心して仕えよ16
さて、そんなこんなで日が過ぎて、鈴音ちゃんと鹿静さんの結婚式は、良日とある有名結婚式場で行われた。
無論神前式だったが、大神様が鹿静さんの親族と共に、席に着いていたのだから、もしも神様がお座したとしたら、きっと遣り難かったに相違ない。
大神様は〝其処に神はいない〟と言っていたけれど……。
目なんか合ってたりして……。
華やかな披露宴も有名ホテルで行われ、不動産会社の社長である鹿静なだけあって、それはそれは盛大なものだった。
当初みことは招待客の中に存在しなかったが、鈴音の友人でもあるし、大神様のお口添えも有って、急遽招待客の名簿にポポンと載ったのであった。
……これがご神力の威力というもの……らしい。
これなら鈴音ちゃんが欲しがる訳だ。
そんな豪華な披露宴に出席したことが無いが、とにかく鹿静の招待客はバカ多い。
全部が全部人間ではないようだが、区別なんてつかない。
「あ!」
そんな招待客の中で、ひと際光輝くふたりがいた。
勿論一人は神々しいまでに眩しく輝いて、会場の女性という女性から注目を浴びる大神様。
そしてもう一人は、なんとあの青孤さんではないか。
みことは大神様と共に親族席に着いていたが、青孤が赤獺と一緒のテーブルに座っているのを見つけると、そそくさと走り寄って行った。
「青孤さんも来てたんですね」
みことが上気して嬉しそうにしていると、赤獺が一瞥して舌打ちをした。
「その方も呼ばれておったのか?」
「急遽大神様のお慈悲で呼ばれたのだ」
赤獺が意地悪く言い放つ。
「鈴音ちゃんが呼んでくれたんですぅ」
「ならば、なぜもっと早く呼ばれなんだのだ?」
「鈴音ちゃんが大学が遠くだったから疎遠になちゃってたし……」
たぶん鈴音は鹿静の事を、ご神託頂く家系であるみことには会わせたくなかったのだろう。
〝持ってない〟とはいっても、鹿静の正体を知られたくなかったのだ。
愛する鹿静が危険な事になるのを避ける為に……。
……そういう所は、女の友情って薄っぺらいものだわ……
「もう!青孤さんとこいつと、代わる事ってできないんですかねー」
みことが赤獺に向かって言った。
「それはできぬな。大神様の命とあらば……」
「そんなに大変な用事なんですか?」
「我らの命に大変でないものはない。みな大事な物ばかりだ」
青孤はみことを窘めるように言った。
みことは不満そうに頬を膨らませた。
「申し訳ないのだが、一つ頼みを聞いて貰ってもよいか?」
青孤はみことに、それはそれは素敵な笑顔を作って言った。
「勿論です……言ってください」
目がハートのみことが青孤に詰め寄った。
「大神様が人間の美女に襲われんとも限らぬゆえ、心して守って貰いたいのだ」
「えっ?」
大神様が座るテーブルに向かって、スマホのカメラのシャッター音が彼方此方から聞こえている。
「うそ……」
「頼んだぞ……」
「も、勿論です」
みことは大慌てで大神様の隣の席に戻った。
「大神様もなんの戯れであのようなお姿を……」
「あの娘の好みにございます」
「ほう?あの者の?」
青孤は狐顔を一層と狐顔にして微笑んだ。
「それは又……」
「なんだ?」
赤獺が怪訝そうに青孤を見た。
「なに……なるほど……」
青孤は暫し大神様とみことを見つめて佇んだ。
「もう……もっとダサい礼服にすればよかった」
みことは大神様を見つめながら憮然と言った。
「みことがこれがよいと……」
「ああ……ネットでね」
大神様と赤獺が披露宴に出席する為に、ネットで調べて最速で届くようにしたのだが、その事を言っている。
「赤獺さんはなんかダサいのに、どうして同じ物なのに大神様だとカッコいいんだろ?」
「それは、その様にしておるからであろう」
「えっ?」
「みことがそれが好みであるから仕方がない」
「…………」
みことは真実を突かれて二の句が継げない。
「大神様はちょと意地悪かも……」
そう思った瞬間、大神様は和かに微笑まれた。




