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魔女の腕はあっさり折れる

「主人を売るとかおかしくない⁉︎ ボクマスターだよね!」

「それは誤解、マスターが疲れてそうだったから乗せただけです。あわよくば買い取って貰おうかと……」

「やっぱり売ろうとしてたんじゃない!」


 さすがに売られる前に目を覚ましたらしきメルセデスが全く悪びれた様子のないアィヴィに詰め寄っているわけなのだが当のアィヴィはリリィと買取の相談をしておりメルセデスの相手はかなりおざなりであった。

 やがてアィヴィがそんなに怖い人じゃなくただ無表情なだけと気づいたらしいリリィは普段通りの受付嬢としての対応を行なっていた。当然、常識のある方であるアィヴィに対して。


 メルセデスがいくら喚こうともまったくアィヴィが話を聞いてくれないということに気づいたのは約十分ほど喚いてからなのだがそれに気づくと今度は周りからの視線が怖くなり始めた。


(こ、こわい! なんでみんなボクの方を見てくるの⁉︎)


 もともと極度の緊張しやすさ、さらには人見知りであるメルセデスにとっては敵に囲まれているような環境であるのだった。

 加えて自身を観察されるような嫌な視線。

 人間、いや、メルセデスは魔女なのだが窮地に追い込まれると手にするのは慣れ親しんだ武器である。

 そしてメルセデスにとって慣れ親しんだ武器。

 それは腰のベルトに下げられた爆裂ポーションの満たされたフラスコであり、そこへと手を伸ばす。


 その瞬間、

 ガタン! という音がギルド内の至る所で鳴り響いた。

 よく見るとそれは椅子に座っていた冒険者たちが勢いよく立ち上がった音のようで、冒険者たちは我先にと言うように出口へと殺到していた。


「くそっ! どけ! 俺はまだ吹き飛ばされたくないんだよ!」

「あたしだってそうよ!」

「魔法使いは自分で身を守れよ!」

「バカモン! あんなバカみたいな火柱をどうやって防ぐんじゃ!」


 皆がメルセデスの爆裂ポーションの火力を知っているかの慌てよう。

 いや、顔を見れば皆が必死なのはよくわかった。

 そしてメルセデスに向けられていた視線というのが魔女を見て珍しいという視線ではなく危険物を見ていた視線ということも。

 それ程までにメルセデスの爆裂ポーションは恐れられているのだ。


 あっという間にギルドの中はテーブルと倒れた椅子だけになり残っているのギルドで働いている人とメルセデス、アィヴィだけとなっていた。といってもギルドの面々は職場放棄になるため逃げれなかっただけなのだが。


「もしかしてみんなボクに気を使ってくれたのかな?」


 倒れた椅子の一つを元に戻すと楽観的に考えながら腰を下ろした。


「ん?」


 椅子に腰掛け丁度立てかけてあったメニューに気付く。

 そしてこの町に来た目的が味付けできるように香辛料を買うという事と卵以外の食材の確保であった事を思い出した。


「なにをしているの、マスター?」


 どうせなら何か頼もうかと考えていたメルセデスに声がかけられた。

 メルセデスがメニューを持ったまま振り返るとそこには背中に籠を背負い、片手にはお金が入っているであろう皮袋を持ったアィヴィがジト目のままゴゴゴゴゴという音が聞こえてきそうなくらいの威圧を放ちながら立っていた。


「あ、アィヴィ」

「アィヴィが代わりに買取などをしていたのにいい度胸」


 メルセデスのメニューを持つ手が震える。

 そしてギルドの職員達も体を震わす。

 それほどの威圧、いや覇気のようなものをアィヴィはゴーレムでありながら発していた。


「お昼にはまだ早いです。その前に一働きしていただきますよ」

「え…… 薬草売ってお金が手に入ったんじゃないの?」

「少々です。ですから……」


 ガシっという音が鳴るほどの力でアィヴィは皮袋を持っていない方の手でメルセデスの肩を掴む、それはやがてミシミシという音に変わっていく。まるで逃がさないと言わんばかりに。


「さらなるお金のためにはたらきますよ。マスター」

「ひぃぃぃぃ!」


 メルセデスの肩を掴んでいた手を今度は手首を握るようにし、逃げれないようにしたアィヴィはそのまま様々な依頼の紙が貼られているクエストボードの方へと無理やり連れて行く。


「痛い! 痛ぃ! 捥げる! 腕がもげるからぁ!」

「大丈夫です。魔女なら腕がもげてもすぐに繋がります」

「それ、上位の魔女だから! ボクまだそこまですぐには治せないからぁ!」

「ごちゃごちゃ言わない。それにすぐじゃなくても治りますし、魔女はすぐに死にません」

「イッタァァァ⁉︎ 折れたよ! 明らかに曲がっちゃいけない方に腕曲がってるからぁ!」


 ボキっという音が聞こえたような気がしたがアィヴィは気にしない。それどころか無造作にクエストボードから依頼書を引き剥がし、痛みから暴れるメルセデスを引き摺りながら受付カウンターへと向かう。


 対してリリィやギルド職員は怖かった。

 なにせあれだけの火力を持つ魔女を泣かしているのだから。

 それも容赦なく。腕力だけで。


「これ受けます」

「わ、わかりました。ご無事をお祈りしております」


 碌に受けたクエストを確認せずにリリィはそう告げると深々と一礼する。 アィヴィはそんなことは気にせずに叫く主人を引き摺ったままギルドの扉を開け姿を消した。


「……ギルド会議始めるわよ」


 リリィのその言葉に職員達は無言で頷いた。

 その日、ギルド要注意人物ランキングに魔女の上に無表情ジト目メイドがランクインしたのであった。

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