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魔女は昔を少しばかり思い出す

「待ちなさぁぁぁぁぁぁい!」


 森の中を悪鬼が疾る。

 髪を振り乱し、目を血走らしながら走るその姿はまさに鬼。

 そんな悪鬼にミノタウロスが瞬殺されたせいか森の中は完全に静まり返っていた。数の暴力で獲物を狩るコボルトやゴブリンですら吹き荒れる嵐には近づきたくないのか姿を隠していた。

 いや、いるにはいる。先程瞬殺されたミノタウルス同様に黒く変異したのが。


 だがそんなものでは悪鬼は止まらない。

 雷を投げつけ、雷で切り裂き、雷で吹き飛ばす。

 それはもう圧倒的で、言うならば暴力の嵐だ。

 怒涛の勢いで撃破カウンターを上昇さしていくベロニクだった。


「ねえあれしつこくない? 本当に粘着質すぎない?」

「それだけマスターへの怨みが強いのでしょう。と言いますかアィヴィはあの方苦手です。雷ですし、下手にあの雷食らったら体動かなくなりますし、あと視線がネットリして重いです。ついでにいうなら森の異変は確実に先程から消し飛ばされてる黒いミノタウルスでしょうがこの調子ならすぐに全滅しそうですね」


 そんな暴虐の音の広がる森の中、メルセデスとアィヴィは木に隠れるようにして悪鬼であるベロニクをやり過ごそうとしていた。

 アィヴィはゴーレムのくせに鳥肌が立ったかのように両手をさすっていた。


「しかし、わかりませんね」

「なにが?」

「こう言ってはなんですが我がマスターは魔女としては最低なくらいに落ちこぼれです」

「言いたいことがあるならいいなよ!」


 なにせ下級ポーションすら作れませんし、とアィヴィは鼻で笑う。

 そんな間にも破砕音とおそらくはミノタウルスであろう悲鳴が響き続ける。


「そんなマスターに一度負けたことであそこまで根に持つとは思えないのですが? 犬に噛まれたようなものですし」

「何気にひどくない⁉︎」


 そう、ただ一度の負けであるならばそこまで固執するとは思えないとアィヴィは考えていた。


 魔女の一生は長い。

 不老であるわけだしよっぽどの間抜けでなければ早々死なない。

 なにせ魔女の中には首と胴が離れたまま一日寝ていたことがある猛者もいる。

 メルセデスが度重なるポーション作成による爆発事故に巻き込まれていても死なない原因がこれである。

 そんな長い魔女の一生で一度も負けないというのはほぼありえない。


「あー、多分、単純に勝った科目のせいなんだよね」


 ようやく当時のことを思い出したのかメルセデスは頭を掻きながら答えた。


「科目ですか?」

「うん、魔女学校ってね、4つの科目を習うんだよ」


 薬草、薬などの作り方を学ぶ薬学、攻撃魔法や呪術などを学ぶ、魔法学。そして魔女としての力を納める実戦。

 この4つ(魔法学だけは攻撃魔法と呪術に別れるため)が魔女学校で学ぶ科目なのだ。


「それで魔女として認められための最終試験があるわけなんだけどこれが特殊でね。さっきあげた4つの科目で合計200点以上取ればいいわけなんだけどね」

「なるほど各科目で50点ずつ取ればいい訳ですね」

「うん、でも各科目200点満点だから多少は得意な科目に偏るわけなんだけど……」


 唐突に黙ったメルセデスにアィヴィは首をかしげる。

 この話の流れなだと特に問題ないと感じたからだ。


「で、今の流れではベロニク様に怨まれることはないと思いますが?」


 なにせメルセデスはメイドであるアィヴィが認めるくらいにおバカではあるが一応・・、本当に一応は魔女だからだ。

 とっても失礼な考え方だった。


「ボクが実戦で…… 点とったからかな」

「すいません、小さくて聴こえません」


 ボソボソと小さく喋るのでアィヴィの高性能な耳でも聞き逃してしまったためもう一度聞き直したわけなのだがどうもメルセデスの声のボリュームが上がらない。

 それでもしばらくはアィヴィも聞き役に徹することにした。できるメイドも大変なようだ。

 やがて観念したかのようにメルセデスはため息を一つつくと口を開いた。


「ボクね。魔女学校では落ちこぼれ扱い受けてたんだけど、実戦だけで200点とって魔女になったから」

「え……」


 そのあまりの非常識さにアィヴィは口を大きく開けて絶句した。


「だから実戦以外は全部0点だったんだ」

「一教科だけの満点で魔女になったんですか?」

「そうだよ」


 それがどれだけバカらしくて且つ偉業であることをメルセデスは理解していない。

 アィヴィは知らないが魔女学校でのテストにおいて科目一つの満点というのはほぼあり得ない。それほどにテストの内容が難しいというのも悪いが魔女学校の先生は基本的に性格が悪いから何かしらの難癖をつけて減点してくるのが普通だからだ。

 そういう意味では魔女学校が出来てからの異端児と呼ばれてもおかしくはないメルセデスであった。


「じゃぁ、ベロニク様がわたくしより点が上だったというのは……」

「実戦だけはボクが満点だったからね。確かベロニクは全教科のトータル700点で魔女になったんじゃなかったかなぁ」


 どの教科でもトップだった成績優秀のベロニクが唯一実戦という教科で魔女学校でも落ちこぼれと呼ばれるメルセデスに敗北。

 その時のベロニクの顔は絵に残したいほどに凄かったと魔女学校の人は語る。


「それのせいでベロニク様は怒っていらっしゃるのですね?」

「いや、どうなんだろね?」


 メルセデスは首をかしげる。

 実際のところベロニクは当時怒ってはいなかった。むしろ自分を負かした相手がいたことからメルセデスに尊敬の念を持っていたほどだ。


 それが怒りに変わったのは魔女学校でメルセデスと話をし、ある言葉を聞いた時なのだがメルセデスはそんなことは当然のごとく全く覚えていなかった。


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