心して仕えよ
シャリーンシャリーンと鈴が鳴っている。
鈴?リン???
とにかく凄く心地良くて、そしてちょっと耳障りな……。
シャリーンシャリーン……。
段々と近づいて、耳障りから五月蝿いに変わって、遙みことは目を開けた。
「……やっと目を開けたか……」
眼前に映る顔型のシルエットに身体が強張った。
「ぎゃ〜」
みことは声にならない悲鳴を上げて、身を翻そうとジタバタと布団の上でもがいた。
「なんみょうほうれんきょう、なんみょうほうれんぎょう」
「……全くもって……」
顔型シルエットは小さく舌打ちすると、ぽっと部屋を薄っすらと明るく照らした。
「ぎゃ……」
悲鳴を上げかけて、みことは声を飲み込んだ。
……マジ?めちゃイケメン……
ツボの中のツボ。ストライクゾーンど真ん中。
こんなに好みのお顔は、産まれてこの方お目にかかった事がない。
「何がタイプだ……。全く最近の者は……」
「えっ?」
「イケメンだとか、タイプだとか……くだらぬ事を考えておらんで、身を正して〝大神様〟のお言葉を拝聴いたせ」
「えっ?えっ?私の思ってる事が解る?えっ?」
「イケメンさんではない。大神様の使いの青孤である。身を正せ身を……」
「大神様?使い?青孤……」
みことは、薄っすらと明るく見える天井に目をやりながら、まだまだ寝足りない脳を、一所懸命に叩き起こした。
「……あ……」
「おっ!やっと理解しおったか」
「うっ、マジですか?」
「なんだ、その悲しげなリアクションは?」
「うっ……だって、私の代でご神託頂く事なんて、あるか無いかだって……」
「……あるか無いか……は、有る事であろう?光栄に思うがよい」
「え〜。あるか無いかは、〝無い〟でしょう?有るなんて思ってなかったですもん」
みことは大きく肩を落として項垂れた。
遙の家系は永きに渡って、神様のお言葉を頂く家系だ。
〝神託〟とか〝託宣〟とか云われているが、確かに遙遙の昔は巫女だった者もいるようだが、何せ遡れば数多い遙の女系の家系の誰かに誕生するというものだから、それを引き継ぐなど到底できないから、親族の中でちょっと変わった女子が誕生したら、一応……一応言い伝えておこうという程度だから、みこともその程度で母と祖母に言い聞かされて来たが、まさかまさか本当に自分に降りかかってこようとは。
「この痴れ者が!」
イケメン青孤が、みことの心を読んで大声を出した。
「うっ……」
「大神様の御成を有り難く思うのでもなく、その様に落胆いたすとは……」
「だって、だって青孤さん。私以外にも……あるかもって言われてる親戚っているんですよ。大分の雅美ちゃんとか神奈川の百合ちゃんとか……」
「残念ながら、その者達はまがい物である。確かに他にも候補者はおるのだが、大神様のお好みというものもある」
「ああそうですよね?神様って面食いですもんねー」
みことがちょっと気を良くして顔を上げて青孤を見つめた。
見れば見るほど、見惚れてしまう程に好きな顔立ちだ。
「はあ?大神様はお前達とは違い、面など全く興味をお持ちにならぬ」
「えっ?だって人身御供とか生け贄とか神様への捧げものとかって、美女と決まってるじゃないですか?」
「それはお前達の量りで量っての事であって、決して大神様の意向に沿う者ではない。第一大神様は生け贄など欲しておられぬのに、勝手に捧げておるのはお前達なのだ」
「ええ?って、捧げられた人達って、捧げられ損って事?それって酷くないですか?」
「酷いも何も、勝手にお前達人間が仲間を殺しておるだけという事だ……」
「……そんな。龍神様と乙女の恋物語とか、あれって嘘なんて哀しい……」
みことが泪ぐんで口惜しがっていると、青孤は傍にあってため息を吐いた。
……なぜ大神様は、このような者をお選びになられたのか……