心して仕えよ3
神力って凄過ぎる。
翌日目覚めたら、驚く事にみことの生活がガラリと変わっていた。
たった一ヶ月の為に、みことは愚痴を言いつつも務めていた職場を、しっかりと退職金を頂いて依願退職し、先の先のそのまた先の、夢のまた夢であった喫茶店をやっていて、なんと常連さん迄いるので、店の売り上げは上々という、なんとも至れり尽くせりの状況なのだ。
「大神様がお越しになられるって……」
みことの環境の変化にも気づかずに平然としている母に、朝食に箸を付けながら言った。
「えっ?」
流石の母も呆然とみことを見つめた。
「昨夜……真夜中にお使いが見えて、大神様のお言葉を頂きました」
「……なんて?」
「近々此処に大神様が参られるから、心しておもてなし致せ……って」
「……本当だったのねぇ……」
母は呆然としたまま言った。
「……でしょ?……そう思うでしょ?……それしかないでしょ?」
みことが間髪入れずに言うと、母は大きく頷いている。
言うまでもないが、みことの母には〝ない〟
遙の女の家系にだけ引き継がれる事柄なのだが、大抵の者は当てはまらない。
それは本家とか、婚姻して名が変わっているとか関係なく、ちょっと不思議な女子が誕生するのだが、その大半が青孤の言うところのまがい物達だ。
有力視されていた叔母ではなく、まがい物中のまがい物と目視されていたみことが、事もあろうに神託頂くとは……。
いや神託ではない。
「神託レベルじゃないんだよ。来ちゃうんだよ。来る来れば来る時の〝来る〟……。お目もじとやらが叶っちゃう〝来る〟。顔を見れる〝来る〟……。えっ?神様の顔ってどんなだろう?見た事ある人間なんていない……いやいや、第一神様を家に迎え入れた事ある人間っているのか?いやいや、神様を迎え入れるっていうのは聞くか……」
みことがちょっとパニくりはじめた頃。
「大神様が此処にお出でになられるの?」
母はまだ信じられないという表情を作って言った。
「うん、此処だって。大神様のお好みだって……」
「この家が?」
「……じゃなくて、たぶん私?」
「みこと?」
「たぶん?東北の叔母さんじゃないんだって……」
「若いからかしら?」
「そういうのじゃないらしい。大神様は美貌で選ばないらしい」
「だから若さでしょ?やっぱり、おばさんより若い娘がいいのね。全く神様も人間もそのあたりは同じなのね」
「青孤さんが言うには違うみたいなんだけど……」
「青孤さんって誰?」
「ああ、大神様の神使で、めっちゃイケメンなのよ。瓜実顔で目がキッと一重で大きくて……塩顏な……」
「ええ?」
母の声が甲高くなった。
イケメンに食いつくのは母の遺伝だ。
「え〜いいなぁ……」
「お母さんだって会えるわよ。なんせおもてなしの為に、 いろいろ助言とかしてくれるっぽいから」
「おもてなし……ね。失礼のないようにしなきゃならないから大変だわ。お母さんが生きててくれれば、相談もできたんだろうけど……。あっそうか!叔母さんに相談してみようかしら?」
母は手を叩いて言った。
「それもそうなんだけど、今生で神託受けるのは、親戚中で叔母さんだと思っていた事なのに、事もあろうに私が受けちゃったのに、叔母さんに相談するのなんか悪くない?」
叔母は今は亡きみことの母方の祖母の年の離れた妹で、親族の中でも最も霊感を〝持つ〟と言われている女性で、修行をして霊媒を行う事だってできる人なのだ。
「こればかりは、どうしようもない事だからね。うちの家系の者だったら誰だって理解してるわよ……って言うより、みんな本当だったって其方の方がびっくりするわよ」
「確かに……。今や叔母さんがいなかったら、ただの伝説になってるもんね」
「そりゃそうよ。ご神託なんて誰も受けた事ないんだから……」
母は何故かドヤ顔を使って言った。