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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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海神様8

「此処は豪華でよいな」


 大神様は宮殿の中を見回しながら、海神様と並んで歩いて言われた。


「宮殿は私の自慢ですからな」


 海神様はご満悦な表情を見せて言った。


「うむ……。実に良い、其方の栄華を誇っておる」


 大広間に着くと、そこは一面にガラス窓が広がり、魚達が泳ぐ美しい景色が一望できた。

 大神様は目を細め、その景色に心を奪われておいでだ。


「しかしながら、昨今の海の様子は、憂慮に堪えぬな」


「妃を娶り子を増やしておりますが、なかなか思う様には参りませぬ」


「うむ……難儀をかけるな……」


 大神様がそう労われたので、海神様はいたく感動された。


「畏れ多いお言葉にございます」


 身を一歩引き辞儀をした。


「海中のもの達が減っておる故、この宮を切り盛りするもの達も減っておろう?」


「はい。どうにか賄える程にございます」


「さようか……」


 大神様はそう言うと、じっと大窓の外へ目を向けられている。

 辺り一面に広がる珊瑚礁が、宮殿の灯りを浴びてそれは美しく輝いている。

 それを見つめる、端正で穏やかなお姿がそこに在る。

 海神様はしみじみと、若く美しい大神様をご覧になり


「大神様……代替わりなされて、お変わりになられましたな」


 と言った。


「さようであるか?」


 大神様は尚も外で悠々と泳ぐ、魚達を目で追われている。


「先代様の折には、果敢に鬼やら魔物やらを退治しておいでで、我が宮殿をこの様に堪能してくださる事はありませんでした……」


「確かに。あの頃は魔物達も、沢山蔓延っておったのであろう。しかしながら、先代は確かに、討伐征伐をお好みになられたようだ……」


「勇猛果敢な大神様であられました」


 海神様がしみじみと言った。


「ああ、戦う事を好まれた……。海神よ、ならば私は如何変わった?」


「穏やかにおなりで……」


「ふふふ……今の世は魔物も鬼もおとなしくしておる、討伐も征伐も致す必要がない……」


 大神様は朗らかに笑われて言われた。


「しかしながら、海神はその討伐征伐に興味があるのではないか?」


「私が?その様な事は……」

 

「全盛期、其方の誇る精鋭部隊は、天地を破るほどの勢いがあった……」


 大神様は視線を移す事なく、含みを持って言われた。


「それは……。かのかの昔の事、今の我らにその様な力がある筈はございません」


「確かに……。しかし近頃はかなり、海が荒れる事が多いとか?」


「だ、誰がその様な事を……」


「只の噂である」


 大神様はそう言われると


「海神よ。私は以前厳格な神であった」


 宮殿の窓から見える、それは美しい海の景色を眺めながら、表情を変えて言われた。


「故に皆から煙たがられ、三千年程幽閉された事がある」


「…………」


 海神様は押し黙って聞いている。


「其方も存じておろう?」


 尚も押し黙ったまま俯いた。


「代替わりを致したが、私はそれを忘れてはおらん。無論先代のご気概もである……」


 大神様はそう申されると、押し黙る海神様を直視された。


「厳しさは時より仇となる故ほどほどと致した。しかし海神よ。其方はなかなか私の意とする所を、汲み取ってくれぬ事がある。私は今も申した通り、ほどほどと致したいのだ……。其方の立場は重々理解致しておる、難儀をかけ申し訳ないと常々思うておる、だがしかし私が思う以上にされては、私の面目は立たぬではないか?それを其方は幾度となくやっておる。先代の時もそうであったか?それとも私が若い故に、軽んじて致しておるか?」


「め、滅相もございません。大神様を軽んずるなどと……」


「ならば今回の件も、私が判断を下す迄は、如何なる事も致さぬと申すのであろうな?」


「は?」


「如何なる事も致さぬのだな?私が命を下す迄は……」


 大神様は切れ長の瞳を、きつく睨むように向けられた。

 大神様はお若くて遥かに海神様より年下だが、海神様が一目置くお立場のお方だ。


「無論、大神様の命に従う所存でございます」


「ならばよい」


 大神様はそう言うと、再び大窓の外に目を向けられた。



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