海神様3
「鹿静よ。其方は先程〝豪華〟を好むと申したではないか?」
「人は豪華を好みますが、禍の元となりますれば、余り豪華過ぎるは成りません」
「ふーん?面倒であるな」
「人間が望む物は、大神様には必要のない物ばかりにございます」
「ふーん?仕えるみことに恩恵を授けたいが、何がよかろうか?」
「あの者に恩恵でございますか?」
隅の方で静かに佇んでいた赤獺が、不服げに言った。
「何やら不服げに申すな?」
「いや……。あの者は何も解らぬし、何一つお役にも立っておりませぬのに?」
「何も解らぬやもしれぬが、役に立っておらぬ事はない」
大神様はおおらかに言われた。
鹿静はこの様に昔から、何を考えているのかさっぱり理解しがたい大神様だが、みことが大神様に好意を持っている事は、鈴音に聞いているので
「大神様が一緒ならば、喜びましょう」
と言った。
「一緒?」
「何を致そうと、大喜びでございましょう」
「喜ぶのか?何を致せばよいか?」
「何をしてもよいかと……」
大神様は眉間に皺を寄せて、鹿静をガン見される。
「何故もう少し解り易く申さぬ?」
「解り易くと申されても……。あの者の思う事は、我らでも解りますゆえ、大神様ならば一目瞭然やと?故に、あの者の望む事は簡単かと……」
「ほほう?あの者の望む事を、聞き取ればよいのか?」
「あの者は心中を直ぐに、吐露致しますからな」
赤獺は吐き捨てる様に呟いた。
「なるほど……」
大神様は、至極納得して頷かれた。
「大神様、こういうのは如何でございましょう?」
赤獺が珍しく進言する。
「赤獺珍しいな、其方妙案があるか?」
大神様は嬉しそうに言われた。
青孤は幼き頃より、お目付役であった為頼りにしている。
鹿静は幼少の頃から仕えているので気心の知れた仲だが、赤獺は此度の件で共をさせたばかで、遠慮というか気軽に話しかけてくる所がないので、気に掛けておいでだったのだ。
「鹿静達と出掛けるというのは、如何でございましょう?嫁はあの者の友でございますし……」
恐る恐る申し上げた。
「赤獺!」
鹿静が大声を出した。
「出掛ける?それは良い考えであるな」
意外な事に大神様は、乗り気で赤獺に微笑まれた。
「此処にこうしておっても、致し方ないと思うておったのだ。いろいろ問題提起されておる事柄がある故、出歩いてみるもよいやもしれぬ」
大神様は大乗り気でいる。
「しかしながら大神様」
鹿静が再び言った。
「以前、鹿静の婚儀の折に不覚を取ったが、やはりしかと我が身が体験致するは面白い、此処は実に面白い事だらけである」
若いだけあって、好奇心は旺盛だ。
「ならば、街中を探索致すとしよう」
大神様は、瞳をキラキラとさせて鹿静を見た。
「鹿静の婚儀の折に、外の世界がキラキラしておったのに、心を捕らわれ気になっておったのだ」
……それ故に、外にお出ましになられ、倒れられておったのか……
鹿静と赤獺が思った事だ。
「そうか……。それは妙案であるな。赤獺流石である」
大神様はそう言われると、神使二人を見られた。
「鹿静よ。明日は楽しみであるな」
「明日にござりますか?」
異口同音で言う。
「善は急げである。鹿静よ任せたぞ」
「鹿静よ。明日参るのか?」
自分で振っておいて、赤獺が言う。
「いや……明日か?……」
鹿静は困惑の色を隠せない。
なんといっても、恐れ多くも大神様だ。
大神様が〝明日〟と申されたならば、余程の理由がない限り、又は大神様を納得させる理由がない限り、〝明日〟なのだ。
〝行う〟と申されたならば〝行く〟のだ。
仮令これが、若くてまだものをよく知らなくて、無頓着で変わりものの、大神様であられてもだ。
「致し方ない。とにかく明日迎えに参る」
「さようか……」
鹿静は頭を抱えながら、姿を消した。
神々様方のご巡察は、過去にも幾つかされている。
人間だけではなく、様々な生物や植物自然な事を見廻る事だ。
その時の神様により、人間になられたり、動物植物になられたり、そのまま実体が無いままと様々だ。