心して仕えよ4
それから遙一族はそれはそれは大騒ぎになったのだが、その後待てども待てども、神使の青孤は大神様のお言葉を伝えに来る事はなく……。
みことは喫茶店をやっていて、常連さんと楽しげに話しをして毎日を過ごし、下手をするとその事を忘れてしまいそうになる。
以前会社勤めをしていた事が夢のように思えてくる。
一ヶ月後といっていた鹿静という人?もの?の結婚式が近づいている筈なのだが……。
まあ……。
期待満々の一族には申し訳ないが、このまま面倒な事がないまま、棚ぼた的なこの状況も悪くないかも……なんて、甘い考えが頭をもたげ始めた頃……。
シャリーンシャリーンと心地よい音色と共に、大大好きなお顔の持ち主の青孤が、再びみことの眼前にシルエットとなって立っていた。
「随分遅かったですよね?」
みことが言うと、ポッポッと薄灯りを灯した青孤の顔が、相も変わらず美しく浮かび上がった。
「大神様は代替わりをされて日も浅いので、いろいろと多忙に追われておいでになったのだ」
「えっ?代替わり?神様って永遠のものじゃないんですか?」
「我々の寿命も神々様の寿命も永えのものではない。その方共のように儚いものではないだけの事」
「あ……そうなんだ……」
「そうなのだ」
「……じゃ、どのくらいの寿命なんです?」
「う……ん?どのくらい?」
青孤は整った顔を少し歪めるような表情を作って、真剣に考える素振りを作った。
それがまたなんと格好のいい事か……。
思わずみことが見惚れていると……。
「その方共よりも遥かに永い時ではある」
青孤はみことを覗き込むようにして言ったので、みことは赤面して視線を避けた。
「明日大神様はその方の元に参られる」
「えっ?明日ですか?なんの準備もしてませんけど?」
「その事だが、大神様が参られてから、直にその方にご指示されるとの事である」
「直に?」
「大神様も代替わりされての事なので、今までの慣習は無用との事と相成った」
「えっ?じゃ、青孤さんはもう来ないんですか?」
「うむ。大神様より重要な使命を仰せつかった故、お伴には別のものが参る」
「ええ〜」
みことは全身の力が抜けるようにヘタレ伏した。
「い、如何致した?」
青孤は大慌てでみことに近づいた。
「う……残念です……」
「全くその方は……」
青孤は呆れたようにみことを見つめると、狐顔を綻ばせて微笑んだ。
「あ!考えてる事分かっちゃいました?まじかぁ……ちょっと恥ずいんですけど……」
「何れ近いうちに真のご神託を頂く事となるだろうが、その方共の今生は、かなり危ぶまれる所まで来ておる。それ故、わたしも重要なお役目を頂く事となった。わたしとて、お若き大神様をその方におもてなしさするは、実に実に心配なのだが致し方ない」
「えっ?大神様って若いんですか?」
みことは跳び起きて青孤ににじり寄った。
「代替わりをされておいでだからな」
「……と言っても、ですよね……」
「まったく、何をガッカリしておるのだ……。真に何故その方を選ばれたのであろう……」
したり顔で優しい声音の、イケメン青孤さんに会えなくなるので、とってもとっても残念で仕方ない。
「お伴のものは、わたしよりもイケメンやもしれぬぞ」
「えっ?まじ?」
青孤はみことの表情の変化を楽しむように笑んだ。
「ご神託を頂く者は、なかなか良縁に恵まれぬものだが、その方を見ているとその理由を理解致す事ができた。有意義であった」
「えっ?どういう意味です?えっ?良縁に恵まれないですか?青孤さーん」
青孤の姿は消え、薄く照らしていた灯りも消えて、暗い部屋の中でみことは青孤の言葉を反芻していた。