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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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青孤の嫁取り9

「この肉美味いね」


 熊女が取り繕う様に青孤に言うが、青孤はただ黙っている。

 青孤はあの日から、超絶おこなのだ。

 ずっとずっと熊女が青孤の顔色を伺う程に、不機嫌甚だしい。

 青孤とて、誕生してからこの方、こんなに怒った事はない。

 幼い頃土猪が、青孤の自慢のヒゲを全部切った事が有ったが、それでも青孤はこれ程怒らなかった。

 まあ、土猪のあの小さな尻尾を噛み切ってやったが……。

 ……と言って、熊女に尻尾はないから噛み切れないし、ヒゲもないから切れない。

 ただただ悶々と、怒り続ける事しかできない。

 怒りに任せて帰る事も、熊女を捨てる事も青孤にはできそうにないからだ。

 ただただ腹立たしい。


 ……先に好きになった方が負け……と言うが実に本当だ。


 青孤はこんなにもどうしようもなく、ひたすら怒っている自分が不思議だ。


 ……腹が立って仕方ないのなら、熊女を置いて出て行けばいいものを……


 冷静な自分はそう思っているが、女に恋い焦がれている自分はそうはできないまま、ひたすら怒っている。

 余りに怒りすぎて、何に怒っているのか分からなくなってきた。

 だけど、ちゃんと冷静な自分が教えてくれる。


 ……熊女が好いてくれぬから怒っているのだ。好いてくれぬ熊女に怒っているのだ。ただ拗ねているのだ……


 それでも青孤は熊女に何も言わずに、熊女の側に居る。



 そんな拗ね拗ねの青孤に、山下の町まで出かけていた熊女が言った。


「随分と前に、大神様の鬼征伐が都の方であったようだ」


「いつの事だ?」


 ずっと喋らなかった青孤が、身を乗り出して聞いた。

 

「半年前か……」


「ああ……。それは私が怪我を負った時の事だろう?鬼はどうしたろうか?」


「え?青孤の怪我はあの時のものか?」


「ああ……」


 青孤は少し伏し目がちに言った。

 本当に青孤は美形だ。伏し目がちになると、

長い睫毛が際立って見える。

 熊女は思わず見惚れて、青孤と目が合うと慌てて逸らした。


「鬼は片腕を斬られて逃げたそうだ」


「ああ……」


 あの時一打を食らわされる直前に、青孤は鬼の片腕を愛刀で斬り捨てていた。

 その痛みに耐えかねた鬼に吹っ飛ばされたのだ。渾身の力というやつだったから、物凄い勢いで飛ばされた。


「そうか……よかった」


 青孤は熊女をじっと見つめながら呟いた。



 それから少し経ったある日。

 青孤は未だに熊女と、話しをしようとしない。

 青孤自身これ程根に持つタイプだとはいささか辟易だが、感情の行き場が己自身でどうにもならぬのだから仕方ない。

 その日は嵐が木々を痛めつけ、やっと花を咲かせ掛けている作物達の心配をさせた。


「ちょっと見てくる」


 青孤が熊女を見る事なく言うと、熊女は驚きを露わにした。


「こんな嵐の中無茶をするな」


「私にとって無茶ではないから、言っているのだ」


「そんなひ弱な体で行けば、吹っ飛ばされてしまう」


「口を開けばひ弱と申すが、これでも神々様のお役に立つべく鍛えておる。確かに傷を負うて伏しておったから弱々しく見えたやもしれぬが、たかが嵐の中を行くぐらい造作ない事だ」


 ずっと腹の虫が収まらないから、ついつい喧嘩腰になってしまう。

 青孤は熊女の顔を見ると〝しまった〟という表情を作ったが、すぐさま顔を背け戸を開ける事もなく外へ飛び出した。


「青孤……」


 熊女は、一瞬にして姿を消した青孤を探して、途方にくれた。


 外は大荒れに荒れている。

 最早体力を回復した青孤が、吹き飛ばされる事はなかったが


「…………」


 青孤は異様な気配に天を仰いだ。


「誰だ?」


「たかが神使いの分際で……」


 天から大きな手が青孤目掛けて振り落とされた。


「大鬼か……」


「俺の片腕を返して貰おうか」


「片腕だと?そんな物は、どこかの山か湖にでもなっているだろう」


「小賢しいことを……」


 大鬼は姿を現して、素早く身を交わす青孤を追った。

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