青孤の嫁取り19
青孤は一瞬大きな青い美しい毛並みの〝あお〟の姿を見せたが、愛しい熊女の唇を求める瞬間に、美形の青孤となって顔を近づけた。
「私も、人間の子供を作る作業とやらをしてみたい」
「意味が……」
熊女は強く唇を吸われて、息もできない。
青孤は手慣れた様子で、熊女の襦袢に手を掛けた。
「青孤」
熊女が羞らって青孤の名を呼んだ。
瞬時、青孤は思いっきり、熊女の襦袢をはだけさせた。
大きな体格だが、筋肉が引き締まってとても綺麗な身体が、真新しい布団の上に浮かび上がった。
「灯……灯を消しておくれ」
素直に灯を消した。
神使の子を残す行為と、人間のそれとは違うところがあるから、そこのところは、そつの無い青孤である。熊女と添い遂げると誓った時から、事前に調べてある。
それは一族の期待を背負っている眷属神としての役目と、夫として妻に満足を与えねばならない義務感からである。
……というのは建て前で、神使といえども眷属神といえども、愛した女がいれば、助平心も下心も湧き上がるというものだ。
まして青孤は神使としてはまだまだ若く、血気盛んって年頃だ。
よく一緒に住んでいて、我慢ができたものだと自分を褒めている。
眷属神として、眷属の貴公子として対面をひたすら保った感がある。
ゆえに、やっと自分のものとなるのだから、それは強引に身勝手に愛する女を手に入れる。
熊女が陶酔の絶頂に達したと見た青孤は、身を起こして着ている物を全て脱ぎ捨て、思いっきり愛おしい新妻を抱きしめた。
身体がデカく怪力の持ち主で、事あるごとに青孤の非力を馬鹿にするが、青孤は熊女が愛おしくて堪らない。
たぶん初めて熊女を見た時から、心は囚われていた。
青孤の一目惚れである。
まだ恋愛などにうつつを抜かした事がないから、その想いは歯止めがきかないものになっていった。
激しく熊女に惹かれた。
それは今も変わらない。悔しいが熊女の〝それ〟とは、比べ物にならぬ程に、青孤は熊女に夢中なのだ。
「熊よ、もう少し力を抜け……」
青孤が耳元で囁く。凄く甘く優しく囁く。
……これが男というものか……
熊女は素直に力を抜いて、青孤を受け入れた。
熊女としても、これ程に愛されたのは初めてだ。
自分の様な者は、深く相手を思う事はあっても、愛される事は無いと思っていた。
だから、漠然と幼馴染みと所帯を持っても、違う男と添う事になっても、自分が全てを捧げ尽くす人生だと思っていた。
だからこんなに美しい眷属神が、想いを寄せてくれる事が不思議で仕方ない。
これは夢ではないか……と今も思う。ある日ハッと目覚めて、全てが消えているのでは……と、そう思っては怖くなる。
どのくらい時が経ったのだろう……。
熊女は青孤の腕の中で目を覚ました。
あれから幾度青孤を、迎え入れたか覚えていない。
しかし本当に求められ、愛されたと実感できた。
それ程までに青孤は、激しく求めた。
熊女の己の全ての劣等感が、消滅する程に……。
青孤は寝顔も美しい。
この美しい姿を見られるのは、自分だけだと思うと顔が綻びる程に嬉しい。
「もう少し寝ていよ……」
青孤は目を開ける事もなく言って、熊女の身体を抱き寄せた。
「青孤、身体が鍛えられたな」
「私は前から鍛えられておる。あの時は弱っておったから、ひ弱に見えただけだ」
「鍬も上手く使えなんだのに?」
「今では其方より上手いであろう?神力が無くとも其方を抱ける」
青孤はそう言うと、半身を起こして熊女を覗き見た。
「もう一度致すか?」
「ああ……もう勘弁しておくれ」
熊女は甘える様に抱きついて言った。
「致し方ない……」
青孤は熊女を再び抱き寄せて横になった。
「明日は田に行ってみよう。穂がなっておる頃であろう……」
青孤と熊女は、目を閉じて眠りについた。




