魔女はカウンターに乗せられる
結果として薬草を売ることにしたメルセデスは木の杖に座り空を飛びながら町を目指すことにした。
本来ならポーションを売ろうかと思っていたのだが結局薄く青いポーションである下級回復ポーションは作れず終い、できあがったのは黒い爆裂ポーションばかりだった。
そのため森で得た薬草をそのまま売ることにしたのだ。
もし他の白魔女がこの場に居たならば抗議をしてきたことだろう。薬草をポーションにしてこその白魔女なのだから。
「うう、また町に行くのかぁ。人が多いとこは苦手だからなぁ」
『にがてー』
『てー』
出かけるメルセデスを目ざとく発見した精霊たちは楽しそうな物の気配を感じ取ったようで杖に跨るメルセデスにくっつくようにしてついてきていた。
人の多い場所では人見知りと緊張が発動してしまうメルセデスである。以前行ったことのある町と言えど早々克服できるものではない。
「まぁ、今回はアィヴィが一緒にいるから大丈夫だよね」
その当のアィヴィはというと杖に一緒に乗っているわけではない。
そこから少し下に視線をわずかに下ろし森の中へと向けるとそこには木から木へと飛び移る籠を背負った小柄な影が見えたことだろう。
それもかなりの速度で。
たまに大木をへし折りながらも前進しているような気がしないでもないがメルセデスは目の錯覚だと思うことにした。
杖に乗り空を飛ぶこと三十分ほど。
メルセデスとアィヴィは町の入口へとやってきていた。
精霊はというと騒がしいのが嫌なのか町に近づくにつれと皆どこかにいってしまった。
「うう、入りたくない……」
「マスター、ここまで来て帰るなんて許しませんよ」
「人! 人がいっぱいいるんだよ!」
「この世界の半分くらいは人の生存領域と魔女学校で習ったでしょう。ほら行きますよ」
「やだやだ! そうだよアィヴィがボクの代わりに行けばいいんだよ! 使い魔なわけだし!」
愚図りながら抵抗をしてくるメルセデスに少しばかりイラついたアィヴィはメルセデスを軽く立たせると握り拳を作る。
「てい!」
「こぶ⁉︎」
作った拳を容赦なくメルセデスの腹へと叩き込むと一瞬にしてメルセデスを沈黙させる。
「よし」
静かになったメルセデスのローブの首元を掴み歩き出すアィヴィ。
メルセデスは意識がないながらも草などを掴み抵抗を試みているようだが巻き鍵を巻き、パワーアップしているアィヴィの力に抵抗できるはずもなく町の人々の視線を一身に集めながらズルズルと引きずられて行くのであった。
そしてやってきたのは初めてメルセデスが訪れた冒険者ギルド。
メルセデスがビクつきながら開けたドアをアィヴィはというと全く躊躇など見せずに開けると取り付けられた鈴が軽快な音を立てた。
その音に惹きつけられたかのように中の喧騒が僅かばかりに収まり、冒険者がドアを開けたアィヴィを注視し、その後に引き摺られるメルセデスを見つけるとやがて何も見てないと言わんばかりに視線を逸らし、徐々に元の騒がしさが戻り始めた。まるで関わり合いたくないというように。
そんな中をアィヴィは普通にメルセデスを引きずりながら歩き、顔を引攣らせながらも懸命に笑顔を浮かべている受付嬢の元に向かう。
(なんで! なんで私が当番の時ばかりにくるの!)
そう受付嬢、リリィは思わずにいられなかった。なによりお近づきの印に爆裂ポーションを渡してくるような人物を引きずってくるような人である。
すでにやばい。
助けを求めようと周りのギルド職員に声をかけようとしたわけだがリリィより危機感知能力が高かった彼ら引き摺られるメルセデスの姿を見た時点で奥へと引っ込んでおり、カウンターにいるのはリリィだけという状態だった。
(それになんでそんな無表情でジト目で私を睨みつけてくるのぉぉぉ)
受付カウンターまできたアィヴィであったがカウンターは僅かにアィヴィよりも高い。
そのためアィヴィは自然と上を見上げる形となり、日頃からの無表情さ、そしてジト目のせいで睨んでいるように見えるだけだった。
決してアィヴィ自身は睨みつけているわけではなく、ただただ見上げているだけなのだが。
「あの」
「は、はぃぃ! なんでしょうか⁉︎」
ガチガチだった。
笑顔を浮かべているものの身体は震えまくっていた。
そんな身体が震えているリリィを怪訝な表情を浮かべながらも心配そうにアィヴィは見るのだが、
(ひぃぃぃ⁉︎ 殺されちゃうぅ!)
もう、内心は泣きそうになっていた。
いや、実際にもリリィは笑顔と脂汗を浮かべながら涙を流すというなかなかに怖い状態になっているわけなのだが本人はそれには気づいていない。
「マスターが気を失ったのでアィヴィが代わりに売りに来た」
「そ、そうですか、何をお売りになられるのでしょうか?」
リリィにそう言われたアィヴィは背負っていた籠を降ろすとそれをカウンターへと置き、しばらく躊躇ったのちに大きな物を一緒に置く。
「これでお願いします。多少安くてもいいです」
「えと、あの、ま、魔女様の買取はちょっと……」
カウンターに置かれたのは薬草が入った背負い籠と白目を剥いたまま気絶している魔女、メルセデスであった。
アィヴィはというと何か問題があるの? と言わんばかりに見るものが愛しさを感じるような素振りで首を傾げていた。