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第四話

≪―――汝に“百戦錬磨”の称号を与えよう≫


≪―――汝に“二ノ太刀要ラズ”の称号を与えよう≫


≪―――汝に“心眼”の称号を与えよう≫


「………………ぅ」


 天から堕ちる声で、目が覚めた。

 どうやら、一瞬意識を失っていたようだ。

 頭を振り、痺れが残る身体で立ち上がるのと、キングが追撃を掛けてくるのはほぼ同時だった。


「グッ……」


 ダメージからか、半透明に揺らぐキングの突進を、ギリギリでかわす。

 一拍遅れ、迷宮の壁に轟音が響いた。


(…………? かなりギリギリで避けたと思ったんだけど)


 額から流れ出る血を袖で拭いながら、ようやくはっきりしてきた頭でキングを見る。

 僕の姿を捕捉したキングは、その大きな口を開くと僕に向かい緑かかった半透明の何かを口から放った。


(エアブラストッ、さっきの衝撃はこれか!)


 キングの巨体による突進にしてはダメージが低いとは思っていた。恐らく、自身が間に合わないと踏んだキングは足りない距離をエアブラストで埋めようとしたのだろう。この知能の高さも、キングの脅威の一つだった。

 エアブラストを避けながら、改めてキングへの警戒を強める。その瞬間、僕は見た。

 半透明のエアブラストを追いかけるように、色の濃いエアブラストがキングの口から放たれるのを。

 半透明のエアブラストは、壁に当たると何事もなかったかのように消え去り、この後のエアブラストは衝撃と共に大気を震わした。


(これは…………)


 その不可思議な光景に僕が目を見張っている中、キングは再びエアブラストを放つ。

 またもや、先に半透明のエアブラストが放たれ、それを追うように色の濃いエアブラストが放たれる。しかも今度は、キング自身の身体からも、半透明のキングが分離し僕に向かって回り込んでくるのも確認した。


(間違いない、この半透明のビジョンは次のキングの攻撃だッ)


 エアブラストを避け、本来なら死角から不意討ちするつもりだったのだろうキングの噛みつきも余裕を持って回避する。

 何もない空間を噛み砕き、僕を殺せなかったことを悔しがるかのように歯噛みするキング。その姿を見て、僕は笑みが溢れるのを我慢することができなかった。

 称号“心眼”付属スキル――見切り。

 これが、この半透明のビジョンの正体だった。

 いくつかの称号は、ステータスボーナスの他にスキルも付属されている。

 攻撃を一撃も受けずに同等以上の敵を百体倒すことで得られるこの称号“心眼”は、回避率を劇的に挙げるパッシヴスキルが付属されている。

 回避率が上がるというのはどういう意味かと攻略サイトを見ていた時は疑問に思っていたが、なるほどこうして半透明のビジョンとして相手の次の攻撃がわかるらしい。


(こりゃあいい)


 キングの攻撃を次々と避けながら、ほくそ笑む。称号を得たことでステータスも上がり、敏捷性が増した今、キングの攻撃など恐るるに足りず。攻撃を避けながら、頭に包帯を巻く余裕すらあった。

 そんな僕の舐めプレイに、キングは怒りのボルテージが上がったのだろう。攻撃がより苛烈になる。

 だが、反面単調にもなった攻撃に僕が喰らうわけもなく。そろそろ反撃に転ずることにした。

 ショートソードを構え、半透明のキングを迎え撃つように凪ぎ払う。

 キングはもうスピードで自ら剣に突っ込むように大きく裂傷を作り――ピシッ――、…………ピシッ?


「げっ!」


 嫌な予感がする音に、恐る恐るショートソードを見た僕は盛大に呻いた。

 これまでの酷使が祟ったのだろう。刃溢れしたショートソードは、その刀身の半ばから罅が入っていた。

 この状態では、後一撃持てばいいというところだろう。


(クソッ、重いからって魔剣じゃなくショートソードを持ってきたのは失敗だった。魔剣なら耐久値なんてなかったのに!)


 HPと防御力が低い反面、素早さの高いザコーン相手なら、軽く取り扱い安いショートソードの方がいいとこれを持ってきたのだが、完全に裏目に出てしまった。


(あと一撃……。それで倒せるか?)


 キングは、大抵その魔物の弱点が反転した形で現れることが多い。

 HPが低い敵はHPが高く、攻撃力の低い敵は高火力に、防御力の低い敵は、装甲が厚く。

 スピード以外低いザコーンでは、高HP、高火力、高装甲を得てキング化する。

 先ほどキングにはかなりのダメージを与えたが、それでもキングはまだまだ健在。恐らくは、あと少なくとも数回は同じ攻撃を叩き込まなくてはならないだろう。

 先ほどと同じ攻撃数回分を一撃で……。


(微妙なところだな……)


 呼吸を整え、腰を落とし重心を安定させる。

 剣を構えしっかりとキングを睨み据えると、キングも決戦の気配が伝わったのか、こちらを凝視する。

 やがて、キングは力を溜めるようにぶるぶると身体を震わし始めた。キングの身体を赤いオーラが包み込む。一撃に限り攻撃力を倍増させるスキル、チャージだ。

 力を溜め込んだキングは、今まで手こずらされた怒りをぶつけるよう僕に突進し。


「ギュォオオォォッ!!」


 途中で不意討ち気味にエアブラストを放った。

 タックルと見せかけたエアブラストでの奇襲。キングと付いてる癖に、微妙に狡猾な攻撃手段だ。

 だが。


(見え見えなんだよッ)


 エアブラストを余裕で避け、いつかと同じよう回り込んで攻撃してくるキングを迎え撃つ。

 ショートソードの柄が砕けんばかりに力を込め、キングの身体にショートソードが接触する瞬間。


「一刀――――……」


 称号“二ノ太刀要ラズ”の付属スキルを使用した。


「――――両断ッ!!」


 剣に魔力が流れ込み、システムで保護された魔剣がキングへと炸裂する。

 ショートソードは先ほどの裂傷と寸分違わぬところに打ち込まれ、鋼のように硬いその肉体を紙のように易々と切り裂いて行く。

 キングの肉体は上顎と下顎を別つように見事に両断され、その瞬間ショートソードは自らの死を悟ったかのようにその役割を終えた。


「……………………ふぅ」


 残心を解き、刀身の半ばから折れたショートソードを鞘へと納める。

 キングへと振り返れば、キングはその身体を粒子へと変え消え去るところだった。

 キングの遺体があったところには、銀の延べ棒とキングを象った首飾りが床に転がっている。ドロップアイテムだ。

 ドロップアイテムを回収し、鑑定をする。

 銀の延べ棒は、大体金貨1枚位だろうか。正確な鑑定は素人である僕には厳しいが、まぁ最低でもそのくらいはあるだろう。

 ちなみに、金貨1枚で銀貨50枚。銀貨1枚で銅貨100枚となっている。

 金貨2枚ほどで一般家庭が一月ギリギリで暮らすことが出来、金貨2枚も使えばそこそこ贅沢な暮らしが出来る。

 僕が泊まっている宿屋は三食飯付きで月に一括払いの金貨1枚。一人暮らしであることを踏まえると、いささか出費が激しい状態だ。

 もう1つのドロップアイテムは、攻略サイトの情報が正しければ、キングザコーンのレアドロップの筈だ。

 名前はストレートに“雑魚王の首飾り”。HPに若干の補正と、使用することによりエアブラストのスキルが発動する。魔法の攻撃手段の乏しい序盤にはかなり重宝する装備だ。売却値段は金貨1枚となかなかの代物であり、一発でドロップするのはかなり運が良いと言える。

 この二つのドロップアイテムをバックに入れながら、僕は思う。

 この迷宮に入ってきた邪魔者は一体誰なのだろうと。

 先も言った通り、この迷宮は旨味があまり無い。そんなところに来るのは、子供の練習台か僕のような例外だ。

 子供の練習台ならばいい。だがもし冒険者なら、事情を伺う必要があるな。

 そう思いながら、僕は迷宮の入り口に向かったのだった。


 

 

 


 結論から言うと、邪魔者とは会うことが出来なかった。

 やはり子供の練習で一体だけ倒して出ていったのか、迷宮内でスレ違ったのか。しばらく迷宮の入り口で張り込んで見たものの、会うことは出来なかった。

 ……普通に考えれば、前者であり心配する必要は無い。それでも、どうしても拭い切れない不安があるのは僕の事情故だろうか。

 あり得ないとは思いつつも、心のどこかで思ってしまうのだ。僕という例外がある以上、第二第三の例外がないとどうして言い切れるのか、と。


(まぁ……今考えても意味のないことか)


 ため息と共に一度思考を切り替える。

 とりあえず、今日の成果を纏めて見よう。

 僕はステータスカードを取り出すと、メインステータスの項目を開いた。


[メインステータス]

■アルケイン=健康

■LV=3

■HP=592/72(+520)

■MP=453/33(+420)

・筋力=1.42(+31.00)

・反応=1.96(+36.00)

・耐久=1.61(+21.00)

・魔力=1.20(+16.00)

・意思=1.61(+21.00)

・感覚=2.42(+31.00)



■ボーナスステータス=2.00



 ステータスが、爆発的に増加していた。LVも2ほど上がっている。

 各称号によるステータスの増加は以下の通りだ。


【百戦錬磨】:HP+200、MP+100、筋力+5.00、反応+5.00、耐久+5.00、意思+5.00。


【二ノ太刀要ラズ】:筋力+10.00、反応+5.00、感覚+5.00。アクティブスキル≪一刀両断≫。


【心眼】:反応+10.00、感覚+10.00。パッシブスキル≪見切り≫。


 【二ノ太刀要ラズ】と【心眼】にはそれぞれスキルがついている。

 スキル≪一刀両断≫は、一発MP50と燃費が悪いが、防御力無視、攻撃力二倍と終盤まで使える優秀なスキルであり、≪見切り≫は常時発動の上、その有用性は先の戦いでも証明されている。


「………………はぁぁ~」


 無事、3つの称号を取得していることを確認した僕は、深々と安堵のため息をついた。

 ほぼ100%取得しているとは思っていたが、やはり自分の目で確認しない限りは安心することは出来なかった。

 それにしても、今日は本当に肝が冷えた。

 キングとの死闘ではない。称号が取得できないかもしれなかった可能性が恐ろしかった。

 この3つの称号は、序盤であればあるほど取りやすい称号で有名だ。

 それぞれの取得条件を羅列すると、


【百戦錬磨】:一日に同じ迷宮でに同等以上の敵を相手に百戦百勝する。


【二ノ太刀要ラズ】:連続百体の同等以上の敵を一撃で殺す。


【心眼】:連続百体の同等以上の敵を一撃も喰らわずに殺す。


 だ。

 見てわかる通り、この3つの称号は取得条件が似通っている。

 そして、この称号の取得条件で最も厄介なところは、同等以上の敵という条件がついていることだ。

 同等以上の、とは魔物のレベルを指す。

 一般には、というかこの世界の住人の誰も知らないことだが、魔物にもレベルというものが設定されている。

 同等以上とは、このレベルで同レベル以上の敵を倒せ、ということだ。

 これが、すこぶる厄介だ。

 何しろ、途中でレベルアップしてしまい、1レベルでも相手のレベルを越えてしまった場合、カウントはすべてリセットされてしまうのだ。

 ではレベルアップを考慮に入れて敵を選んでも、今度はそういう敵は自分より強いということで、達成は困難になる。

 敵にもよるが、少なくとも【二ノ太刀要ラズ】か【心眼】のどちらかは諦めなくてはならないだろう。

 そして、この称号の最大の特徴はレベルが高くなるほど達成が困難になることだ。

 物語が後半になるにつれ、敵は強大かつ特殊能力を有するようになる。

 一撃で殺しきれないHPがデフォルトになり、必中攻撃を有する敵も少なくない。

 中盤以降までにこの称号を取れなかった場合、潔くあきらめた方がいいだろう。

 そんな見返りは大きいが達成は困難なこの称号を比較的簡単かつ一度に取得できるタイミングがある。

 それがこのレベル1の序盤なのだ。

 レベル1の初期攻撃力でも一撃で死ぬザコーンは【百戦錬磨】と【二ノ太刀要ラズ】を取得するのに最適の敵であり、迷宮の出入りだけで取得できる〇〇冒険者系の称号を持っていれば【心眼】の称号も手に入れることができる。

 但し、これも賭けだ。

 まず、LV1から2にあがるまでの経験値が100。ザコーン一体の経験値が1なので、一体のミスも許されない。

 次に回避も、避けられるか避けられないかは気合いではなく確率計算。運が良ければ、命中率0.1パーでも当たる時は当たる。そうなればまた最初からだ。

 そして何よりこれが最も重要なのだが、ゲームではミスればロードすればいいが、現実にセーブ&ロードはない。反面、回避は集中力&気合いにもなるのだが。

 そんなわけで、まだ称号を得ていないのにキングが現れた時は心臓が止まるかと思った。

 ここで、これらの称号、特に≪一刀両断≫と≪見切り≫が手に入らないと大分苦しくなる。

 僕が立てている計画は組み直しとなり、エリーゼの件も諦めざるを得ないだろう。

 だが、危うくはあったがクリアはした。

 強くなる、の第一段階は達成というわけだ。

 さて次はどうするか。

 やることはいくらでもある。どれから手をつけてもいいし、何をしても何かしら得るものはあるだろう。

 だが今最も優先すべきことは何か、と考えると…………。

 ふと、視界の端に銀塊と首飾りが映った。

 売れば金貨1枚程度になる、計画ではなかったはずの臨時収入。

 ふと、脳裏に魅力的な思いつきが過った。


(……………………うん。悪くないな)


 十分な強さはある。金を稼ぐ必要もあるし、暴漢戦よりも先に対人戦を経験しておくべきだ。

 僕は前々から考えていた計画の一つを前倒しで行うことにした。


 ……後から振り返ってみれば、この時の僕は浮かれていたというしかない。

 本来あり得ない、知りうることのできない知識を得て、トントン拍子に成長し、まさに人生の絶頂。

 金を稼ぐ必要があるとか、対人戦を経験しておくべきとか色々理由をつけてはいたが、結局のところ自分の力を試してみたいだけだった。

 お手軽に身につけた力で、地道に何年も努力を積み重ね、命懸けで成長してきた先輩冒険者たちを、圧倒的力で地に這いつくばらせ、悦に浸りたかっただけなのだ。

 痛々しい、そう、主野 公人風に言うならば厨二というヤツ。

 僕はそれにこの時かかっていた。

 それは今でも完治していないし、まぁそもそも冒険者という人種はどこかしら厨二なのだが。

 もし、何でも一つ願いが叶うとするならば、僕は金銀財宝ではなく、今この瞬間に戻ることを選択するだろう。そして、この時の僕を張り倒し全力で説教する。

 金などは生きていれば稼げるが、過去というのは決して消えないのだから。


 僕はこの日、闘技場に出場することを決めた。決めて、しまった。


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