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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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青孤の嫁取り18

「せ、青孤がそうしたいのなら、私は構わぬ」


 そう言って熊女は大粒の涙を流した。

 悲しくて恨めしくて、ポロポロと涙が溢れ出る。

 それを見て慌てたのは、熊女を第一に大事に思う青孤だ。

 びっくりして


「よい!其方が残したいと思うのであらば、沢山残そう。この山の様に沢山残そう……」


 と言った。


「よい。青孤が要らぬというなら要らぬ」


「いや……要らぬのではない。今生には置いて行きたくないのだ」


「………?意味がわからない」


 熊女は大声を出して、泣きじゃくり始めた。


「どうせ私の様な者との子は、残したくはないのであろう?」


「な、なにを……。其方とは一族を賄える程の子を望んでおる」


「その様な言い訳はいらん」


「……いらん、ではない。ただ今生に残せば、其方は我が身よりも早死な子供達を、天泉から覗き見るようになる。親も早くに亡くした其方が、その様な情景を見るのかと思うと、私は心が痛いのだ」


「???言っている意味が……?」


 熊女は泣きじゃくりながらも、青孤を見つめて言った。

 鼻に掛かった声が実に可愛らしい。


「ゆえに……。其方は今生で生を終えたら、私と共に神山に逝く事になる」


「どうして?天に昇るのだろう?ああ!天に昇るのは、神山に昇る事なのか? 」


「いや違う。其方は私と縁を永遠に結んだので、今生を終えると、私と共に永遠に近い生を共にするのだ」


「???」


 熊女は、泣くのをやめて考え込んだ。


「私は死なないのかい?」


「その身体は老いて今生で朽ちるが、大神様が称号を下された故、そのままの姿で神使女房として、生を受けるのだ」


「神使女房……。ああ、そんなようなものを賜った……」


 熊女はじっと青孤を直視した。

 

「……で、私はどうなるんだい?」


 熊女は此処で青孤と死ぬ迄、所帯を持つものだと思っていた。が、どうやらその先があるようだと、今更ながら知った。

 ……ようだと、青孤も始めて知った。


「熊……。もしかして、其方は私がはるかに、年かさである事を知っておるか?」


「以前にも聞いた事があるように思うが、どう見ても年下にしか見えぬ」


「なるほど……」


 青孤は大きくため息を吐いた。

 

「私は神使としては若いのだが、人間の年で言うたら……はて?何才になるのであろうか?あの孤銀が二百才?三百才?いやもっとか?」


 ぶつぶつと年を数え始めた。


「ええ!あの子供の孤銀が?」


「確かに子供なのだが、数百才なのだ……」


 熊女は、再び身動きできずに考え込んだ。


「つまり、それだけの生を得ておる。そして其方もいずれそうなる……。だが、今生に子を残せば、私の血は段々と薄くなるし、今生の子は人間と同じ生しか得られぬ。私の血が濃く出て長らえたとしても、たかが知れておる。それが自然の摂理であるから致し方ない。故に私はずっと考えておったのだ、今生には子は残さぬようしたいと……。しかしながら、熊が欲しいと申せば残して参ろう?」


「青孤……私はどちらでもよいのだ。青孤が私との子を望んでくれるならば、何処で産もうが変わりない」


「熊……。我が一族にとって、其方の産む子は特別な意味が有る」


「ああ、お母君様から伺った」


「故に今生には残して行けぬ。その子達も連れ帰るように望まれるであろうが、今生に産まれし子は今生に……。それが自然の摂理である。私はそう考えてしまうのだ。今生で産まれた子は、人間として生きて欲しい。人間は其方のように立派な生き物であるゆえ……。だが、私は我が子を短命で残して行くのに忍びない。其方が二度も死ぬかと思うた時、我が身の長命が恨めしく思われた。だが確かに其方に話して思いが変わった」


 青孤は熊女に泣かれて気持ちを変えた。

 全くもって自分でも呆れる程に、熊女に甘い。

 

「これは神様に、お任せ致す事といたそう……」


「青孤、今日は言っている意味がわからない……」


 青孤は熊女の涙の跡が残る顔を見つめると、グッと熊女を押し倒した。



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