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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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心して仕えよ20

 大神様が帰られてから数日後。

 一族の中で一番と自負していたにも関わらず、全くの大穴でみことを指名され、面目丸つぶれだった叔母が、大神様の指名理由に納得してやっと帰ってくれた。


「結局叔母さん、腹立ててたのよね?」


 みことが静かになったキッチンで呟いた。


「それはそうでしょ?あんたに来たんだから……()()()()


 母は物凄く力を入れて言う。


「確かにそうかもしれないけど、親なんだから少しは私の肩持ったらどうよ」


「肩って……。どうしたって持ちようがないでしょ?私だって〝無い〟んだから……。どっちかって言ったら、叔母さんが気の毒だわよ……」


「はあ……」


 一族の女子達は〝あのみことに来たのだから〟と、イケメン神使いと大神様を心待ちにしているようだ。

 確かにみことに来たという事は、 遙の血筋の女子なら誰でもイケルという事になった。

 叔母のように〝持って〟いて、いろいろ関わったり修行的な事をしなくても、何にも〝持って〟いなくても来る……って事になってしまったのだ。

 日本中の遡った所の、遙の乙女達は心待ちにしている。

 それはそれで、なんだか責任を感じてしまう。

 別にみことが懇願した物でも無いし、呼んだ訳でもないのだが、来ない数値が高いのに、〝待つ〟という期待を持たせてしまった……。

 それって自分の事?

 みことはそう考えると涙が浮かんでしまう。

 みことの好みに合わせてくれる男子(ひと)なんて、現世にいるかしら?

 いつも合わせて貰うのではなくて、合う男子(ひと)を探して、ちょっと合うところがあったら、理想の相手と思い込んで夢中になって……。


「……とは言っても、大神様だもんなぁ……畏れ多すぎる……」


「なにぶつぶつ浸ってんの?お店に行かなくていいの?」


「お母さんお願い……」


「まったく。一体いつから喫茶店やってんだっけ?おばあちゃんの時代からかしら?なんか記憶にないし、ずっと私がやってたのかしら?……」


 幻惑だか何だかに掛かっている母は、文句を言いながらも、意外と楽しそうにやっているが、確かに母の愚痴も解らないでもない、これは棚ぼた式にご加護の前倒しで頂いた〝もの〟だから、本当はみことがきちんと切り盛りしなくてはいけないのだが、お別れのお言葉も頂けず大神様が帰ってしまって、みことはかなり傷心なのだ。

 キリキリとグリグリと心が痛い。

 心臓よりずっとずっと内側が痛い。

 青孤さんにも会えないし、大神様にも会えない。

 毎日のように裏の林の木祠に行くが、朝と夕に山本のおじさんと、とても元気になったおばさんに会うだけだ。

 夜遅くまで居て、なんだか気味の悪い笑い声を聞いた事もある。

 あれはフクロウかミミズクだと自分に言い聞かせているが、こんな所に居るかしら?

 きっと大神様に未練なんか持つみことを、天の誰かが嘲笑っていたに違いない。

 そんな悲愴感にドンよりしながらボーとしていると


「みこと」


 母がみことを呼びに来た。


「小太りの川獺男爵が呼んでる」


「え?……」


 みことは母の言葉を思案して、ハッとしたように


「お客さんは?」


「今帰ったばかり」


「居ないのね?」


「そうなのよ。帰ったと思ったら……」


 大急ぎで店に出た。


「大神様のお出ましである。遙みことは心してお迎え致せ」


 小太りの赤獺が、店の入り口に立ってしたり顔で口上を述べた。


「…………」


 みことはジッと次に鈴が鳴って、大神様が入って来られるのを待った。


「赤獺さん……お出ましにならないんですけど……」


「はて……」


 赤獺も(いぶか)しげに入り口を出て覗き見る。


「なんと!」


 赤獺は大声をあげてみことを見た。


「大神様がお出でになられない」


「はぁ?」


 みことも外を出て辺りを見回した。


「うそぉ」


 みことと赤獺は点でに探し回る事に……。



 家の裏の林の中……。

 其処にはイケメンの大神様がお座した木祠があって、ずっとこの辺りの人々が大事にしている所。

 木々の木洩れ陽にその木祠は眩いばかりに照らされて、そこに佇む大神様を神々しく光り輝かす。


「みことよ此方に参れ」


 大神様はみことを認めると、僅かに片側の口元を綻ばせて言われた。


「此処に暫し()る事と致した」


「え?」


「暫し此処に()る故、心して仕えよ」

 

 大神様は木祠を、ジッと見つめながら言われた。


「みことよ、そのように喜ぶでない……」


 大神様はみことを見る事なく言われた。


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