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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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青孤の嫁取り8

「ずっと居てくれるっていうのかい?それは寂しくなくていいが……」


 熊女は考えた事もなかったのか、暫し考え込んでいる。


「寂しくなくてよいのだろう?何を不満気に……」


「いやいや。決して不満ではない。こんな山奥で独りは寂しいからな……有難いに決まっているが……」


「なんだ?その歯にものの挟まった様な物言いは……」


「うーん。あおの時であらば気にならぬのだが、その体でずっと一緒に暮らすのか?」


「この体の何が不満なのだ?」


 冷静沈着で穏やかな性分であると自負する青孤が、何故か再び苛立ち始める。


「うーん……」


「しかと申してみよ。気に食わぬならば、其方のよい様に考慮いたす……」


「うーん……。やはり、あおのままでいてもらいたい。いや……あおでは畑仕事ができぬか……。と言うて独り身の女子(おなご)が、()()()の様に見える狐とずっとくらすのは……」


「なにをとやかくと申しておるのだ」


 青孤は熊女に怒鳴りつけた。

 一瞬熊女はビクリとしたが、直ぐ様青孤を見つめた。


「青孤は狐だが、男の体をしておるから……」


「はあ?狐ではない」


「いや、狐の神使であろう?」


「……ではあるが……」


「それは良しとして、男とずっと一緒に住むのはまずいと思うのだ」


 熊女は一応、恥じらう様に言った。

 

「何故だ?神使の私が恩返しに、ずっと其方と暮らすと申しておるのだ。有り難く思えばこそ、その様に愚痴愚痴と言われる筋合いはないはずであろう?」


「それは、神使様がうちに居れば怖いもの無しだが、こう見えても一応私は嫁入り前の女子(おなご)なのだ、仮令神使であろうとずっと暮らす訳には……」


「では……では私が其方を、嫁に致せばよいであろう?」


「はあ?私が青孤の嫁?」


 熊女は吹き出す様に言った。


「な、なにが可笑しい」


「私よりひ弱で年下で、甲斐性もないのに?」


「ちょ、ちょっと待て!確かに私はまだ若いが、其方よりもはるかに年かさである」


「またまた……」


 熊女は疑いの目で、青孤を見つめているが、目が笑っている目が……。

 そう思うと余計に青孤は、腹立たしさが増していく。


「神使である私と、年問答を致すとは……」


 ふるふると青孤は、怒りのあまり手が震え、額に筋を浮かべた。

 その青白く妖気に満ちた表情は、男とは思えぬ程にとても美しい。


「と、とにかく私は()()()の為に、其方と()()()()()()()()()()()暮らすのだ」


「まったく、勝手に決めて……」

 

 熊女は駄々をこねる年下美男子を、呆れる様に見つめて言った。


「仕方ない。この話しは本当に青孤が元気になったら、もう一度話し合おう」


 熊女はそう言うと、大猪を持ち上げて外に出て行った。


「な……なんと言う事だ……」

 

 青孤は吐き捨てる様に言った。


 青孤は正真正銘の美男子だ。

 眷属を問わず、嫁に来たいと願望する者は大勢いる。

 大勢いるのにも関わらずそれ等を全て捨てやって、たかが人間のそれも美女とは程遠い、熊女を嫁にしてやると言っているのに、あの熊女の態度はどうだろう。

 あの、幼馴染みの佐介すらも、熊女よりも美女を選んだ。

 佐介が嫁を娶ったとなれば、一体他に誰が熊女なんかを嫁に娶るというのか?

 青孤は苦々しくも腹立たしくもあったが、それ以上に込み上げる悔しさの行き場をどうする事もできなかった。


「私は熊女が好きなのか……」


 初めての感情に、青孤は戸惑う事しかできない。


 ……あんな人間の熊女を、どうして誇り高く貴い自分が好きになったのか?……


「鬼に吹っ飛ばされた時に、打ち所が悪かったのやもしれん……」


 青孤はそう呟くと、窓の外で大猪を解体している、それは逞しい熊女を恨めし気に見つめた。

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