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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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海神様9

「其方と人間とは深い関わりを持っておる。其方は大きな力を持っておるが情も厚い。故に私は其方を一番に頼りと致しておる」


「有り難きお言葉にございます」


「確かに私は若く、何事も其方達経験深いもの達に教えを請わねば、何もできぬ身であるが、それ故に信ずるに足るものは大事に致す。断じて其方達が困窮致す様な事は、避けて行く所存である」


 海神様は若く飄々としているが、どこかつかみ所のない大神様を見た。

 大窓に夢中になる様など、まだあどけない一面を持っているのに、先程の身も凍りそうになるあの視線は、勇猛果敢であった前の大神様より恐ろしさを感じさせた。

 大神様は誕生の時から大神だ。

 確かに小さい時はあるが、力は他の神のそれとは比較にならない。

 特にこの大神様は、小さい時から他の大神様よりも、力が比べ物にならない程に強力だった。

 海神様も、一度だけ小さな大神様を見た事があるが、それは今まで見た事もない程の神力の塊でできていた。

 これは先々、どの様な〝もの〟と変化するのかと、思ったのを覚えている。

 代替わりしてから会うと、やはり一廉の〝もの〟ではなかったが、穏やかさとあどけなさを持ち合わせ、大神たる立ち振る舞いもない、親近感を与える大神様となっていた。

 確かに先程言われた様に、若いからと少し軽んずるところは、あったやもしれない。

 海神様は今一度気を引き締める思いで、若く一廉ならぬ大神様を見た。

 確かに海神たる己が仰ぎ見ても、後光が眩ゆいばかりにさしておいでだ。


 ……ひれ伏すに値するお方だ……


 海神様は恥じ入る思いで、一心に海中に目をやる大神様を見つめた。


「海神様……」


 海神様は従者に呼ばれて視線を向けた。


「大神様、宴の準備を致しておりますので、ゆるりとなさっておいでください」


「さようであるか?では、共の者達を此処で待とう」


 大神様はとにかく、海中の景色を楽しまれている。

 海神様は、軽く会釈すると従者と共に、急いで大広間を後にした。


「みことと其方の嫁を海神に引き会わせておいたから、何かあっても気をきかせてくれるであろう」


「その為に此方にあの者達を?」


「鹿静よ。其方の嫁も、今生では加護を与えたい」


「有難き幸せにございます」


 鹿静は深く頭を垂れた。


「私は其方達が望めば、青孤の嫁の様に神山で永遠に睦まじく、暮らしても良いと思うておる」


 大神様はチラリと鹿静をご覧になられたが、鹿静は微塵たりと動く事なく頭を垂れている。


「しかしながら、其方は()()を望まず、今生だけの縁と考えておる……」


「大神様、有難きお言葉ではございますが、()()は、青孤の嫁とは違います。青孤の嫁は稀有なる者。しかしながら、()()は、業が深いのです。とても神山の暮らしには、落ち着けませぬ。神泉に身を投げるが落ちでございます」


「ふーむ」


 大神様はしかと考え込まれた。


「確かに青孤の嫁は稀有な女子(おなご)であるが、其方も私に仕えて長い。神使の中にあってかなりの〝力〟も保持しておる故、そろそろ眷属神も許そうかと考えておる」


 そのお言葉に鹿静は、平身低頭その場でひれ伏した。


「有難きお言葉にございます。ならば、尚更のこと神山には連れ行けませぬ」


 大神様はじっと鹿静を見つめられた。


「……さようであるか?其方の父御母御も、気に入っている様であったが……」


 鹿静は再び動くことなく、ひれ伏したままでいる。


「ならば、今生のうちに其方があの者の、教育を致し直せ。あの者の今生が終える時に、今一度二人で話しおうてみよ」


「大神様……。その様に参りましょうか?」


 鹿静はとても不安げに頭を上げて、大神様を仰ぎ見ながら言った。


「其方の加護ではない、私の加護があるのだ、()()()()()なかろう?」


 大神様は微笑まれると、長年の神使を慈しむ様に見られた。


「有り難き幸せにございます」


 鹿静は額を、床に擦り付けてひれ伏した。

 

「もうよい。早う立て……」


 大神様は立ち上がる鹿静を、呆れ顔で正視された。


「其方ともあろうものが涙ぐむとは……」


「これは失礼を……」


 鹿静は目頭を押さえやって言った。

 

「青孤といい其方といい情の濃いことよ……」


 小さく呟かれた。




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