魔女は町に行く決意をする
「町にいきます」
アィヴィが作った朝食である卵焼きをフォークでつつきながらメルセデスは宣言する。
「マスターが人里に降りようとするなんて珍しい。魔女の宿舎でも授業以外部屋から出なかったのに。今日は雨が降るかもしれない」
洗濯物を外に干そうとしていたアィヴィは少しばかり躊躇った後に洗濯物を外には干さずに部屋の中に干し始めた。
「あの、ボクが外に出るってそこまで?」
メルセデスが涙ぐみながらアィヴィに尋ねるアィヴィは無言で入口の方を指差した。それを涙を拭いながら見たメルセデスだったのだが。
『あめー』
『めるまちいくからあめふりー』
『どしゃばー』
入口に精霊があふれていた。それはもうぎゅうぎゅうに。それらの精霊は色々と言葉足らずなことを言ってはいるのだが要約すると「あまり家からでない引きこもりのメルセデスが町にいくと言い出した。明日絶対雨だから雨宿りしたい」ということらしかった。
「どんだけボクは引きこもりだと思ってるの!」
『『『わー』』』
いきなり上げられた大声とそれに乗った魔力に精霊たちは楽しそうに笑いながら吹き飛ばされていく。
「つまりマスターは精霊さん達が見てもわかるほどにぐーたらな人というわけです」
洗濯物を干し終わり空になった籠を持ちながらアィヴィが鼻で笑うようにしながら告げる。もちろん洗濯物は外に干されていない。全て室内干しである。
どこまで本気で雨が降ると信じているのかわからないような様子であった。
「そ、そこまで言わなくても…… わかったわよ! ボクがなんで町に行きたいかを教えてあげるよ!」
「聞きましょう」
『きくきくー』
『おしえておしえてー』
いつになく真剣な表情で語ろうとしているメルセデスにアィヴィも流石に軽く聞くことはせずにちゃんと、聞くという姿勢をとった。精霊たちはというと単にお喋りをしてくれているから聞こう、とかそんなレベルであった。
「……ちゃんとしたごはんが食べたい」
「は?」
『ごはんー』
『めしー』
『うまうまー』
アィヴィはよく聞こえなかったからかの一言。
精霊たちはごはんというパワーワードを聞いて大はしゃぎ状態であった。
「だって! 毎日毎日卵焼きばかり! たまには他のも食べたい! 味もないししっかりとした味付けの物がボクはたべたいの!」
そう、メルセデスが食べている食事は毎日が卵料理ばかり。というかアィヴィがつくるのは卵焼きしかなかった。
「失礼な。ゆで卵も出してます!」
「卵から離れて!」
なぜかアィヴィが変な所にキレた。
『たまごきら?』
『ドラゴンのたまごうま〜』
「そこも違う!」
律儀に精霊たちの言葉にもツッコミをいれるメルセデスであった。
そんなメルセデスであるが毎日の卵料理にうんざりしているというのは本当だった。
(せめて塩! 塩が欲しいわ!)
ゴーレムであるアィヴィには味覚というものが存在しない。いや、味というのは理解しているのであろうがそれが美味しい、不味いという判断が全くつかないのである。
だがこれを本人に告げたのであれば「素材の味を生かした料理です」という屁理屈を返してくるということはそれなりの年数を共に過ごしているメルセデスには容易く予想できた。
そしてこの状況を改善できるのは自分しかいないということもよく理解していた。
「だから町に行って調味料を手に入れるの! よりよい食生活のために!」
「卵は万能食です。ですがマスター、お金がありませんが?」
……卵は断じて万能食ではない。
メルセデスはとにかくお金がない。
別に借金などがあるわけでもなく、お金がなくても生活できる環境にあるため特にお金が無くても困らないのだ。食事を除いては……
「ポーションを売るしかないのかなぁ」
「いえ、魔女なら他にもいろいろとお金を稼ぐ方法があると思うんですが……」
呆れたようにアィヴィが言うように魔女というのは決して爆発するポーションを作るのがお金儲けの方法というわけではない。
魔女と言っても様々な種類の魔女がいる。
まずは青魔女。
この魔女は主に魔法、特に攻撃魔法を行使しての活動がメインとなっている。冒険者になったりと野外で活動するのが多い。
そして白魔女。
こちらは薬学に偏ったものであり、作ったポーションなどで治療を行ったりするのが主である。
最後に黒魔女
呪いをかけるなどといった陰湿なやり口を好むのが黒魔女である。しかもじわじわとやる。
他にも様々な魔女がいるのだが主に世間で知られる魔女というのは先に挙げた三つの魔女なのだ。
そしてメルセデスはというと一応は白魔女に分類されるのだが……
「ボクのポーション、爆発しかしないからなぁ」
「…… 自覚されていたのですね」
爆裂ポーションしか作れないメルセデスは白魔女の中でも異端扱いされているのであった。