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魔女はパニックで泣く

「記憶がない」


 森の中にあるメルセデスの工房のベッドの上で目を覚ましたらメルセデスは自分の記憶が微妙に飛んでいることに首を傾げていた。


「確か魔女会に行って……師匠に嵌められてベロニクに決闘を申し込まれて……」


 そこから先の記憶がない。

 混乱しながらも定位置のテーブルの上に置いてあるメガネを手に取り掛ける。

 ぼやけていた周囲の様子がしっかりと見えるようになった所で改めて周りを見渡すと壁に掛かっている愛用の紅いローブと三角帽子が目に入った。

 いや、それはすでにローブと三角帽子と表現していいか怪しい代物だった。

 なにせボロボロである。

 なんとかハンガーに掛かっていると言っていい。いたるところに穴が空き、さらには焦げた跡まである。

 これほどまでにボロボロになっているローブを再び身に纏い人前にでるにはなかなかに勇気がいることだろう。

 露出狂認定されるのを恐れなければ、だが。


「……」


 メルセデスは無言でベッドから足を降ろすとペタペタと足音を立てながらローブへと近づき、そのボロボロのローブを手に取る。するとローブは限界を迎えたかのように音を立てて崩れさった。


「ぼ、ボクの一張羅が……」


 崩れ去りボロクズとなった服の山の前でメルセデスは手と膝をつき項垂れた。

 元々服装に関しては無頓着であるメルセデスは大体ローブを着て過ごしていた。

 だってローブは楽なんだから! という理由で。


「どうしよ……替わりのローブがない……」


 とりあえずシーツを引っ張り、裸だった体に巻きつけてからメルセデスは困った。

 服の準備も大体はアィヴィがやってくれていたのだがその万能ゴーレムの姿も見えない。


「まさか、ストライキ⁉︎」


 実際のところは買い物に出かけているだけなのだが基本ボッチで思考がネガティブ方面に行きがちなメルセデスはそんなことを考える余裕すらない。


「あわわわわ! アィヴィ! ボクをすてないでぇぇぇ!」


 すでにアィヴィが自分を見限ったと決めつけたメルセデスは裸にシーツを巻きつけたままという状態で慌てたように玄関に向かい走り出していた。

 寝室の扉がいきなり開き、大きな音を出しながら開かれたことによりリビングで勝手に寛いでいた精霊たちが一斉に驚いたように飛び上がり室内を騒がしく飛び回る。


『めるせですおきたー』

『あぃゔぃにれんらくー』

『すぽぽんだよ?』

『かぜひく?』

『ふくないー?』

『ちじょにんてー』


 精霊たちも慌ただしく動き回り色々と口走っているのだが慌てすぎて周りが見えていないメルセデスは巻いていたシーツは完全に脱げたままの状態にも関わらず玄関の取っ手へと手を掛けると全力で扉を開け放った。


「あぃゔゔぃぃぃぃ!」


 ボロ泣きである。

 ボロボロと涙を流しながら扉を裸で開け放ったメルセデスの目の前には。


「はい、アィヴィです。ですが痴女をマスターに持った記憶はございません。要するに、服を着なさい」


 無表情で容赦のない勢いを帯びた拳を繰り出してきたメイド、アィヴィの姿があった。


「あぃゔぐぉぉえぇぇぇ!」


 喜びの笑顔を一瞬浮かべたメルセデスであったが繰り出されたアィヴィの拳は容赦なくメルセデスの腹を抉り、悲鳴を上げさせ、さらには口から何か色々と飛び散らかしながら再びベッドまで吹き飛ばされたのであった。

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