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第六話


(死にたい……)


 しっこくの……黒歴史事件の翌日。

 僕は宿屋の自室でベッドの上で丸まりながら自己嫌悪に苛まれていた。

 昨日は、間違いなく人生最悪の日だった。コボルトに生きながら喰われる経験も最悪だったが、その後かけがいのない知識を得られたのであの日はプラマイゼロとして、昨日僕が得たものなど、失ったものに比べればゴミも同然だった。

 なんせ、金は使えば消えてしまうが、恥と後悔は一生ついて回るのだ。金貨120枚という大金は、一般庶民ならば10年は悠に暮らせる額だが、ゲームではあっという間に使いきる額だ。一生物の恥と比べれば、端金。

 しかも、この端金を得るまでがまた大変だった。

 LV3、装備はショートソードという触れ込みにもかかわらず、LV20選手たちを圧倒。これが、当初予定していた最後まで行きを潜め、最後に不意をついて勝つというものならば、まだ観客は納得できたかもしれない。しかし、実際はビリーの顔面を一撃で陥没させ、フルアーマーをショートソードで断ち切り、力自慢のゾーゲンを筋力で圧倒という、あり得ない勝ち方をしてしまった。

 案の定、大損をした観客たちからはクレームと、あの選手は何者だという質問が殺到。

 一秒でも早く立ち去りたかったのに、観客の前で公開審査が行われてしまった。LVの再測定に、装備の実見。何のイカサマがないことが証明されると、会場は漆黒の闇コールに包まれた。

 それは、奇しくも僕がノリノリで痛ネームを考えていた時に脳裏に思い描いていた光景と同じであり、そして自分のネーミングセンスの痛さに気づいてしまった後では拷問に等しい時間だった。

 今でも眼を閉じれば脳裏に鮮明に思い浮かべることができる。

 会場にただ一人立つ僕。満員の観客たち。全員総立ちで彼らは叫ぶ。漆黒の闇! 漆黒の闇! 漆黒の闇! 漆黒の闇! 漆黒の闇! 漆黒の闇! 漆黒の闇漆黒の闇漆黒の闇漆黒の闇しし漆黒の闇漆黒の闇しししし漆黒のしっこしっこく、漆黒のののののの。


(アッ―――――――――!!)


 レイプされた! 僕のピュアなハートがレイプされた!

 何百人という人間に純な少年心をズタズタに犯された僕の心は、もう殺してくれと泣き叫んでおり、それでも彼らは僕を解放してはくれなかった。

 司会や闘技場の運営側に根掘り葉掘りと質問責めに遭い、それを黙秘で封殺し賞金を貰うと闘技場を後にする。そして、命懸けの鬼ごっこが始まった。

 そう、案の定尾行がついてきたのだ。

 それは観客だったり、闘技場の運営側だったり、僕を身内に引き入れようとする権力者だったり、強さの秘密を知ろうとする冒険者だったりと様々だったが、相手が誰だろうと関係ない。僕の本名がバレた時、それが僕の人生の終わりだ。

 漆黒の闇、アルケインの名は遠く故郷まで響き渡り、家族は人々に後ろ指を指されることになるだろう。突然飛び出して迷惑をかけてしまった親はもちろん、思春期の妹の精神にも多大な負担をかけるに違いない。それだけは絶対に避けなければならなかった。

 ステータスのうち、敏捷性に関連するのは筋力と反応だ。筋力で肉体自体のステータスを、反応で肉体に相応しい神経反応をあげることができる。筋力30オーバー、反応35オーバーの僕の素早さは、もはや神速。それに加え、索敵能力にも関連する感覚までも30越えなのだから、僕に鬼ごっことかくれんぼで勝てる人間などそうそう存在しないだろう。

 一時追っ手を撒くことができた僕は、変装を素早く解き、なに食わぬ顔で宿へと帰還。漆黒の闇はここに消滅した。

 もう、漆黒の闇が表に現れることは二度と、二度とないだろう。

 漆黒の闇の名は、闘技場の中でのみ、謎の新人としてひっそりと生き続けることになる。


(……大丈夫、人の噂も七十五日というし、闘技場の観客もいつまでも出ない新人のことなんか忘れるさ)


 そうやって自分を説得した僕は、昨日の昼から何も食べていないことを思いだし、食堂へと降りて行った。

 そこで僕は自分の考えが如何に甘かったのかを思い知ることになる。


 

 


「あ、おはよー。今日は遅かったねぇ」


 僕が食堂に降りるなり、エリーゼが明るく声をかけてきた。


「ん、今日は休みにしようと思ってさ」


 さすがに今日ばかりは何もする気が起きなかった。


「なんだか毎日出掛けてたもんねぇ。冒険者は休みを取るのも重要だってお客さんが言ってたよ」


 エリーゼはそういって笑うと、僕の分の食事を厨房へと取りに行く。

 手持ちぶさたにテーブルでボウッとしていると、ふと隣のテーブルの会話が耳に入ってきた。


「お前、今日どうすんの?」

「ぁん? そりゃ当然闘技場に行くに決まってんだろ」

「またかよ。昨日も行ってただろ。お前、賭け事は週に一回ってかみさんと約束してなかったか?」

「はっ、今日は特別だよ。なんてったって漆黒の闇が来るかもしれねぇんだからなッ」


(……う)


 闘技場云々という会話から嫌な予感がしていたが、やはりこのワードが出てきたか。全く話題にのぼらない、ということは期待していなかったが、それでも他人の口からこのワードが出ると精神的にくるものがあった。

 だが、次の男の言葉には僕も驚愕せざるを得なかった。


「漆黒の闇? あぁなんだか昨日から良く聞くな、それ」

「んだよ、知らねぇのか? “今街で一番ホットな話題”だぜ? “街中の人間が知ってる”よ」


(ギャアアアアアアアアアアッ!)


 僕は心の中で絶叫した。

 なんで!? なんで街中!? 嘘でしょ、そんな、こんな、こんなことがあっていいはずが……ッ。


「マジかよ。その漆黒の闇って一体なにやらかしたわけ?」

「やらかしたっつうか伝説だな。伝説を作ったんだよ」

「伝説?」

「おぉ、LV3にもかかわらずアンダー20に忽然と現れ、ゾーゲン、リリアといった人気剣闘士を瞬殺した謎の剣士……。その顔は仮面に覆い尽くされ、その素性を知るものは誰一人としていない……」

「LV3でアンダー20を無双ってあり得ないだろ……なんて名前だ?」

「だから漆黒の闇だよ」

「? だからそれは二つ名だろ? 闘技場の奴らが付けた」

「いや、エントリーネームが漆黒の闇」

「……………え? 自分で漆黒の闇って名乗っちゃったの?」

「ああ、すげぇだろ?」

「ああ、それは、凄い。LV3でアンダー20で勝ったよりもそっちの方がすげぇ」


(もうヤメテぇぇぇぇ……)


 そんな僕の心の声は届かない。


「つか、公衆の面前でそんな風に名乗っておいてまた闘技場に現れんのか? 俺なら無理だけど」

「お前みたいなチキンハートと一緒にすんなよ。来るに決まってんだろうが。でなきゃなんで漆黒の闇って名乗るんだよ」


(?!)


「? どういういみだ?」

「だから、漆黒の闇って名乗ったのは話題作りの為だってことだよ。“わざわざ痛い名前、痛いコスチューム”で現れたのは十中八九ファイトマネー狙いだろ。今街中の話題は漆黒の闇一色。このタイミングで勝てば、普通に1%のファイトマネーで一生暮らせる」

「なるほど、注目度が高くなればなるほどファイトマネーは高くなるからな」

「だろ? “まさか素で漆黒の闇って名乗った”わけでも無し。だから絶対漆黒の闇は闘技場に現れるよ」


 でなきゃモノホンのイタイ奴じゃん。だったらウケルわw。そんなことをいいながら二人組は丁度飯を食い終わったのか食堂を出て行った。


(……………………嘘だろ?)


 男たちの会話を反芻した僕は思わず泣きそうになった。

 男たちの会話が本当ならば、僕はもう一度、いや、これからずっと闘技場に出場し続けなければならない。でなければ、僕は“素で漆黒の闇と名乗り痛コスチューム”で闘技場に現れた真性厨二病ということになる。


(でももう二度とあの格好はしたくない……!)


 なんというジレンマだろう。真性厨二病というレッテルを避けたければあの厨二コスチュームで出場し続けなければならず、厨二コスチュームを着るのが嫌ならば真性厨二病というレッテルを甘んじて受けなければならないのだ!

 あぁ、どうしてこんなことに……。


「どうしたの? 泣きそうな顔してるけど」


 僕が頭を抱えていると、いつの間にか両手にお盆を載せたエリーゼが怪訝そうな顔をしていた。


「あぁ、いや、なんでもない」


 エリーゼから料理を受け取りながら、ふと僕はエリーゼに問いかけた。


「エリーゼは知ってる?」

「何を?」

「ほら、あの、漆黒の云々ってヤツ」

「あぁ、もちろん。街中の人間が知ってるよー」

「そ、そうなんだ……」


 一蔓の望みをかけて問いかけるもあっさりと肯定された僕は、もはやうなだれるしかなかった。

 マジで街中なのかよ。


「うちのお父さんがさぁ賭け事好きでね、昨日もその大負けして帰ってきたくせに「今度こそ漆黒の闇に賭けて大勝ちするぞー!」って息巻いてるの。バカだよねー」

「ははは……」

「……ところでさ」


 僕が渇いた笑いを浮かべているとエリーゼが顔を寄せ小さな声で囁いた。


「明日。休日だけど、……覚えてる?」

「え? ………………もちろん! 覚えてるに決まってるじゃん」


 実はちょっとだけ忘れていた。昨日のことがあまりにインパクトが有りすぎたからだ。


「……微妙に忘れてたでしょ」

「いやいや覚えてたよ、当たり前じゃん。ここんところ頭ん中全部それで一杯だったよ」


(……なんせ、重要なイベントだからね)


「ホントかなぁ。言っとくけど、私が男の子と一緒に出かけてあげるのって本当に珍しいんだからね? そこのところわかってる?」


 テーブルに手を突き僕の顔を覗き込むエリーゼ。自然と豊満な乳房が強調され、胸元から深い谷間が覗いた。


「も、もちろん……」

「ならば良し! 明日は朝早いからちゃんと早起きしてね」


 僕が胸元を見ていた事を気づいているのかいないのか、エリーゼは満足気な笑みを浮かべるとそう言い立ち去って……行かなかった。

 クルリ、と振り返る、エリーゼ。


「あ、そうそう、さっきの漆黒の闇とかいう人のことだけど」


 不意討ち気味のそれにドキリと心臓が高鳴る。


「な、なに?」

「今日もその人が闘技場に参加してるみたいだから気になるなら見に行ってみたら?」

「…………へぇ、ありがとう」


 僕がそう礼をいうと、エリーゼはどういたしまして、と笑い今度こそ立ち去った。


「……………………………」


 今日は1日ゆっくりしようと思っていたが……。


(予定変更だな……)


 是非とも見に行ってみなくては。

 その偽物の面を。


 

 

 

 



 闘技場は、昨日にも増して多数の客に満ちていた。

 全く金を賭けずに観戦していては不審なので、適当な選手に金貨を1枚づつ賭けていく。

 無駄遣いにも思えるが、原作のエリーゼの値段は金貨60枚。十分に余裕があった。

 大穴を狙わず、だが一番人気にずっと賭けていてもつまらないので二番人気、三番人気に賭けて見る。

 勝ったり負けたりしていると、ようやく偽の漆黒の闇の試合が来た。

 その頃には、適当に賭けていたにもかかわらず何故か金貨15枚ほどの浮きとなっていた。おそらく、下心がなかったのが良かったのだろう。賭け事というのは往々にしてそういうところがあった。


 選手たちが続々と入場していく。そして偽の漆黒の闇が入場した瞬間、観客席から怒号が飛んだ。

 その声量は凄まじく、会場全体がビリビリと震えるほどだ。

 耳鳴りがしそうなほどの騒音に僕は耳を塞ぎながら偽の漆黒の闇を観察する。

 …………なるほど巧く模倣している。僕の装備はそこら辺の店で買ったものだが、大量生産の概念が発達していないこの世界で全く同一のものを用意するのは困難だ。だが、偽の漆黒の闇の装備は傍目には昨日の僕と全く同一に見える。

 さすがに、偽物を名乗るだけはあった。

 だが、僕の注目は偽物ではなく他の選手に移りつつあった。

 金髪が眩しいキュバシュの女性だ。美形揃いのキュバシュの中でもかなりの美人である。エントリーNo.2のレリアーナだ。

 キュバシュというのは、このゲーム独自の種族で、分かりやすく説明するとエルフとサキュバスを足して2で割ったような種族だ。

 キュバシュ種は、皆エルフのように美形揃いであり、しかし細身の多いエルフと異なり肉感的な肢体を持つ者が多く、その膣の具合は極上だという。また、基本的に男が生まれず必ず外部から夫を迎えることで知られている。

 この種の最大の特徴は、初めて子宮に精液を注いだ男に対し食欲にも似た性欲を覚え、その夫の体液……主に精液を体内に取り込むことによって不老を保つという点だ。彼女たちはその性質から男性が死ぬまで精液を搾ることがあり、男性からは欲情と畏怖の相反する感情を抱かれている。反面、その性質から奴隷として好まれ、初物のキュバシュの奴隷は非常に高値でやり取りされる。

 とまぁ、非常にエロゲ的な種族だ。

 そして彼女レリアーナは、僕の見る目が間違っていないならば、ゲームでのヒロインの一人だ。

 彼女の生まれ育った里では、一月に一歳若返るという奇病が流行っており、その特効薬の材料となる“時流れの月光晶”を探し求めて迷宮都市へと幾人かの仲間たちとやってきた、という設定の筈だ。

 ゲームでは主人公はふとしたことからこの時流れの月光晶を手に入れ、レリアーナに譲って貰うよう交渉される。レリアーナは、主人公に見返りに、“決して中出しをしないこと”を条件に自らの肉体を差し出す。田舎者であり世間知らずの主人公は、キュバシュの生態を知らず条件を飲むが、キュバシュのあまりの名器ぶりに中出しをしてしまう。中出しをされ、主人公に精液を貰わねば発狂しかねないほどの餓えに苦しむようになったレリアーナは、責任をとってもらうと宣言し主人公の仲間になる。

 ……という設定だった筈だ。

 ちなみに彼女自身も病を患っており、時間経過とともにどんどん若返って行く。よって、主人公が時流れの月光晶を渡すタイミングによって彼女の肉体年齢が異なり、ロリモード、美少女モード、美女モードの3つのパターンが楽しめる人気キャラだ。

 そんな彼女が、今闘技場に参加していた。


(ふむ……)


 少し考えた僕は、偽物に賭けるつもりだった浮いたお金、金貨15枚をレリアーナに賭けることにした。

 予想屋の予想倍率は、LV20で参戦三勝のエントリーNo.1が3.60倍。LV18で初出場のレリアーナが7.20倍。LV19で一戦零勝のNo.3が8.20で、LV20、初出場のNo.4が5.80。そして噂の漆黒の闇がLV3にもかかわらず2.00の一番人気となっている。

 もちろん予想屋の倍率なので確実にこうなるというわけではないが、レリアーナが注目されていないのは確かだろう。

 僕はレリアーナの賭け札を購入すると、試合が始まるのを待った。


『さぁいよいよ本日のメインバトルが始まります! なんといっても今日の注目選手はNo.5! 昨夜LV3にもかかわらず彗星のようにこの闘技場に現れ、奇跡のような勝利を勝ち取った漆黒の闇選手! 彼は今日も奇跡を見せてくれるのか!? それでは試合スタートです!』


 まだNo.1から4までの紹介が済んでいないにもかかわらず試合のスタートを宣言する司会。そんな司会を慌てたようにアシスタントの女性がたしなめた。


『ちょ、ちょっと、まだ選手たちの紹介が済んでないニャン』


 聞き覚えのある声にそちらを向くと、そこにいたのは昨日の受付嬢だった。


『おっとこれは私としたことが! 興奮し過ぎて段取りを忘れてしまったようです!』

『全く、しっかりしてニャン』


 司会と受付嬢のコミカルなやり取りに会場から笑い声が漏れる。

 だが、半ばないがしろにされる形となった選手たちは明らかに面白くない表情をしていた。


『それでは選手の紹介ですッ』


 司会が、一人一人の紹介を進めて行くのを、僕はほとんど聞き流していた。

 その間僕が見ていたのは、偽物の彼だ。

 偽物の様子は、選手たちが機嫌を損ねてからというもの、あからさまに挙動不審であり、まるで彼らに怯えているかのようだった。


(これは……“普通”の偽物、かな? 些か警戒し過ぎだったか)


 だが、まだ決めつけるのは早い。せめて、偽物が負ける姿を見るまでは観戦を続けることとしよう。

 そう考える僕をよそに、司会の紹介が終わる。

 ちなみに、レリアーナの倍率は予想よりも低い5.50倍。偽物の倍率は予想通り2.00となった。

 そして、試合のベルが鳴らされ、全観客が固唾を飲んで見守る中。

 開始早々、一人の選手が宙を舞った。

 その光景は、まるで昨日の試合の焼き直し。

 彼はビリーと同様曲線を描きながら数メートル飛来し、そしてグシャリと落下する。

 そして、仰向けに横たわる彼の顔からカランと仮面が落ちた。

 観客たちは、何が起こったかわからぬように倒れた選手――漆黒の闇と、彼を倒した選手レリアーナを見比べる。

 やがて彼らが現実を理解すると、会場は阿鼻叫喚の渦に包まれた。

 観客たちは口々に漆黒の闇を罵り、嘆き、ゴミと化した賭け札を投げ捨てる。

 それは一瞬紙吹雪のようで少しだけキレイだった。

 中にはよほどの大金を賭けていたのだろう、泡を吹いて気絶しているものもいる。

 リアルにそんな倒れ方をしている人を初めてみたので、僕は少し笑ってしまった。て、あれ? もしかしてあれ、宿屋の親父じゃね?


(ま、やっぱり普通の偽物だったか)


 懸念が杞憂とわかり、僕の精神が軽くなったのを感じた。

 エリーゼから、僕ではない漆黒の闇が出場すると聞いた時、僕の頭に過ったのは偽物が同類である可能性だ。

 僕と同様、あちらの世界の知識を持つものが存在し、ソイツが昨日の闘技場で僕という同様を発見し、僕に自分という存在をアピールする為に漆黒の闇を名乗ったのでは?

 もしそうならば、偽物はLV3ではあり得ない戦闘力を発揮するはず。

 まずあり得ない可能性。だが、こうして見に来ないという可能性はなかった。

 結局のところ、すべては杞憂だったのだが。

 ふと、司会と受付嬢を見る。司会は、いかにも期待ハズレだ。と偽物をけなしていたが、受付嬢はそんな司会をどこか呆れた目で見ている。


(……なるほど、この筋書きは闘技場側が書いたものか)


 受付嬢は演技ができないなと苦笑する。

 しかし、と思う。

 今回は普通の偽物だったが、もし本物の同類が現れたら?

 もし同類が存在するなら、ソイツはすでに他の同類が存在することを悟っているだろう。

 そして僕がソイツだったらどうするか?


(なんとしても見つけ出してこの手で殺す)


 両者の力の源泉が知識である以上、僕と同類との間にアドバンテージは存在しない。

 ゆえに、僕とソイツが出会うその瞬間までに、よりどちらが強くなっているか。そういう勝負になるだろう。

 僕は今まで自分が超効率プレイをしていると思っていた。だが、同じ知識持ちから見てそれは本当に効率的なのだろうか。本当は更に効率的な攻略があるのではないだろうか。

 次々と選手たちをその怪力で薙ぎ倒していくレリアーナを見ながら、僕はそんなことを思うのだった。


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