青孤の嫁取り
鈴音が新婚旅行から、沢山お土産を持って帰って来た。
高校を卒業してから疎遠になっていた。
あんなに高校時代は、親よりも時を共にしていて、別れ別れの生活など考えられぬくらいだったのに、鈴音は地方の大学へ進み、最初の年はこちらに帰って来ていたが、一年二年と経つうちに帰って来る事がなくなって、就職も地方でしてしまったので、段々連絡も取らなくなった。
みことがやっとの事で就いた会社は、ご多分に漏れず多少ブラックな面もあったので、友達と遊び呆けるという事はできなかった。
まあ、友達同士話しをするが、大体の所若者から言わせれば、仕事はブラックなものだ。
何をどういう基準かによると思うが……。
「やっぱみこと、男は〝力〟だね」
鈴音は高級な品を取り出して、みことに渡しながら力説する。
「ホテルだって一流だし、部屋なんて凄く広いし、一流レストランでしょ?」
「なんか、普通の人間を基準にした生活……って言ってたよね?神使いの生活?目立たないように」
「普通じゃん?……って言ったって、この世界で一番尊いお方の使いだもん、下手な生活できないでしょ?」
「鈴音ちゃん……いやいや、あいつらの普通がわかんない」
みことが羨ましいを通り越して、呆れた様子で言った。
「大神様は大丈夫だったんでしょ?」
「ああ……。うん、裏の林の祠にお座してる」
「あー、鹿静もずっと新婚旅行の間も心配して、見に行ってたもんな」
「え?どこに?」
「さあ?大神様の所じゃない?私が寝ている間にちょこちょこって……」
鈴音は天を指差して言った。
「新婚旅行なのに?新妻置いて?」
「やだぁ、みこちゃん嫌らしい……。寂しい真似をあの鹿静がする訳ないじゃない。私が寝ている間よ寝ている間……。ちゃんと朝には、私の手枕になっててくれてるんだから」
「は……聞いた私がおバカよね」
女同士の会話ってなんか虚しい。
一方的に片方の幸せな話しを、永遠と聞かされる感じだ。
「……って、今思ったんだけど、大神様があの祠にお座すのに、使い夫婦のあんた達が贅沢三昧なのは、腑に落ちないわ」
「もう!みこちゃんたら……やっかみ?私が幸せすぎるから……」
……うっ。無きにしも非ずだけど………
「鹿静は物凄い忠誠心の持ち主だから、そこの所は大神様にご忠言申し上げてあるんだけど、あのお方はそういう事全然気になさらない気質なんですって。〝鹿静は所帯を持つのだから、しっかりとした生活を致せ〟って申されたようよ」
「えーなんか、鈴音ちゃん、都合のいいように言ってない?」
「馬鹿ね。主従関係って、私達が考えるより遥かに厳しいんだから……。人間如きの私が都合よく言ったりしたら、バチが当たるからね、ま・じ・で」
鈴音は真顔を作ってみことに言った。
「鹿静の会社だって、神様の土地を管理する為に在るんだよ」
「へ?」
「ほら、裏の林みたいな?世間では国の物と思われてるけど、実は神様の物って沢山あるのよ。昔はこの世の物はみんなみんな神様の物って考えだったけど、今の時代って違うじゃない?だけど決して手を付けてはいけない物って有るのよ、それを管理してるのが神様?」
「ふーん?じゃ、大神様の物なの?」
「大神様はどうやら土地の神様らしい。鹿静が言うには、日本にはいろんな神様が存在するっていう考え方があるんだけど、その説が一番本当に近いらしく、私達が想像する絶対的に君臨する神様っていうのは、いないらしいのよね」
「え?神様ってそうだと思ってたよ」
「そうなんだけど、そうすると確かに鹿静が言うところの、神様の存在理由が違ってきちゃう。神様って地球の均整を保つ為に存在しているわけだから、絶対者っていったらそれは地球って事になるじゃない?」
「うっ。ちょっとムズいんですけど」
「まあ、私が鹿静に聞いた範囲で理解した事だから、判然とはしないけどね。だってあいつらの存在って判然としない訳だかさ」
「それでも好きなんだよね?」
「うん」
……莫大な〝力〟が……
みことにはそう聞こえた。
怖い怖い。