海神様2
みことは、鈴音ちゃんの言葉が気になって仕方ない。
学生の頃から、鈴音はみことが高望みする相手に、夢中になるように油を注ぐ様な所がある。
己で意識しているのか、はたまた無意識なのか……。
それは自分でも分からないのかもしれないが、その気にさせられて行くみことこそ、いい面の皮ってヤツなのだが、それを解らないからみことは哀れだ。
故に学生の時の相手にもいい思い出はないのだが、高校を卒業して鈴音と別々の大学へ行っても、結局のところ相手にされない相手ばかり追っかけていた。
まあ、相手にされず正解だったという感はあるが……。
「何?大神様の初恋の相手が、青孤の嫁だと?」
事もあろうに、またまた赤獺に聞きに行くみことは、かなりおバカさんだ。
みことにしてみれば、赤獺しか聞く相手がいないから、仕方ないといえば仕方ないのだが。
「それは一大事な……」
赤獺は暫し考える素振りを作っていたが、小さく呟いた。
「え?」
「いや……」
「赤獺さん、気になるじゃないですか?」
「いやいや……しかし……?」
赤獺は神妙な面持ちで、マヌケなみことを直視した。
「もしもそれが実まらば、些か厄介な事になる……」
「え?」
「其方には解らぬやもしれぬが、大神様の目に留まり望まれれば、仮令我ら神使の妻娘であっても差し出さねばならない……」
「???」
「大神様が望まれればであるが……」
「え?ええ?」
「……しかしながら、青女は青孤がぞっこん惚れ抜いておるからなぁ……」
「ちょ……ちょっと待って赤獺さん。大神様は青孤さんの奥さんを、望まれてるんですか?」
「幼き大神様の思いが、今こうして此処に滞在し人間に固執するに至っておるという事は、大神様として立派になられた今や、望まないともかぎらぬ」
「ええ!大神様が、青孤さんの奥さんを?」
……それってそれって、横恋慕ってヤツ?……
おバカなみことは、それに輪を掛けておバカな赤獺の愚かさに気づかない。
第一みことが赤獺に何を確認したくて、質問したのかを、何処かに置き去りにしてしまっている。
赤獺はちょっと蒼白になって、慌てて姿を消した。
……みことはかなり落ち込んだ。
大神様の初恋の相手が、いたというだけでもショックなのに、その相手を未だに〝横恋慕〟していようとは……。
みことは、今まで〝これ〟で失敗している事すら解らない、おバカさんだ。
「近頃青孤が来ぬ様だが、如何致しておる?」
大神様は、木祠にご機嫌伺いに来ている鹿静に言われた。
「はて?御用に多忙なのでございましょう」
「さようか?此処の所私を心配して、五月蝿いくらい参っておったに……」
大神様は、片隅で静かにしている赤獺を、チラリと見られて言われた。
「赤獺よ。何か聞いておらぬか?」
「いえ……私は……」
赤獺が身を縮めて言った。
「さようか……」
「此方に参る様申し伝えまするか?」
「ああよい。あれは、何かしらと五月蝿いから、来ぬのならその方がよい……」
大神様はそう言われると
「そう申せば鹿静よ。其方も如何であるか?」
鹿静をしみじみ見つめて言われた。
「は?」
「新婚生活とやらである」
「いやいや、特別これと申す事は……」
鹿静は照れる様に、大神様のつぶらな瞳を避ける仕草を作った。
「さようか?人間と生活するに、この様な空間ではいかぬとか?」
大神様は、何も無い木祠の中を指差して言われた。
「それは……いきませぬ。居住致す所が豪華な事を好みます」
「豪華?」
大神様は首を傾げられて、考える様にされた。
「みことの〝家〟は豪華ではないのか?」
「普通にございます」
「普通?では店は?」
「まあ、普通にございます」
「豪華ではないのか?青孤にしては、手落ちを致したな」
「いえ。みことの〝家〟というか、生活は至って標準にございます。あのくらいが一番良いのです。さすが青孤と言うべきにございます」
鹿静が言うと、大神様は合点がいかぬという顔を作くられて、鹿静をまじまじと見つめ続けられている。




