綺麗な物は好きですけど?あんまり豪華過ぎるのは……」
「しかしながら、海神の宮を殊の外気にいっておったではないか?あのような所に住まいたいのであろう?」
「ええ?あんな豪華な所、三日と住めませんよ」
「なぜである?」
「だって、目がくらくらしちゃいますよ。住むんだったら、やっぱり〝うち〟が一番です」
「そうであるか?」
大神様は、しげしげとみことを仰ぎ見て言われた。