青孤の嫁取り12
此処のところ青孤は上機嫌だ。
季節は春を過ぎていて、木々も草花も青々と茂り花を付け実を付ける、それ等全てが我が事と同様に美しい。
「青孤少し休もう」
熊女は畑仕事も板に付いた、青孤の鍬さばきを惚れ惚れと見て言った。
土猪が手伝ってくれて、森林の木々を多少切り倒し、なかなか立派な新居を建てた。
神使の二人がする事だ、あっと言う間に仕上がりそれは立派な建物だ。
その後を田畑として、青孤は神力を使う事なくせっせと切り拓いている。
熊女は、青孤の手厚い介抱の甲斐あって、あっと言う間に元気を取り戻した。
元々頑丈な身体を持つから回復も早いのだろうが、恋する二人には〝恋する力のお蔭〟という事になっている。
「真に恋とは恐ろしきものよ。あの青孤が愚か者になりさがっておる」
と、土猪に言わしめる程に、バカプルぶりも甚だしい。
「青孤汗が……」
熊女は甲斐甲斐しく、美しく流れる青孤の汗を拭いた。
「まったく、いつ参っても其方達は引っ付いておるな」
土猪が呆れるように言った。
「其方こそ如何して、こう頻繁に参るのだ?」
青孤が嬉しそうに、汗を拭いて貰いながら言った。
「なかなか戻らぬ其方を訪ねるに、案内をして貰うたのだ」
青孤は土猪の後ろで、呆れ顔の金孤を認めて慌てて立ち上がった。
「お父君……」
なんと厳つい土猪の後ろに、白髪のそれは凛々しい紳士が立っているが、立ち居振る舞いで青孤の一族である事は一目瞭然だ。
熊女は我が身を思って、恥じ入るように身を竦めた。
いくら山育ち森育ちといっても、自分の容貌や他人からの見た目などは理解しているから、仮令人間でないものであったとしても、これ程までに美しい青孤から、正真正銘の思いを抱かれようとは、夢にも思っていなかった。
どころか、思う事すら罰当たりな存在だ。
まして、眷属神と知ってしまった以上、罰を当てに来られたと思ってしまった。
「ほう……そのものが、其方が心に決めしものか?」
金孤はマジマジと、大きな身体を縮こませて恥じ入る、熊女を見つめた。
「はい……」
「ふむふむ……流石は青孤である。なんと勇ましく、たけだけしい風貌であろう」
「はい。熊女は稀有なる女子でございます」
「ふむふむ。我が一族は眷属の中でも全てに秀でておるが、唯一非力で打撃に弱いが難であった。しかしながら、其方等の子ともなれば、もはやその懸念もなくなるであろう」
金孤は熊女を睨め付けていたが、上機嫌で笑った。
「其方がこのものとの縁を望んでおると、土猪に聞いてのぉ、先ずは嫁の顔を見に参ったのだ。実に良い」
上機嫌で高らかと笑った。
……神使とは人間の様に、容姿に拘りを持たないようだ……
熊女はホッと胸を撫で下ろした。
「私も一度、お母君に熊女を会わせたいと思っておりました故、近々其方へ戻ろうかと思っておりました」
「おお、そのように致すがよい。大神様も大鬼を仕留めた故、其方に労いをしたいと仰せなのだ」
「は……」
青孤は首を垂れた。
が、大鬼退治は、熊女が殺られたと思った怒りから仕留められたもので、己の真の力ではないので、勇んで大神様の元に報告に上がる事が憚られていた。
「母も其方の縁は実に喜んでおる。このように愛い嫁ごとなれば、それは大喜びだ。できるだけ早う戻って参れ」
……愛い?……
熊女にとって初めて耳にする言葉だ。
可愛い可愛いと言われて育つ美女とは違い、まったくもって縁のない言葉である。
「良かったな青孤……」
土猪はニヤリと笑うと、金孤の後を追うように姿を消した。
「青孤、私は父君様に気に入って頂けたのかい?」
「三国一の嫁ごと思うておる」
「本当かい?」
「ああ……」
神力の戻った青孤は、ヒョイと熊女を抱き上げて口づけをした。
神使の唇は甘く温かく、貴い香りが一面に漂った。




