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魔女は自衛という言葉をしらない

「ぼ、冒険者の皆さんは荒事が多いから自衛できる手段のほうが喜ばれるかなぁと思いまして……」


 涙ぐみながらも一応の善意で持ってきてくれたため冒険者達はそれ以上メルセデスを責めることはなかった。

 冒険者というのは危険を伴う仕事だ。それ故に強力な自衛手段というには喜ばれるものだ。

 受付嬢はというと深々とため息をつく。


「わかりました。こちらは受け取っておきます。一応危険物としてギルドで管理することにします」

「そうだな、その方が安心だ」

「それを全部使えばおそらくドラゴンも消し飛ばすこともできるから期待してくださいね。自衛は確実に殺すからこそ自衛ですから」


 皆が安心しようとしたところにメルセデスが再び人々を不安にさせるような発言を投げ込む。だれもが自衛? という言葉に疑問を感じていた。むしろそれは必殺な気がしないでもないのだが誰も言葉を発することはなかった。

 どうもこの魔女、空気とかそういったものを読む力が皆無である。

 しかし、もう誰も何も言わない。なんとなくだがこの魔女がダメな子であるというのを察しているようだ。


「そんな物騒なものを持ち込まないでください。それで魔女さん、今日は挨拶をしにきただけですか?」

「ボクのことはメルセデスと呼んでいただいてけっこうですよ?」


 にっこりと笑うメルセデスに何人かの冒険者達が頰を赤らめた。


「ではメルセデスさん、他にも用件が?」


 正直あまり相手をしたくないなーと思いかけている受付嬢としては帰ってほしいというのが本心であるがそれを出さないように笑みを顔に貼り付けていた。


「そうですね。また引っ越したばかりで雑貨用品などもありませんし。なによりボクの工房の防犯装備が万全ではありませんからね。まだオークを消し飛ばすくらいが精一杯ですし今日は雑貨品を買って帰りますよ」

「そ、そうですか」


 万全ではないという割には手慣れた冒険者でなければ狩ることのできないオークを消しとばすことのできる魔女の工房。

 受付嬢は僅かに身震いをし後で魔女の住処の注意書きを書いてギルドに掲示しようと心に誓った。


「あ、これって換金できますか?」


 踵を返して入り口に向かおうとしていたメルセデスが思い出したかのように振り返り受付嬢のもとに歩み寄る。


「な、なにをでしょうか?」


 受付嬢はメルセデスの腰に下がる爆裂ポーションが満たされているらしいフラスコに目をやる。もしあれを買い取ってくれと言われたならば高値で売買できそうだが確実にトラブルを招くことは目に見えている。

 そんな受付嬢の気など知るはずもないメルセデスはというと宙に手を伸ばす。すると宙が波打ち伸ばした手が半分ほど姿を消した。


「「「は?」」」


 またもその場にいた全員が唖然としたような声を上げた。その間にメルセデスはというとどこからか取り出したであろう自身より三倍はあるであろう巨大な黒い塊を受付嬢の前の床に降ろす。


「あ、思ったより重い!」


 というか投げた。

 ドォォォンという音が鳴り響き、その衝撃で建物内にいた人達と食べ止めのが揺れた。

 放り投げられた物はというと床に僅かにめり込み、それを見た者に小さくない悲鳴を上げさせた。


「あ、アイテムボックスだと……」

「おい⁉︎ こいつは……」

「ああ、多分だがデザーベアーだ」


 メルセデスが取り出した黒い塊、その正式名称をデザーベアーという。普通のクマなどよりもはるかに大きな体、そして膂力を持つこのクマは一匹でればまともな防衛力がない小さな町くらいなら皆殺しにできるほどに獰猛な生き物なのだ。

 しかし、取り出されたデザーベアーは身動きなどは一切見せずにぐったりとしたように横たわされていた。


「な、なんだこりゃ……」


 不審に思った冒険者の一人が恐る恐るといった様子を見せながらデザーベアーに近づき声を上げる。その声に惹かれるように他の冒険者近づき目を見開く。

 彼らが見たのはデザーベアーの腹であった。無論ただの腹ならばただただ毛が見えただけだっただろう。しかし、メルセデスが取り出したデザーベアーの腹は下の床が見えるほどの巨大な穴が開いていたのだ。


「一体どうすればあの硬いデザーベアーの腹に穴が空くんだ……」

「魔女か? 魔女の魔法なのか⁉︎」


 穴をみた人達が尊敬と畏怖を込めたような目線をメルセデスに向けていくわけだが当のメルセデスはその視線に顔を引きつらせながら小さく悲鳴を上げる。


「な、なんですか? 別にそんな特別なことしてませんよ?」

「嘘を言うなよ! 剣すら弾くデザーベアーの毛皮にこんだけでかい穴を開けておいて特別なことをしてないわけないだろ!」


 見た目がか弱そうな少女であるがゆえに冒険者達は期待に目を光らせる。こんな弱そうな少女ですらやすやすとデザーベアーを倒せる楽な方法があるのでは? と。


「こ、こいつがボクが工房を作ってる最中に唸り声をあげながらうろついてきたからお腹が減ってるんだろな〜と思ってお肉に爆裂ポーションをかけて善意で食べさしただけです!」

「「「悪魔か⁉︎」」」


 いかに硬い毛皮を持っていようと体の内側から爆破されては耐えようもない。いや、むしろ空腹の動物に爆発する食べ物を渡すという悪魔のようは発想をする幼い魔女に対してギルドにいる面々はドン引きである。


「それでこれ幾らで買い取ってもらえるんでしょう?」

「え、はい! 見たところ破損してるのは毛皮だけのようですし爪や牙は高価買取さしていただきます!」

「おお! 助かります」


 引きつった顔をしていた受付嬢の手を無理やり握ると対照的にメルセデスは嬉しそうに笑みを浮かべて上下に振るのであった

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