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魔女とゴーレムは雷の逆鱗に触れる

「魔女は私闘を行うべからずとかなかった?」

「あります。厳密にはもっと仰々しい文でしたが」


 いきなり決闘を申し込まれたメルセデスであったが特に慌てた様子などを見せずにアィヴィにだけ聞こえるくらいの小さな声で確認する。


 正しくは、「魔女は誇りを守るためのみに他者への決闘を行うべし」というものなのだが座学の授業で壊滅的な成績を収めたメルセデスは覚えていなかった。アィヴィも自分の主人が覚えていないことは分かっていたので正しく訂正しなかった。


「なにをごちゃごちゃ言ってますの! これはベロニク・フォンのプライドがかかっている決闘ですわ!」


 駄々をこねる子供のようにベロニクは杖を振り回して地団駄を踏む。足が振り下ろされるたびに彼女の怒りの感情に引っ張られるように雷の魔力が炸裂し地面を抉る。

 そんな彼女にメルセデスはあんまり近づきたくないなぁと考えながら数歩後ろに下がった。

 アィヴィはというとその倍くらい後ろに下がっていた。


「昔からそうだったけど…… なんでそんなにボクを目の敵にするのさ。特に何かをした記憶はないんだけど?」


 メルセデスは首を傾げながら思い出そうとするが全く思い出せない。元々物覚えはあまり良くないのだから仕方ない。


「マスター、マスターが忘れてるだけという可能性は?」


 それは否定できない。だってメルセデスだから。


「何もしてないですって⁉︎」

「「ひっ⁉︎」」


 メルセデスとそして非常に珍しいことにアィヴィも息を呑むようにして悲鳴をあげる。

 眼だけで人が殺せるという魔法はこの世には存在しない。

 その事実がなければメルセデスは死んでいたであろう。

 ベロニクの竜すら殺せるような視線を受けて。

 ついでに言うなら周りの気温も心なしか下がったような気もするし、さらに言うなら多少残っていた生き物の気配が完全に消えた。

 野生に従いみんな命大事に! の作戦を実行したのだ。


「あれだけの問題行為をやらかしておきながら覚えてないですっテェェェェ!」


 雷様降臨。

 周囲に目に見えてわかるくらいに圧縮された雷の柱が出現し、ベロニクの声の大きさに比例するかのように周りを消しとばしていく。

 さすがに不味いと感じたアィヴィはすぐさまメルセデスを脇に抱えると後ろへと飛び下がり破壊兵器(ベロニク)から距離を取った。


「一体何をなされたんです?」


 ベロニクの怒り具合から余程のことをやらかしたんだろうなぁ〜 などとアィヴィは色々と予想していた。

 その予想の中に冤罪という言葉は存在しない。

 だって無意識に人に悪意を振りまくのがメルセデスだから。

 そういう逆の意味でこのメイドは主人を信用していた。

 主人にとっては非常に不本意な信頼である。


「特に何かをした記憶はないんだけど」


 またベロニクから放たれる圧力が増した。

 メルセデスとしては即座に反対を向いて逃げ出したい。それをベロニクが見逃してくれたらの話だが。


「わたくしから実戦の課題で唯一、唯一上に立ったくせに何もしてないですってぇぇぇ!」

「魔女学校でのことでしょう⁉︎ 何年前のことを根に持ってるの! 粘着質すぎるよ!」

「キイェェェェェ!」


 魔力を纏ったベロニクが奇声を上げながら飛びかかってきた。それを確認したアィヴィはメルセデスを抱えたまま体を翻すと脱兎のごとく逃げ出した。

 感情が少ないゴーレムではあるがそれでも怖いものは怖いのだ。

 特に雷とかはすごく怖い。家に戻って布団を頭に被って震えるくらいにはアィヴィは雷が怖い。


 木々を避けながら駆けるアィヴィに対してベロニクは文字通り一直線に激走する。

 纏った雷の魔力が障害物である木であろうと瞬時に焼きつくしていくため全く障害物として機能していない。


「マスター! ベロニク様の目的はマスターのようですしここは可愛いメイドのために身を呈してもいい場面では⁉︎」

「アィヴィこそ! こんなマスターのピンチなんだからさ! ベロニクに可愛らしいポーズでもきめなよ! ベロニクは君のことを気に入ってるんだから!」


 どっちも自分が助かろうと必死だった。

 それでもアィヴィがメルセデスを抱えたままであるのはそれなりというか多少は主人への愛があると考えていいのかもしれない。


「というかあれヤバイよ」


 抱えられたままメルセデスは後ろを追いかけてくるベロニクを凝視して顔を青くする。

 というのも姿を隠すとか音を立てないようにするとかそんなことが頭から抜け落ちているベロニクは纏っている魔力での破壊音やらでやたらと騒がしい。

 異常が起きている状態の森の中でそんなに騒々しくした場合どうなるのか?


『ルォォォォォォ!』


 それはもちろん異常を起こしているであろう主が現れる。

 そいつはでかかった。

 木々の間を駆ける合間に見える大きさは三メートルは超えたことだろう。

 さらにいうと太かった。

 腕や足は極太の丸太のように分厚い、胸板も六つに分かれた腹筋などが見え屈強さが見て取れた。

 それは牛の頭を持ち、筋肉の鎧を纏い両手に巨大な剣を持ちしモンスター、全身が漆黒に塗られたミノタウロスだった。


 ミノタウロスは熟練の冒険者が容易く薙ぎ払われるくらいの力をもつ。

 そんな知識くらいは持つメルセデスであったが、今森に現れたミノタウロスは全身が漆黒という変異種であるということまでは知らなかった。


 変異種は普通の三倍の危険度を誇る。

 これが常識であった。

 そして冒険者を蹂躙することができるミノタウロスの変異種の出現は国を揺るがす事態となることは間違いなかった。


 そんな変異種であるミノタウロスがベロニクの前に武器を手にして現れたのだ。


「逃げて!」


 そう、メルセデスが顔を青くしながらも声を大にして叫んだ。それは当然であろう。なぜなら


「しゃらくさいですわ!」


 そんな国家の危機に繋がるであろうモンスターを視線すら向けずに無造作になぎ払ったであろう雷、魔法ですらないただの雷の魔力の塊で瞬時に消し飛ばし、駆けることを辞めないベロニクの姿があったからだった。


 そう、魔女の前では国家の危機クラスのモンスターなど路傍の石と変わりないのだから。

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