心して仕えよ2
「とにかくジタバタと致さず、遙みことよ身を正してお言葉を拝聴いたせ」
みことは渋々と布団の上にかしこまって、身を正し正座して頭を深く垂れた。
「この都度、我神使の鹿静が婚儀致す事とあいなり、永年仕えてくれた労をねぎらい、祝いに参ずる事と致した」
青孤はみことが惚れ惚れとする声音で、高々とお言葉を読み上げた。
「…………」
身を呈したままみことはずっと、その先のお言葉を待ち続けた。
しばらく空間に静寂しか存在しなくなった。
「あの……以上ですか?」
「お言葉は以上である」
「その先って……普通ありますよね?」
「???」
「いえ……だから、参ずる事と致したからどうしろ……とか……」
「それはそなたが心を込めて、おもてなし致すのだ」
「心を込めておもてなし?って言われても……えっ?おもてなしって、此処?此処にお出でになるんですか?ご神託じゃなくて?来る?くる?クル?」
「さよう。以前もこのような事があったが、はて?百年、二百年前であったか?」
「二百年前ですか?いつの頃の事?」
「短命のお前達であるゆえ、同じようなおもてなしはかなわぬであろうから、私が使わされたのだ」
「はあ……」
「とにかく、大神様が直に参られる。準備を致せ」
「準備って言われても、私仕事が忙しくて休めないし、有休も使っちゃってますし……」
「時間の問題であるか?」
「ええ……まあ……」
みことは好みのイケメン青孤と一緒に居られるのは嬉しいが、こんな面倒な事をしないで済まそうと、本当の事を交えて言った。
「では、時間の取れる仕事を致せ」
「それはちょっと……。自分でお店でもやってるならまだしも、雇われの身ですから……」
「ふむ……。お仕えする身は同じである。確かにその方の言い分には一理ある」
「あっ?じゃ他の親戚を当たってもらえます?」
「まだ、そのような事を申しておるのか?大神様にお目もじ頂くなど、今生の誉であるぞ」
「それはそうですげど、事情が事情ですから。だって遙の家系は他にもいるはずですもん……そうそう東北の叔母さんは巫女さんはしていないけど、それなりに修行をして、うちの親族の中では一番あるって言われてるし、家だって何年か前に立て直して綺麗だし広いし……」
「あの者は大神様のお好みに合わぬのだ」
「だから、何が好みなのか?なんで私なんですか?」
「そのような事など、只の使いでしかないわたしが解りよう筈もなかろう?」
「それはそうだろうけど……」
「そこまで言うならば致し方ない。今の仕事はやめに致し、自分でお店でも持つがよい」
「はあ?」
「以前喫茶店をしたいと申しておったであろう?」
「なんでそれを?確かにお金を貯めてやりたいなぁとは思っているけど……」
「では、それを致し大神様に尽くすお時間を作れ」
「そんな簡単に……お金だって無いし……」
「よい。大神様のご意向である。鹿静の婚儀迄〝そのように〟致す事と致そう」
「婚儀……って何時なんです?」
「ひと月後である」
「えっ1ヶ月も先?……じゃあ、なんでそんなに早く此処に来るんです?」
「そのような事、わたしごときが解ろう筈もなかろう?」
「それはそうだろうけど、二、三日前とかなら分かるし、私だってそのくらいだったら休みはどうにかなるのに……」
「またその様にぐちぐちと……。とにかく大神様をお迎えし、滞りなくおもてなし致すように、その方の願いをきいてやるのだから、全力を尽くしお迎え致せ」
「……はいはい、確かに大神様の御心は誰にも解りませんね……」
みことは大きく項垂れてうつ伏した。
「確かにお言葉を賜りました。大神様の為に身を粉にしてお尽くし致します」
みことはやけっぱちで言い放った。
「うっ。なんという態度であろう……」
……なんで私がこんな目に……
心の言葉が溢れ出てしまって、慌てて青孤を見上げた。
青孤は、苦虫を噛み潰した様な表情でみことを睨みつけたが、何も言わなかった。