心して仕えよ15
…….最後はやっぱりそこに来るのか……
みことは自分の知っている鈴音だと納得した。
「理想中の理想だもん……あんなに理想の人間なんて存在しない……でしょ?」
鈴音はそう言って笑った。
「つまりはそう言う事だって……みこちゃん、あんただってわかるでしょ?大神様だもんね……」
「えっ?な、何を……」
「はん。私の目を誤魔化せるとでも?あの大神様だよ。みこちゃんの理想中の理想……。お顔から体型から性格までも……」
「な……なんで?」
「ちょっと性格変わった、超イケメンが好きだったもんね」
「えっ?」
「一年の時の望月君。二年三年は木下君だっけ?超イケメンだけど、ちょっと変なヤツだったじゃん?」
「そして、二人とも私に全然興味無かったけどね」
「そうだっけ?って、顔がいいヤツで背が高くてモデルにスカウトされるようなヤツはモテるっしょ?そんなのが好きなんだから仕方ないじゃん」
「そういう男って、美人が付くよね」
「あー」
鈴音は二人を思い浮かべて納得して頷いた。
「人間ならね。だけど神の好みってわかんないよ」
「昔から人身御供も生贄も美人って決まってる」
「あれは言い伝え。物語じゃない?第一神様が書いたわけじゃないから、本当のところはわかんないよ」
「そうかな?いやいや……」
「……っていうか、よくあれだけみこちゃんの、好みで登場したわよね?大神様って本当にああなのかな?」
「ううん。来られた時に、イケメンにするか猫男爵にするか聞かれた」
「なに?その猫男爵って?笑えるんだけど」
「ああ……なんでも、母親が猫男爵に見えるらしくて……。叔母と私は勿論イケメンでお願いして……」
「へえ?大神様ってそうするんだ?……鹿静は最初からイケメンだった。直ぐに相手の好みとかわかるみたいだけど……」
「神使いには実態があるんだって。最初に来た青孤さんは美形眷属なんだって」
「ええ?大神様より先に神使いにまで色目使ってんの?」
「うっ、イケメンに弱いのよ」
「昔からだよね。それでロクな縁が付かないんだよね」
「親に迄ロクなヤツと結婚しないって言われてる」
「そりゃ心配するよ、顔だけは一番ヤバいもん」
「鈴音ちゃんは、その点昔からしっかりしてるもんね」
「男は〝力〟がないとね」
「若い頃は〝力〟は力と取れてたけど、年を取った今では、その言葉はいろいろ重い」
「はは……いろいろ思いがあるからさ……」
鈴音は真顔を作ってみことを直視した。
「みこと、これはご先祖様が心配して、大神様を此方に引きつけたのかもよ」
「ど、どういう意味よ?」
「どう考えたってみこちゃんの将来は、ロクな男としか一緒になれないって事。だからご先祖様が心配して、それはそれはご立派な大神様に、あんたをお願いしようと此処に引きつけたんだと、私は思うよ」
「なにもそこまで……第一最低の人間と、一緒になると決めつけなくても……」
「下手したらヒモ男みたいなのにつけこまれちゃうか、ホストに入れあげるとか?」
「マジでそこまで行かないから」
「いやいや……ご先祖様には、みこちゃんの未来が見えるんだよ」
「もう!鈴音ちゃん、そうやって私をその気にさせるのはやめてくんない?望月君も木下君も、鈴音ちゃんがこんな風に嗾けて……」
「その気になっちゃったんだ?……つまり、大神様もその気になっちゃってんだ?」
「あーやめてやめて!鈴音ちゃん、私に罰を当たらせたいわけ?」
「いやいや。大神様を好きになったって罰は当たらないでしょ?」
「もうこれ以上止めよう。マジでヤバいし〝みこと〟なんて呼び捨てにされるだけでドキドキなのに……」
「えー?呼び捨てにされてドキドキするんだ?」
「いや、だからもう……この件は……」
「みこちゃん」
鈴音は大真面目な顔をみことに近づけて、ガシっと両肩を掴んだ。
「大神様に呼び捨てにされて、ドキドキしない方が罰が当たると私は思うよ」
鈴音悪魔の囁きが、みことの両耳から小気味好く脳裏に侵入した。




