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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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青孤の嫁取り15

 青孤が大神様の拝謁から戻ると、熊女が足を滑らせて天泉に落ちたと、大騒ぎになっていた。


「泉に落ちたのか?」


 冷静沈着な青孤だが、熊女の事となると、動揺を隠せず我を忘れてしまう。

 それを知っている土猪は、青孤を宥めるのに必死だ。


「青孤。今泉の中を探しておる」


「土猪よ。其方も充分存じておろう?あの泉は我らには只の泉だが、人間にとってはそうではない。落ちれば飲み込まれ今生に吐き出される。其処は何処で有るか分らぬし、その時の水力で身が粉々になる事もある……」


 青孤はそう言いながら片肌を脱ぎやった。


「青孤。青孤よ如何致すつもりだ?」


「とにかく熊女の後を追う」


「いや待て!泉に入るは別段問題はないが、熊女の後を追って水流に呑まれては、流石の其方でも堪えきれん。良いか?よいか?其方達はひ弱なのだ……。違う違う。仮令俺とても普通ではおられぬ……」


 土猪がとくとくと気負う青孤を宥め賺していると、彼方側の泉で遊んでいた孤銀が、良家の乙女達が熊女を突き落としたと証言をした。


 ……まずい……


 土猪は青孤を抑え付ける様にして、金孤と白狐の元に連れ帰った。


「何という事を、仕出かしてくれたのだ」


 美しい故にきつく整った顔を歪めるような表情を作って、良家の乙女達の両親に白狐は激怒していた。

 この一族は美しい故に、激怒した時の表情は他眷属一恐ろしい。

 本気で憤怒しているかは、一目瞭然と分かる。

 つまり、青孤も白狐もかなり激しく憤怒しているし、それは一族のもののみならず、土猪ですら一眼で分かるものだった。

 彼らの報復は眷属一である。

 由緒正しい一族故に、意に反したものはそれは厳しく罰せられる。

 その罰が、噂で聞くしか土猪はないが、かなり辛辣らしい。

 それを知り尽くしているもの達だ、眷属神を子に持つ白狐の恐ろしさを知らないわけがない。

 良家の乙女達とその両親達は、平身低頭額を擦り付ける程にひれ伏して、ワナワナと身を震わせた。


 ……まずいまずい……


 土猪は突き落とした当時者達を見て、青孤が何をするか想像ができたので、慌ててその場から再び青孤を連れ出した。

 それと同時に青孤が踵を返して、あのもの達の元に駆けつけようとするのを止めた。


「青孤。とにかく落ち着け」


「私は落ち着いておる」


「落ち着いておれば、熊女の後を追おうなどとはせぬ」


「……………」


「とにかく、熊女は稀有なる女子(おなご)であろう?其方が一番知っておるはず……」


「……………」


「とにかくお前達の住まいに行ってみよう。それからの事はそれからに致そう……」


 土猪は苦肉の策として青孤に言った。

 たかが人間の熊女が、あの泉から放り出されて健全でいるとは思っていない。

 思っていないが、どうする術もないのだから致し方ない。

 青孤はじっと土猪を睨め付けた。

 美しく整う顔面が〝青孤〟の名の通り、蒼々と冷めて見えた。


 森林に囲まれた山深い懐に青孤と土猪が建てた、この山には不釣り合いの家が在る。

 青孤は早る思いで戸を叩き開けた。

 中はがらんとして、熊女の姿はなかった。


「熊女ー」


 青孤が名を呼びながら探し回る。


  「熊女ー熊女ー」


 青孤はガクンと膝を突いて突っ伏した。


「土猪よ、何故あの時止めたのだ?最早熊女が何処に吐き出されたか、知る術もないではないか……」


 青孤は搾り出すような声で、土猪に恨めしげに言った。

 仮令、あの時追って泉に飛び込んだとしても、同じ所に吐き出されるとは限らない事は重々承知だが、この行き場のない口惜しさを、何にぶつければよいのだろう。


「!!!そうだ、神力で探そう」


 土猪がまたも慰めを言う。

 全てが無駄な事は分かっている。

 無駄な事は神使ならば分かる事だ。

 土猪は外に出て天を仰ぎ見た、そして静かに跪いて嗚咽を堪える青孤を見た。

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