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神様のおでまし  作者: 東雲しの
25/100

青孤の嫁取り5

「お前は誰だい?」


 熊女は泣き顔のままそう言った。


「え?」


「お前は誰だい?何処から現れたんだ?」


「はあ?」


 青孤は熊女の態度を見て、慌てて我が身を確認した。


「まさか……」


 回復の度合いからしても、まだまだ元の姿に戻るのは先の事と思っていたが、余りの怒りの所為で神使の姿に戻ってしまった。


「お前は誰だい?」


 男の為にめそめそと泣いて、青孤を激怒させた熊女は泣くのも忘れて青孤を見た。


「私は神使の青孤である」


「神使の青孤?ああ!あおが……」


 熊女はそう言うと青孤の側に駆け寄り、お気に入りの青い毛並みを持つ、狐のあおの姿が無い事に慌てた。


「あおがおらんようになってる」


 熊女は大慌てで、辺りを見回している。


「トロい奴よ。私が()()()()なのだ」


 青孤の苛立ちはどんどん増している。

 何時も穏やかで冷静な青孤だが、今日はかなりの〝おこ〟MAXである。

 何故そうなのか、当の青孤すら理解していない。


「いやいや。私のあおは、それは綺麗な青い毛並みで……」


 熊女は青孤をマジマジと見つめた。


「神使?」


「さよう」


「なんで?」


「なんでではない、神使なのだから神使なのだ。そのような事よりも、お前は何故に泣いておるのだ」


「……その事よりも……じゃないと思う。うんうん……私が佐介の婿入りに泣いているよりもだ……」


「だから、何故お前はあやつの為に泣くのだ?」


「……それは……佐介が嫁ごを娶るから」


「何故あやつが娶ると、お前が悲しいのだ?」


「それは……。私が佐介を好いていたから……」


「な、なに?その方はあやつを、好いておったのか?あのような者を?」


「佐介は小さい頃からの仲で。凄くいい奴なんだ。偶々庄屋様のお嬢様に見初められて、縁が付いたけど……」


「はん!それはそれだけの男という事だ。幼き頃からの仲の其方との縁よりも、たかだかの美女の縁を選んだたかだかの男にすぎぬ」


「佐介の悪口は言うな」


 熊女は、再び泣き出しそうな顔を作って言った。


「泣くでない!あんな男の為に、この私の前で泣くでない!」


 青孤も我を忘れて怒鳴りつけた。

 すると熊女は、ぽろぽろと大きな涙を零した。


「なんであんたに、怒鳴られないといけない?」


「わ、私も解らんが、とにかく泣くでない。それ程独りが寂しいのであれば、私が其方の側にずっと居てやる故」


「…………?」


「お、恩返しに私が其方の側に、ずっと居てやる故、だから泣くでない」


「恩返しの為に?」


「そうだ。だから私はお前に助けられた〝あお〟だから、だから恩を返す」


 熊女は暫くじっと青孤を直視した。


「恩返しなんて別にいい。それに別に独りが寂しくて泣いた訳じゃない」


「うっ……。これはこれで、あやつでなくとは、嫌だという事か?」


「そりゃ佐介さんがずっと側に居てくれる事に、こした事はないけど……」


 熊女は少し頬を染めて言った。

 その様子が再び青孤を激怒させた。


「この神使の私が、其方の為にずっと側にいて()()()と言うのだぞ? 」


「たかが狐のくせに……」


「な、何を申すか?この私に向かって……」


「……と言われても、たかが狐のくせに偉そうに……」


 熊女は泣くのをやめて、青孤をマジマジと見つめた。

 青孤は眷属の中でも美形を誇る。

 血統だけではなく、持って生まれた〝もの〟自体に自信があった。


「狐の時も痩せ細っていたが、今とてお世辞にもたくましいと言い難い……」


 熊女は不服げに、首を左右に振って言った。


「こんなひ弱な感じじゃ、なんの役にも立ちそうにない」


「は?はあ?何を戯けた事を……。傷を負うておったから何もできなんだが、力さえ戻れば……」


 青孤は汚名返上とばかりに、台所の隅に置いてある、石臼を持ち上げようとした。


「!!!」


 怒りに任せて姿が戻りはしたものの、流石に〝力〟が戻るはずもない。

 青孤は大掛かりなパフォーマンスを披露しただけで、恥の上塗り状態と化してしまった。

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