海神様5
「これはこれは……」
赤獺は車を見て呆れ果てている。
何と鹿静は昨日の今日で、高級車を用意して来たのである。
「赤獺。今日は私に任せて、ゆるりと過ごせ」
鹿静がそう言うと、赤獺はびっくりして大神様を見た。
「今日は赤獺はゆるりと致すか?」
大神様は呑気に言われた。
「かないますれば……」
赤獺は、久しぶりのお休みにわくわくを隠せずに言う。
大神様のお使いになってから、ずっとお側に居るから休む間もない。
大体神使はお使いがお役目だし、他のお役目を仰せつかったとしても、これ程べったりお側に居ることは余りない。特に大神様は、寝るときもお側に置かれるし、体調を崩されたりもしたから、赤獺はずっと大神様のお側に仕えているのだ。
流石にちょっと自由な時間が欲しい、と思うのは不埒だろうか?
「ならばゆるりと致すがよい」
赤獺は畏まって礼をした。
「明日昼からでもいいぞ……」
鹿静がこっそりと囁いた。
「それはありがたい……」
赤獺はそう言うと、スッと消えた。
「鹿静よ。赤獺にゆるりとする時間を、与えねばならぬか?」
「大神様。赤獺はお仕えして間もありません。私の様には参りません。まして青孤の様には……」
「ふむ。あれは五月蝿いくらいであるからな」
大神様は、気にも留める様子もなく言われた。
そんな事をしている内に、鈴音がみことを連れてやって来た。
みことは大神様とお出かけできると、昨日鈴音から連絡をもらいウキウキだ。
「凄い車だね!」
みことがびっくりして鈴音に言った。
「ああこれ?大神様をお乗せするのに、汚い車って訳にいかないから……」
「ちょちょちょいと新車を購入致しました」
鹿静が大神様に言った。
「えーちょちょちょいと?」
みことが呆れる様に、どう見たってドヤ顔の鈴音を見て言った。
「大神様のお為よ。大神様の……」
「ほんと〝力〟凄いよね」
計り知れない〝力〟の強力さに、圧倒されそうになりながら乗車する。
「鹿静さんって、人間の、運転免許証持ってるんですね」
「鹿静は此処に長いから、何でもできるのよ」
車は驚くほどの振動の無さで出発して、走っているのかどうかも解らない程だ。
「えっ?鹿静さんて長いんですか?人間世界?」
「人間世界?ああ、半世紀程かな?その前は彼処の神祠に居たから」
「彼処の神祠って、裏の森林の?大神様もですか?」
「そうであるな……。彼処はなかなか良い所であった」
大神様は、外の景色に気を取られながら言われた。
「大神様が代替わりと成られたので、私もいろいろと忙しくなって……。まあ今に至っているわけ」
「へえー。鹿静さんもあの祠に?」
「無論ご一緒致した」
「彼処って、めちゃ狭そうですけど?」
みことの言葉に大神様が、ピクリと反応を示された。
「みことも豪華なのが好みであるか?」
「豪華?……って言うより、大神様おひとりでも狭そうじゃないですか?」
「中は至って広い……っていうか、空間だからね」
「くうかん?」
「祠の人間が見えるその先には、いろいろな所に繋がる空間が広がってるんだ」
「そんな空間に、どうやって大神様はお座すんです?」
「どうやって……と言っても」
「みことよ。前にも言うたが私は実体がないのだ、如何様にもなる」
「???でも鹿静さんは実体があるんでしょ?どうやって鹿静さんは、あの祠に居たんです?」
「鹿静は神使である、仕える時には如何様にもなる」
何故か大神様はムッとなされた。
「みこちゃんは、昔から気にしなくていい所を気にするんです。これでいつも失敗するって言うか」
「失敗?」
「し、失敗なんてなんにもしてません」
みことは慌てて否定した。
鈴音が事あるごとに、高校生の時の事を引き合いに出すのを知っている。
女子高生の頃からイケメンにうつつを抜かして、相手にされてないなんて、流石に知られたくないじゃないか……、鈴音ちゃん!




