心して仕えよ17
披露宴も終わり帰るかと思いきや、大神様は
「二次会とやらに行ってみたい」
と、訳のわからない事を仰せになられた。
お供の赤獺は当然の事だが、心配した青孤さんも残る羽目に。
しかし、一番気が気ではないのは、なんといっても主役の一人である鹿静さんだ。
二次会ともなれば羽目を外す輩もいないではないから、尊い大神様がこんな所に居られては、気が気じゃないらしく、鈴音の傍に居るよりも、大神様の側に陣取っている事の方が多い。
こんな所とはいっても、有名ホテルの中に在るこじんまりとしたお店だが、驚く事に大神様と青孤さん目当てで、独身女性の大半が此処に居る。
当初行かないと、鈴音に言っていた友情達も居るらしい。
「みこちゃん。気をつけないと、どっちか取られちゃうわよ」
またまた鈴音悪魔の言葉がみことを襲う。
「どっちか……って」
「大神様とあの青孤って使い。あれもあんたが言う通りかなりイケてるもの」
「でしょ?あれは幻覚や幻想じゃないだよ」
「飢えた肉食女子には、目の毒だわ……」
鈴音のお友達の目が、変わっているのがわかった。
「狐なのに兎の様に見える……」
鈴音は可笑しそうにそう言うと、鹿静の方へ歩いて行った。
みことが鈴音とそんな会話をしている内に、大神様席の周りは女性でいっぱいとなっている。青孤もお側に居るからそれは大変だ。
「悪いが大神様をお連れ致すから、帰る支度をいたせ」
青孤がちょと離れた所に座る羽目となった、みことに言いに来た。
「あ、はい……」
素直に頷いて荷物やコートやらを、手に持って青孤の後に従った。
「え?」
青孤とみことは呆然と立ち尽くした。
なんと正体もなく酔い潰れていた大神様が、席においでにならない。
「赤獺!大神様は?」
「あそこで楽しげに、飲まれておいでであろう?……え?」
ちょと酔いが回っている赤獺が、瞬時で固まった。
なんと酩酊状態の大神様が居ないのだ。
「確かに先程まではおいでになられた」
蒼ざめ気味の赤獺が言った。
「とにかくお姿をお探し致さねば」
鹿静さんまで、慌てふためいて探し回る事に。
「あれ程の酩酊状態である、何処ぞに行かれたとは到底思えぬ」
青孤と鹿静は、そう言いながら店内を探す。
みことはガラス扉の向こうで、人影を見て店を出た。
「大神様」
「大神さんと言うの?」
二人掛りで大神様を両脇から支える様にしている、女性達の一人が言った。
「あっ大神さんね……どうしてここに?」
「この状態で、フラフラと出て行ったから、気になって追って来たのよ。そうしたら店の外で倒れこんじゃったから……」
「あ、ありがとうございます」
「あなたこの男性と知り合い?」
「ああ……はい……」
「凄く素敵だけど、芸能人?」
「全然……違います」
「うそ。モデルか俳優かと思った」
「全然……。ああ、それは私の好みなので……」
「なに?おたくの好みって……。まさか彼女?じゃないわよね。全然釣り合わないもの」
「釣り合わない……って言われても、一応唯一無二の存在だとは言われてるんですけど……」
地獄耳で聞き取ったお言葉は忘れない。
特に〝唯一無二〟の四字熟語は検索したほどだ。
「なにそれ?自慢してんの?」
「いえ、自慢ではなくて……」
みことがモタモタと言っていると
「大神様……」
赤獺と鹿静と青孤が、慌ててやって来た。
すると鹿静と青孤を見て、二人の女性は表情を変えた。
世の女性なら鹿静と青孤を見て、動揺しない訳はない。二人とも目を引くイケメンだ。
「如何されたのだ?」
「フラフラお店を出て倒れてたらしくて、この人達が抱えてくれてたんだけど……」
「それはありがとうございました」
鹿静はこの手の女性の扱いには慣れている。
丁重に礼を言うと、大神様を抱き寄せる様に引き寄せた。
空かさず、赤獺が反対側から支える様にする。
「とにかく行こう……」
大神様を赤獺と支え合いながら、何やら言いたげな表情の女性達には目もくれず、人目のつかない脇道に向かって歩き始めた。




