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魔女と宝物庫と爆破

「…… マスターは一人で森も歩けないのですか?」

「そ、そんなことないよ! ボクは魔女だよ? 森の中なら手に取るようにわかるよ!」


 結局血まみれになったメルセデスは風呂に入り身綺麗になった後にアィヴィを連れて森へと繰り出すことにした。

 しかし、籠を背負い連れてこられたアィヴィはというと「私、不機嫌です」というオーラのようなものをゴーレムのはずなのに出していた。顔は無表情なのに器用である。

 そんな不機嫌そうなメイドにビクビクと怯えながらもメルセデスは森の中を歩いていく。


(そろそろ真面目に調合とかしていかないとまずいしねー )


「アィヴィは掃除したかったのに…… 掃除したかったのに……」


 ゴーレムのくせに何故か呪詛が乗りそうな感じの言葉を吐き続けるアィヴィに気づかないフリをしながらメルセデスは目ぼしい薬草やキノコを採ってはアィヴィの背負う籠の中へと放り込んでいく。勿論全部摘んだりはしない。ある程度は残しておかないと次からは採取ができないようになってしまうからだ。


「うは! これは魔女にとっては宝物庫に等しいよ!」

「ちゃんと売れる魔女ならでは?」


 アィヴィの皮肉などはあっさりと聞き流しメルセデスは薬草摘みに没頭していく。

 この森は他に薬草などとる魔女や錬金術師などがいないせいかそこいら中に貴重な薬草が群生しているようだ。

 メルセデスが嬉々として薬草を摘みアィヴィの背負う籠に入れていくと一時間もしないうちに籠がいっぱいになってしまった。


「これだけあれば十分かな」

「マスター」

「今度こそ回復ポーションを作れるようになって魔女検定に受かるぞぅ!」

「マスター」

「そして後々ボクは大金持ちだ!」

「マスター」

「ふふふふ、ってどうしたのアィヴィ」


 様々な薬草を採ってご機嫌、というか邪な妄想をしていたメルセデスであったがアィヴィが何度も呼んでいることに気づきそちらへ向く。するとアィヴィが無表情でありながら少し、ほんの少しだけ緊張したような表情をしていることにメルセデスは気づいた。


「囲まれてます」

「へ?」

「ですから囲まれています。唸り声などからしてモンスターではなく獣、狼ではないかと」


 平然と言い放ちながらもアィヴィは手を軽く動かしながら準備運動のようなものを開始している。ゴーレムなのに。

 メルセデスはというとそんなアィヴィの後ろに隠れるようにしながらもベルトからフラスコを取り片手に持つと怯えるようにもう片方の手で自分よりも小さいはずのアィヴィが背負う籠を掴み、周りを見渡していた。護衛用の爆裂ポーションである。


「きます」

「ひぃ!」


 アィヴィは呟きながら頭の巻き鍵を回す。

 メルセデスは情けない悲鳴を上げ、それと共に薬草などが大量に放り込まれた籠を背負っているとは思えないほどの軽い足取りでアィヴィは一歩前へ踏み出すと残像が見えるような速度で右手を突き出した。

 突き出した手はアィヴィに飛びかかろうとしていた狼の首元を右手で易々と掴む、さらに左手を後ろに回しメルセデスが手にしていたフラスコを奪い取るとそれを掴んだ狼の口へとねじ込むとその狼をすかさず放り投げた。これらの動作をわずか一秒ほどでアィヴィはこなしていた。


 放り投げられた狼は獲物には向かっていたはずなのに突然放り投げられたことに目を白黒させながら地面に打ち付けられ、他の飛びかかろうとしていた狼の元へと転がりながら戻っていった。

 そして爆発。しかも周りの狼をも巻き込んでの大爆発である。小さくない火柱を迸らせながら周囲に熱気を振りまく。


「あつ、あつぅぅぅ!」

「我慢してください」


 そんな熱気が上がる火柱の近くをメルセデスを脇に抱えながらアィヴィは駆け抜ける。

 ゴーレムである彼女は熱さなどはものともしないが生身の魔女であるメルセデスはそうはいかないのでぎゃあぎゃと喚く。


「…………」


 若干やかましめに叫び続ける主人にアィヴィは無表情ながらにいらついたのか脇に抱えるのではなく背負っている籠の蓋を開けると薬草などがたっぷりと詰まった籠の中に無言で放り込んだ。


「ちょっと⁉︎ なんで」

「やかましいです。ちょっと黙っててください」

「くさい、ここ薬草臭いよぉ! あと薬草が口の中に入って苦い!」

「たまには栄養が取れていいと思います」

「ご主人様への愛が軽いよ!」


 メルセデスを脇に抱えていら時よりもさらに素早くアィヴィは動く。足に全力を込め、爆裂ポーションによって崩壊した狼たちの包囲網を突き破るように駆け抜けていく。その動きは町にいる冒険者などが見たら口を大きく開けてしまうほどの動きを見せていた。


 木から木へと飛び移り、狼の噛み付き攻撃を躱し、すれ違いざまに拾った木の棒で狼の顔面を叩く。それも高速で。

 そんな人外な動きを繰り返しているというのにアィヴィのメイド服には傷どころか汚れの一つも付いていなかった。

 そんなことを繰り返していると当然籠は色々と振り回されるわけで。


「ぎゃあぁぁぁぁ! 回る! 回ってるぅ! きもちわるぃぃぃ!」


 籠の中に詰め込まれているメルセデスは薬草と一緒にかき混ぜられているような状態にあった。


(うるさいから籠の中に入れましたが変わらずうるさいとは…… はぁ)



 主人の悲鳴を聞いても心の中でため息をつくだけのメイドは移動する速度を、落とさず! そう落とさずにそれどころかさらにアクロバティックな動きを加え始め、メルセデスはさらなる悲鳴をあげる。もちろん、蓋が開いてメルセデスが落ちるなんてことはなかった。たまに少しだけ空いた隙間からメルセデスではなく爆裂ポーションが落ちて追いかけていた狼たちに大打撃を食らわしてはいたようだが。

 やがて狼たちの追撃が完全になくなると森の中に再び静寂が戻った。ただ、メルセデスの爆裂ポーションでの破壊痕だけを残して。

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