心して仕えよ11
「赤獺が供を致しておったのか?」
鹿静は爽やかな笑顔を見せて赤獺を見上げた。
ちょっと細身の長身だが、やっぱり端正な顔立ちのイケメンだ。
「此度は実にめでたいな……」
大神様がそう言われると、鹿静の傍で畏まって伏している女性に目を向けた。
「この者が鈴音にございます」
「ほう……」
「芦川鈴音にございます。お初にお目もじ頂きます」
そう言って首を上げた。
「えっ?」
みことの声に一同がみことを注目した。
「えっ?鈴音ちゃん?」
「えっ?みこちゃん?」
「ええええ???」
二人が異口同音で声を上げたので、鹿静は鈴音とみことを凝視する。
「どうしたの?どうしたの?」
みことが擦寄るように鈴音に詰め寄った。
「へへ……結婚する事になってね……って、なんであんたが?……えっ?あの方って……あれだよね?」
「あれだよ」
「あれだよね……」
「あれだよあれ……」
「この不届き者どもが!」
みことと鈴音はすぐ様赤獺に恫喝された。
恐縮する鈴音に、大神様は優しく声をお掛けになられたので、鹿静と鈴音は客間に入って、大神様と赤獺に対座した。
「二人は知り合いであるか?」
「あ、はい。高校の友達です」
「それはまた縁であるな。鹿静の許嫁がみことの友であったとは……。故にわたしは此処に来てみたくなったのやもしれぬな」
「あの……どういう意味ですか?」
慈愛に満ちた笑みを浮かべて、鹿静を見つめる大神様にみことは聞いた。
「なにを……」
鹿静が頓狂な声を発してみことを見た。
「よいよい……」
大神様は優しい声音で、いきり立つ鹿静を制した。
「鹿静はわたしにとって、長年使えてくれた〝もの〟。そしてみことは唯一無二の存在である。故にその〝もの共〟が近しい〝もの〟になる故、わたしはその方共に会いたくなったのであろう」
「………?」
みことが余りに理解しがたい表情を浮かべているので、鹿静は赤獺に顔を近づけた。
「あの者が受者なのか?」
「……のようだ……」
「マジか?」
「……のようだ」
「しかし、どう見たとて……ではなかろう?まだあっちの者の方がそれっぽい」
鹿静は叔母を小さく指して言った。
「……なのだが、大神様はいたくお気に召しておられる」
「……大神様は、かの昔から変わられてるからなぁ……」
「おっ!やはりそうか?そう思う所も多々あったが、流石に言葉に致すは憚られたが、鹿静が申すのであらば〝そうで〟あろうな」
「まあ……。大神様とはお誕生になられた時からの付き合いだからな……。青孤さんがお守り役的な?」
「えっ?さようなのか?」
「なんだ知らないのか?青孤さんは俺らよりずっと年上なんだぞ」
「年上?」
「年長者という事だ」
「道理で全てにおいて、ぬかりがない訳だ」
赤獺が真顔を作って青孤を讃美した。
「お前は大神様に仕えて、まだ間がないからなぁ。少しずつ大神様に慣れていかなきゃいかんな」
「慣れか?」
「大神様は他の神々様方とは、ちょっと違うから慣れて行かんと……」
「さようか……」
一瞬赤獺が不安そうな表情を浮かべた。
「いやいや、神としては変わってる……というか、神としての自覚が多少欠落しているって感じだから、神様らしい神様に仕えたものは……その差というか違いに戸惑いを持つと思う。慣れるまでちょっと大変かもな」
「そうだ。その通り。昨夜も何故か大神様の木祠にお供致した」
「木祠?……ああ、あそこの祠か?どういう理由かお気入りなのだ。そうか……懐かしいな」
鹿静は懐かしげに遠くを見るような表情を作った。
「じゃあ、お側で寝かされたろう?」
「おお、致した致した。大神様のお側で夜を明かすなど、なんたる罰当たりであろう」
「いやいや。それも慣れんと」
「やや?あれは、お仕え致す間ずっとなのか?」
「お供をする時はな」
「神とご一緒致すなど、なんと罰当たりであろう」
「大神様は罰をお与えになる事自体、ご存知ないやもしれんぞ」
「な……なんと風変わりな……」
「……であろう?」