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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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青孤の嫁取り7

 だいぶ体力も回復してきたと自覚し始めた或る日、青孤は森の中を独り歩いていた。

 畑には蒔いた野菜の芽が芽吹き、麦や米の稲も植えた。

 この頃になると青孤も幾分と、ものの役に立つようになっていた。

 久しく熊女に肉を食わせてやっていない。

 そう思い立って青孤は森を散策している。

 神使である青孤は、別段食べ物を口にしなくとも平気だ。

 この世の生物が神や神使に捧げ物をした場合、それ等を食くす事はあっても、食べなくてはならないものではないが、不便な事にこの世に生を受けた者達は互いに食い合わねば生きてはいけない。

 これも均整を取るための自然の摂理であるが、なんとも面倒くさくできているものだ。

 水や霞を食って生きて行ければ、争い事も少なかろうに……。

 兎にも角にも人間である熊女には、偶には肉を食わせて滋養をつけさせねばならない。

 青孤が傷ついて臥せっていた頃は、熊女は青孤の為にせっせと殺生をしてくれた物だっだが、いくら熊女が怪力の持ち主であったとしても、生き物の命を頂くには、それなりの代償を賭けねばならない時もある。

 故に熊女もそんなに殺生はしないが、それでも青孤は熊女に滋養をつけさせたいのだ。


「……………」


 青孤は大猪と対峙して、徐々に憤りを見せて攻撃姿勢を作る大猪を見つめた。


「其方は此処の森の(ぬし)であるか……」


 青孤がそう問いかけた時に、大猪は猪突猛進、それは物凄い勢いで青孤目掛けて突進して来た。


「落ち着いて話を聞くのだ」


 猪をひらりと(かわ)すと、青孤は猪の鼻面を人差し指で抑えた。


「この様に立派な(ぬし)となるものがおったとは……。土猪は何を致しておったのか?」


 青孤はそう呟くと、大猪の鼻先に置いた人差し指で猪の勢いを削いだ。


「よくよく聞くのだ。其方の様に立派に育った主は、このまま此処で生を得ていては勿体ない。もしも老い果てるまでに、心ない人間に殺されてはならない……分かるな?其方程ともなれば、神使となりて神々様にお使い致す事も可能なのだ」


 青孤は大猪の眼を、じっと覗き込んだ。


「心なく人間に殺されたものは、神使としてお使いできぬ。恨み辛みを抱いて果てる事があるからな……。私と出会えたは其方の縁である。私から土猪に申し聞かせる故、其方は神使として彼方(あちら)に参れ」


 荒れ狂って暴れていた大猪は、青孤の言葉に力を抜いて大人しく首を垂れた。

 なんと。なんの苦労もなく殺生をする事なく、それはそれは立派な大猪の抜け殻と化した肉体を、手に入れてしまった。

 大量の肉を取れる、大猪の屍を見て熊女はびっくりして、軽々と担いで帰って来た青孤を直視した。


「どうしたんだい?」


「其方に肉を食わせてやりたくて……」


「ううん。そんな事じゃない。どうやってその大猪を仕留めたんだい?そいつはこの森の主だ。私がどんなに挑んだとしても、全く歯が立たなかった……」


 ……まさか脆弱な青孤が……


 そう熊女の戸惑いは言っている。


「私は神使なのだ。それも眷属神としてお許しを頂いておる。このものを仕留めるだの、この指先一つでちょちょいというもの……」


 青孤は再びドヤ顔を、熊女に作って言った。


「凄いんだねー」


「今更である」


 得意満面な青孤は、熊女を見つめて言った。


「恩返しにしてくれたのかい? そろそろ行くのかい?」


 熊女は、神妙な表情を作って言った。


「恩返しではあるがそろそろ行く……とはなんの事だ?」


「もうだいぶ身体は良くなっただろう?〝力〟とやらも戻ってきたのなら、元の場所に戻ってしまうのだろう?」


「……元の場所……?」


 青孤は熊女の言葉を、反芻して考え込んだ。


「私は前にも申したが、恩返しに其方とずっと一緒に()るつもりだが……」


「私とずっと一緒に?どうして?」


「恩があるからだ」


「恩?」


 今度は熊女が、じっと考え込んだ。



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