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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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青孤の嫁取り10

 大概征伐された鬼の亡骸や、斬り落とされた腕や脚や首等は、その形を変えて自然界に返され地上に残される。

 青孤は都で斬り落としたのだから、都の何処かに落ちて、山か岩にでも成っているかもしれないと思っていたが、大鬼が探しているのであれば、自然界にあるわけではないようだ。

 故に大鬼は青孤が持っていると思い探していたのだろうが、青孤はかなり傷を負い重体で神力を使えぬ状態だったので、気が滞り大鬼に居場所を探し当てられる事もなく済んでいた。が、ここの所で完治し神力が戻ったが為、大鬼に探し当てられてしまったようだ。


「とにかくお前の片腕は此処に無い」


 青孤はそう言うと愛刀の孤美刀を振りかざし、大鬼の鼻面を削ぎ落とした。

 孤美刀とは、毛並みの青いものだけに使いこなせる神刀だ。

 眷属の中でも、青い毛並みのものだけに、代々受け継がれる。

 仮令どんなに巨大な物でも、強固な物でも一太刀で斬り捨てる事ができる。

 だから大鬼の巨大な片腕すらも、一太刀で斬り捨てたが、青い毛並みの選ばれたものしか使えず、違うものが手にすれば災いが降りかかり雷神の怒りをかう。

  大鬼は怒り狂って青孤を追いかけた。


「生憎だが俺は此処の所、虫の居所が悪いんだ」


 青孤は言うなり、大鬼の指を斬り落とした。

 瞬間青孤は、大鬼の手の平の上から下を認めて顔色を変えた。


「青孤!」


 大鬼の真下に、熊女が青孤を心配して立っていた。


「馬鹿。何故家に居ない!」


 青孤は吐き捨てるように言ったが、刹那鬼の指が熊女めがけて落ちて行った。


「熊女ー」


 青孤は慌てて熊女の元へ飛ぼうと試みて、斬り落とされた指の痛みに耐えかねて、暴れる大鬼に振り落とされた。


「熊女ー」


 大鬼の足が、頑丈な熊女の身体を蹴飛ばした。

 どんなに大女で頑丈だと自慢していようが、たかが人間にすぎない熊女は蹴鞠のように蹴り上げられて、弾き飛ばされた。

 

「熊女ぉー」


 青孤は正気を失して絶叫すると、愛刀を大きく翳して大鬼の頭まで駆け上がり、大振り一太刀、脳天からザザーッと大鬼を斬り裂いた。

 大嵐の大雨の中、大鬼は血飛沫を噴き上げて絶滅した。


「熊女!熊女……」


 青孤は我を忘れて、弾き飛んだ熊女を探した。

 神力があればいとも簡単に探し当てられるものを、我を忘れ正気を失っているから、ただ泣き叫ぶように名を呼んで探し回る事しかできない。


「青孤……青孤」


 青孤は名を呼ばれ振り返った。

 あの熊女であるから、平気な顔を向けて名を呼んだやもしれない……。そう思って振り向いて、青孤は静かに大きく息を吐いた。


「土猪……」


「以前、其方から頂いた〝もの〟は、実に良い神使いと成った。あの様なものが此処におったとは……。万が一心無い人間の手に掛かって、神使として使えなんだら、わしの手落ちとなるところであった。礼かたがた其方を探し当てて参ってみたら、何とも異様な気配に驚いた。如何したものやと思案しておったら、久々に其方の優美な太刀さばきを見る事ができた」

 

 土猪は呑気に言った。


「土猪……。熊女を……熊女を探してくれぬか?」


 大鬼が退治されると、先程まで荒れていた嵐が嘘の様におさまった。

 一筋また一筋と、重く暗く覆い被さっていた雲の隙間から、陽射しが差し降され、その光に照らされた青孤は、大鬼の血しぶきを受けながらも、とても美しく映し出された。

 土猪は青孤を見惚れていたが、直ぐに頷いた。


「あ、ああ……。青孤よ、熊女とは一体何の事だ?」


「私の愛しい女子(おなご)だ」


「青孤のか?」


「ああ……。土猪よ、後生だから熊女を……」


 青孤はその美しい瞳から、一筋の涙を流して言った。


「おう任せよ」


 土猪はそう言うと、静かに両手を翳して天を仰いだ。


「こっちだ……」


 土猪が踵を返して言うと、青孤はふらつく足を引き摺るように後に従った。

 足が震えて前に出ない。

 熊女が蹴り上げられ弾き飛ばされた光景が脳裏で繰り返し、不安が募り身体が震えて足が出ないのだ。

 それでも青孤は引き摺るように歩を進めた。





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