青孤の嫁取り13
土猪に知られた……という事は、幼い頃からの馴染みである青孤は、覚悟していたことであったが
……あの、眷属一の貴公子の青孤が、人間の嫁を連れてくる……
情報は、あっという間に、眷属一帯に知れ渡ってしまっていた。
「此処は私等が住んでる山みたいだね」
熊女は桃色の花模様の、新調したての小袖を歩きにくそうに着て、青孤に手を取られながら辺りを見回すようにして言った。
「ああ……。彼処と対して変わらない。だが此処は神山だから、其処のところは大きく違う」
「神山?」
「神が宿るとされておるようだが、我ら眷属神が居する所である」
「えっ?青孤は神様なのか?」
「一応な。今生には神々様の〝もの〟が多々ある。しかしながら、人間如きにそれ等が分かる筈も無い。それ等をお守り致すも我ら眷属神のお役目故、一属が一体となりてお役目を果たさねばならないのだ」
「うーん?神様のものは、私ら人間のものにはならないって事かい?」
「ふふ……。熊女は賢いね」
青孤は満足げに笑むと、熊女の顔を覗き込んだ。
恋をすると女は美しくなるというが、ご多分に洩れず熊女も綺麗になった。
特に美形を誇る青孤の、思われ女ともなれば一層だ。
「青孤」
遠くの峠の辺りから声が聞こえた。
「孤銀」
青孤は熊女の手をきつく握ったまま、振り返って言った。
「…………」
孤銀は手を振っていたかと思った瞬間、熊女の前に現れた。
「ほうほう、これが青孤の嫁ごか?」
美形一属と言うだけの事はある。
青孤とはまた違った、ちょっと丸顔の愛らしい顔立だ。
「確かに勇ましくたけだけしいな」
孤銀は両手を組んで、熊女を値踏みしてみせた。
「偉そうな態度をとるな!」
青孤が憤って言うが、孤銀は気にも留ない。
「私の方が年かさだ、いいだろう?」
斜に構えた態度を取ったので、青孤は孤銀の後ろ襟をつかんで持ち上げた。
「いい加減に致せ」
「青孤何も怒らんでも……」
身体はデカイが、気の良い熊女が慌てて言った。
「こいつは子供の癖に、偉ぶり過ぎだ」
「なにも……私なら平気だ」
「子供だと言うても、こいつよりかははるかに上だ」
「えっ?そうなのかい?」
熊女が素直な反応を示す。
「それでも子供には違いない」
「こいつより、生きているのは間違いない」
孤銀が首を回して、青孤と睨み合った。
「ふふふ、其処までに致して、許しておやりなさい」
白髪の気品高い、青孤によく似た夫人が立っていた。
「お母君」
青孤はパッと孤銀の後ろ襟を離したので、孤銀はストンと落下して尻餅をついた。
「孤銀の口の悪さは、今始まった訳ではない。青孤の大事な嫁ごだからと言う訳でもない……」
母の白狐はマジマジと熊女を見た。
熊女は再び恥じ入る様に身を縮めたが、それを察して青孤はきつく握っていた手を、もう片方の手で包み込む様にした。
「金孤から聞いていたが、流石青孤。良い嫁ごを探して来たこと」
白狐は青孤によく似た、きつい顔つきを綻ばせて言った。
「こんな人間のどこが良いのだ?」
「孤銀はまだ子供だから分からないのも当然、大人になれば分かるかもしれない」
白狐は揶揄う様に、笑いながら言った。
「遠い所疲れたであろう?」
「いえ、青孤のひとっ飛びで……」
熊女が緊張した様子で言った。
「そのひとっ飛びが、人間の身には応えたであろう?」
「お母君。この者は全く平気なのです」
「おや?」
「だから私とも一緒になれるのです」
「青孤、自慢せぬともよい」
白狐は、青孤が夢中になっている様子に呆れて言った。
「じ、自慢ではありません。事実なのです」
真顔で答える青孤に、白狐は二の句が継げなく、呆れ顔を向けるしかなかった。




