心して仕えよ19
「今朝は早いではないか」
山本のおじさんが一通り掃除をして、みこととおしゃべりを楽しんで帰って行くと、木祠の中から青孤と鹿静が現れた。
「あれ?鹿静さん今日新婚旅行に行くんじゃ?……っていうより、新婦を結婚早々ひとり寝させちゃったんですか?」
「鈴音はできた人間なので大丈夫」
………はあ?鈴音ちゃんが?確かに違う意味では、できているともいえるけど……
おとっと、気をつけねば筒抜けなんだった……。
みことは大荒れで無心を心がけた。
「大神様も戻られた事だし、これから参る所なのだ」
青孤が優しく説明してくれる。
「……では後の事は……」
鹿静が神妙な面持ちで言った。
「ああ、赤獺に任せておけば大事ない。楽しんで参れ」
鹿静は頷くとスッと姿を消した。
「鈴音ちゃん、寂しかったろうなぁ」
「その辺りはシカと心得ておるらしい、実に良い者を娶った」
青孤さんが褒めるので、みことはちょっとやっかみを覚えなくもない。
「大神様帰られちゃったんですか?」
みことが寂しそうに言った。
「あの状態では此処にはお座せられぬ」
「……そうだけど……」
「はなより鹿静の婚儀迄と決まっておった事」
「そうだけど、一言くらい挨拶してくれても……。無理な状態なのは解りますけど……。大神様大丈夫なんですか?」
「いや、いまだお眠りになられたまま、お帰り頂いた」
「あっち……?」
みことが天に向かってゆびを指した。
青孤はそれには返事をせずに
「先程の者は、神祠を守っておる者か?」
話題を変えて言った。
「ああ、山本のおじさんですか?ええ小宮さんが亡くなってから、ずっとおじさんが……。青孤さん知ってるんですか?」
「私は知らぬ。ただこの様に、主人が無い神祠を守っておるとは、実に見上げた者達であるな……」
青孤は感慨深いげに木祠を見つめた。
朝の陽射しが木々の間から差し、その木洩れ陽を浴びながら見つめる姿は、惚れ惚れとするくらい美しい。
「そう見惚れられると、こちらが恥じ入る」
青孤は顔を向けずに言った。
「へへ……。そうそう、そう言えば。山本のおじさんの奥さん、三ヶ月程前に救急車で運ばれて入院してたんですけど、今日退院できるって喜んでました。ちょっと痴呆も入って来てたんですけど、なんか良くなって来てるみたいで……」
「大神様のご加護である、当然の事」
「え?大神様が?」
「大神様がその者達をどうのではない。大神様に関わる事で善行をしておれば、自ずと加護が頂けるという事だ」
「じゃ、私にも?ありますかね、ご加護……」
「うっ、確かに。その方に無い筈はないな……」
青孤は慌てる様に言った。
「ですよねー」
みことは嬉しそうに、青孤を見つめて言った。
「しかしながら、其方には夢である店を前倒しで持たせたのだから、それでチャラやもしれん」
「えーマジで?そんなケチい事、大神様がなさるんですか?」
「では其方の……」
と言いかけて、青孤は先を呑み込んだ。
「聞かぬが華と言うからな……」
「え?聞いてくださいよ」
「どうせイケメンが脳裏に浮かんでおろう?流石の大神様も、その様な下賎な事しか浮かばぬ其方を、相手にされるはずもない」
「そんな、優しい優しいイケメンの青孤さん……」
みことはしがみつく様に青孤を見た。
「其方はご神託を受ける家柄の娘であるのだから、もう少し品性を向上致さねば」
「ご神託なんて、本当に受けるなんて思ってなかったですもん。特に特に私!」
「ふむふむ、然るにだ」
「何が然るに……なんです?」
「ああ、よい」
青孤は面倒くさくなったのか、遇らうように言った。
「またその方の元に参るやもしれぬ」
「え?青孤さんが?」
「いや、赤獺がだ……」
「えー赤獺さんですか?青孤さんに替えて貰えないものなのかな?」
「それはならん」
「かなりきっぱり言うんですね。大神様って意外と頑固者?」




