青孤の嫁取り2
「そう言えば、みこちゃんの大好きな青孤さんの奥さんも人間だったんですって」
「ええ?青孤さん結婚してたの?」
「うん。凄い昔みたいだけど……」
「凄い昔って……」
「ああ見えて、青孤さんって私達の知っている中じゃ、一番年上らしいよ」
「えー。確かに凄く落ち着いてるけど、30前後にしか見えない」
「なんでも、神使の中では有名な美形一族らしい。それと名家っていうか格が上っていうか、とにかく神様に一番近くて、眷属神として許されているんですって……。因みに、鹿静も青孤さん程じゃないけど名家なのよ」
ちらハラと、自慢話を入れて来る所なんて小憎らしい。
「……で?青孤さんの奥さんってどんな人?」
「さあ?私会った事ないもん。だけど、鹿静が言う〝昔〟はかなり昔だよ。確か陰陽師がいた時代らしいから、凄い昔……」
「陰陽師っていつ頃いたんだっけ?室町時代?飛鳥時代?」
「さあ……?」
とんとその辺の時代錯誤が甚だしい二人だから、埒が明かない。
「なに?青孤の妻?」
結局鼻先であしらわれるのを承知で、赤獺に聞きにいく。
あのイケメン神使の青孤さんが、事もあろうに人間と結婚していようとは……。
みことじゃなくても、気になって仕方ないじゃないか!
どんな奥さんなんだろう?
きっと見紛うほどの美女に違いない。
みことの頭の中は、想像もつかない美女が締めまくっている。
案の定赤獺は
……またイケメンの事か……
と言わんばかりの、蔑んだ態度を取って言ったが、青孤さんの事が気にかかって仕方ないみことは、お愛想笑いを振り撒く。
「物知りな赤獺さんなら、何でも知っていると思って……」
「青孤の嫁取りの話しは有名だから、知らんものはおらん」
「え?やっぱ人間なんですか?」
「以前はな……。今は眷属神の嫁として恥ずかしくない、神使迄はいかんがそれに近い何がしらを頂いて、青孤と共に一族を盛り立てておる」
「え?神使に近い?」
「おう、何であったかな?……それを頂いた故、我らと同等の生を持っておるのだ」
「えー誰がくれるんですか? それ」
「だ、誰と言われても……神様方だ」
「大神様?」
「大神様だけとは限らん……。神々様方は沢山おいでになられるからな」
赤獺は得意満面で言うが、そもそもみことが理解するのが難しい。
叔母さんみたいに、いろいろ勉強しておけばよかった。
まさか自分が関わり合いを持とうとは〝お釈迦様でも気がつくまい〟ってやつだから、遙の家系のくせに全くもっての無知きわまりない。
「……って事は、今は人間じゃないですね?」
「ああ、かの昔に人間の生は青孤と共に終えたはず」
「青孤さんも人間だったんですか?」
「まさか……。青孤は現世で所帯を持ち、嫁ごの生が尽きるまで共に過ごし、嫁ごの昇天と共に戻って参った筈だ」
「えっ?現世……この世よね……この世?嫁ごの生が尽きる?昇天したんだから死んだのか……迄共に過ごし……ええ?そんな事できるんですね」
「時と場合によるがな……何と理解する迄に時間のかかる事よ。何故この様な者を大神様は……」
赤獺は少し考えるように天を仰いだ。
「そうそう……。まだ鬼が暴れておった頃の事……」
鎌倉室町時代じゃなくて、鬼の時代かい。
みことは思いっきり自分に突っ込みを入れたが、赤獺の機嫌を損ねてはいけないので、そこは大人しく赤獺の話しの続きを聞いた。
「大神様は名だたる眷属を共に鬼征伐に行かれた」
「え?赤獺さんも?鹿静さんも?」
「私等はまだ生まれておらん。青孤はまだ若く眷属の筆頭に立ってお供をしたようだが……」
「え?赤獺さんて青孤さんより若いんですか?」
「なんだその不服げな反応は!」
「うっ……」
正直者だから口に突いて出そうになるが、此処は赤獺を怒らせてはいけない事ぐらい解っているので、グッと我慢する。