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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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青孤の嫁取り14

 青孤の嫁が今生よりやって来たと聞いて、一族のもの達が集まって来た。

 見れば見る程確かに美形揃いだが、長身で細身の華奢な一族だ。

 そういえば、同じ眷属の土猪はがっちりとした体格で、青孤に劣りはするものの好男子だった。


 ……眷属とは神に仕えるものだから、みな美形に作られておるのやもしれぬ……


 熊女が、感嘆しきりで心中で思った。


「しかしながら流石は青孤である、あのように強固ながたいを持つ女子(おなご)を見つけて参るとは」


「如何にも如何にも……」


「女子であのようなものがおったとは……」


「確かに熊属の女子を、娶るようなものである」


「いやいや、熊属()()は愛いではないか……」


 男共が面白可笑しく話している。


「気に致すでない」


 白狐は熊女に言った。


「もう気づいておるやもしれぬが、我が一族は、美神様にお使いしていた昔がある故、華奢にできておる。美しく見栄えは良いのだが、いかんせんひ弱で、戦さともなれば打撃に弱く、命を落すものも多い。太古より由緒正しく他の眷属とは比にならぬ程であるに、そのひ弱さ故にほぞを噛む事もしばしであった。いにしえより幾度となく他の眷属と婚儀をするも、其方のように人間との婚儀をいたしてみても参ったが、美神様から賜りしこの身体が変わる事はなかった……。今の若いもの達はひ弱な一族の中で育っておる故、その強固たる身体の美しさに馴染みがない……。実に其方は美しい……あの青孤が夢中になるのも致し方ない……」


 白狐はそれは美しく微笑んだ。

 こんな身体で生まれ育った熊女にしてみたら、白狐の様な美神様と見紛う程の美しい(ひと)こそ、〝美しい〟という言葉に合うもので、熊女の様な者に使っては〝言葉〟に申し訳ないと恥じ入るばかりだ。




 青孤は、大神様に久方ぶりの拝謁を頂いていた。


「あの折は大鬼を取り逃がし慚愧に堪えなんだが、これで溜飲が下がる思いである。青孤でかしたぞ」

 

「有難きお言葉にございます……しかしながら、実を申しますと……」


 青孤は実に実直な性分だ。

 敬い奉る大神様に、あの折の事から熊女の事まで、包み隠さず申し述べた。


「ほほう。その方をそれ程に、夢中に致す人間がおったとは……」


 大神様は、身を乗り出して青孤を見た。


「金孤に申し伝え、早々に婚儀の仕度を致すように計らうと致そう」


「有難き幸せにございます。つきましては、青孤今生の願いがございます」


「今生とな?随分と大きな願い事であるな?」


 大神様は、興味津々に問われた。



 この神山には木々が四方に生い茂り、その木々たちには花々が咲き乱れてとても綺麗だ。

 熊女は自分が産まれ育った森林を思いやって、少し里心がついて淋しさを覚え始めていた。

 両親は昔々から、ずっと山で暮らしていた者同士だった。

 隣家に行くまでに、何里も歩かねばならない幼馴染み。

 それでも出会えるのは、そんな隣家の幼馴染みしかいない山。

 熊女が佐介に恋心を抱いたのは、両親がそういった経緯で結婚していたから、自分もそうなると信じていたからだ。

 だが佐介は、山下の庄屋様のお嬢様と、縁を結んでしまった。

 そのお陰で眷属神という高貴な青孤に、娶って貰える事となった。

 人間の定めとは、摩訶不思議なものだ。

 そんな風に感傷的になっていると


「これは熊女()()


 狐顔の乙女達が、それはそれは着飾って、美しく光り輝く泉を愛でていた。


「ああ、こんにちは……」


 熊女は、頭を下げて挨拶をする。


「この泉は、其方達人間が住む今生を、覗き見る事ができるのだ」


 と、一人の乙女が指差した。


「今生?下界の事だろうか?」


 熊女はそう言うと、身を乗り出して泉を覗き込んだ。


「私達の青孤を独り占めにするなんて、人間の分際で……」


「えっ?」


 強靭な体格を持つ熊女だが、不意を突かれ数人の華奢な乙女達が、総出で体当たりしたので、足がふらついて泉の中にドボンと落ちて吸い込まれて行った。




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