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ツンデレな殺人鬼さんとの出会い。

個人的にこの章に出てくる女性キャラはお気に入りです。

なんかキャラクター、キャラクターしているなあ、と思いました。


ちなみにツンデレ、クールデレとかよく分かりません。

 まだ日光が降り注いでいる中、琴葉は露骨に嫌そうな顔だったが、これといった何かしらのダメージは無いみたいだった。霊体になると、何か体質でも変わるのだろうか。

 琴葉は学校の校門の前で待っていた。

 日向には、彼女の存在は見えない。


 例の喫茶店に付くと、何故か覆面パトカーが停まっていた。隣には比呂のミニバンがある。ついに補導されたのか、と、葵は嘆息する。

 比呂はすぐに見つかり、どうやら刑事らしき人間と話し合っているみたいだった。制服警官では無い。無免許運転に、刑事まで出てきて尋問を受けるものだろうか。それとも比呂には何か余罪でもあるのだろうか。

「やあ」

 葵が比呂に声を掛ける。

 隣にいる日向は怯えていた。


「おお、やっと来たか」

 刑事の方が、顔を上げる。四十代を過ぎたぐらいの、所々に白髪が目立つ、無精髭を蓄えた中年だった。

 葵は、すぐに頭を下げる。

「すみません、俺の友人が迷惑ばかり掛けて…………」

 刑事は噴き出す。

「違う、違う。俺は“介在者”だよ。この坊主がダチの為に頑張りたい、ってんで。俺に連絡してきたんだ」

「言っておくけどなー」

 比呂はいつものタバコの代わりに、小さな葉巻を口にしながら日向を指差す。

「俺は大切な葵の為にやってやってるんだからな。お前の為じゃねぇからよ」

 彼のサングラスの奥の眼は鋭い。

「おい、比呂。そんな言い方ないだろ?」

「ふん」

 比呂は口から葉巻を地面に吐き出す。そしてそれを踏み付ける。

「なあ葵、お前も吸うか? これチョコレート味の葉巻だぜ? コーヒー味もある」

 刑事は苦い顔をしながら、彼が捨てた葉巻を背広のポケットにしまう。

「未成年の喫煙くらいは見逃すが、道路へのポイ捨ては止めろ。マナーだ」

「ああ、すいませんよっ、と」

 刑事は溜め息を吐きながら、警察手帳を葵と日向に見せる。近くでは、琴葉が彼らを見守っていた。手帳には増谷道、と書かれていた。

「俺はマスヤオサムって言う。マスヤでいい。早速だが、俺の車に乗ってくれないか? おい、比呂坊、お前は帰れ。奴はお前と会いたくないんだそうな」

「…………、なんだよ。会ってくれねぇーのかよ、つれねーな」

 そう言うと、彼は不貞腐れる。

「俺と内通しているのも嫌なんだそうな、それに奴は気まぐれだしな。お前を見て同族嫌悪を起こしているのかもしれん」

「まあ、あいつとは何度か大喧嘩になったしな。この俺がいない方が話が進むかもしれんっしなあ」



 刑事の増谷の覆面パトカーに三名は乗る。

 日向は助手席、葵と琴葉は後部座席だった。どうも増谷には琴葉の存在は見えていないみたいだった。

 車を進ませて、一時間くらい経過した頃だろうか。

 街外れへと向かっている。どんどん人気が無くなっていた。

「あの、これから会う人って殺し屋、なんですか……?」

「ああ、そうだ。“シャドウ・ナイフ”だ」

 葵は首を傾げる。

「なんですか? その、漫画やTVゲームの武器の名前みたいな…………」

「知らないのか? シャドウ・ナイフを……。勿論、通称。あるいはコードネームなんだが、世界にも名が知れ渡っている十代の連続殺人犯だぞ? この名称を付けたのはFBIだか、海外のシリアル・キラー研究家だからしいんだがな。一時期、TVでも特集が組まれていた」

「すみません。余り時事ネタには関心が無いもので……」

「もっとも、本人は“中二病臭いから、その名前で呼ぶな”って怒り出すんだけどな。……ん、処で中二病ってえのはなんだ? 若者言葉なのか?」

 彼は苦笑する。

「あの、つまり、もっとどういう人なんですか?」

 葵は、少し裏返った声で訊ねた。

「的確に、一言で言えばなあ。そうだなあ、奴は人間じゃない…………」

 性格などの事を聞いたつもりだったが、余計に意味が分からない答えを返された。



 そこは無人のアパートだった。

 何処か異様だが、葵から見て、霊体の気配は感じられない。

 増谷はアパート前にある玄関のチャイムを鳴らす。

「おい、いるんだろ? シャドウ・ナイフッ!」

 アパートの奥から、ドン、と音が鳴った。

「行くぞ、入れの合図だ」


 404号室に着く。

 そして再び部屋にある玄関のチャイムを鳴らす。

 中から、鍵は開いている、勝手に入れ、という言葉が返ってきた。


 中には一人の女がいた。木製の揺り椅子に座っている。

 壁には、異様な程に、刺身包丁やその他の刃物類が飾られている。

「おい、刑事。今回は私に相応のビジネスなんだろうなあ?」

 女は椅子から立ち上がる。

 彼女は秋だというのに、白いワンピースという薄着だった。

 そして、何よりも異様なのは、腰元まで伸びた桃色の髪だった。染めるにしても、綺麗な桃色だ。そして瞳は濁った赤紫色をしていた。

「あのう、貴方は……」

 葵が訊ねる。

「私? 私は境火きょうかって名だ。そう呼べ。なぁ、そのシャドウ・ナイフって通称を付けた奴ら、生首にしてやりてぇんだよ。後、言っておくけど、この髪はウィッグじゃないし染めてもいない。瞳もカラーコンタクトじゃ無いからな。ついでに今年、ぴちぴちの18歳だ。決して若作りしているババアじゃねぇよ」

 葵が最初に抱いた印象は、彼女の容姿の異様さよりも、本能的な意味での“怖さ”だった。生まれて初めて会ったようなタイプの人間だ。

 境火はボロボロのアンティークのタンスの中を開いて、何かの書類を取り出して、地面に放り投げる。そこには彼女の写真が載っており、英文で文字が書かれていた。名前の欄に“Serial killer Shadow knife”と大きく表記されている。

「漫画のようなセンスの無いコードネームなんて付けやがって……。調べたら私が最初の殺人を犯す前に、何かのTVゲームで同名のキャラとかいたぞ。殺してやる。殺してやる。殺してやる…………」

 彼女は明らかに眼が血走っていた。

 そして、おもむろに、いつの間にか手にしていたナイフを手にして、それを投げ放っていた。葵の左横の壁に突き刺さる。

 寒いな、と言って、殺人者は、壁に掛けてあった黒いカーディガンを羽織った。

 ふと、葵には、彼女の桃色の髪が肉の色に、瞳の色が流れる血の色に見えた。

 間違いなく、目の前にいる女は狂気を宿していた。

「まあ、落ち付けよ。シャドウ……、境火。お前の好きなアップル・シュークリームとキャラメル紅茶のパックを土産に持ってきたぞ」

 刑事はおだてるように言う。

 境火は、くる、くる、と、ナイフを右手で回しながら、お手玉のように弄んでいた。

 そして、再び揺り椅子に腰を下ろす。

「私の素性は知っているな? そこのモヤシとイモ」

 葵と日向は、自分達の事を言われように唇が引きつる。

 境火は脚を組んで、刑事に説明するように視線を送った。

「ああ、このシャドウ……。失礼。境火は判明しているだけでも、57名の人間を殺している。3年以上に渡って事件が続いた為に、警察の無能さを隠蔽する為に上からの報道規制が敷かれて、12名の連続殺人としているが、実際には五倍近い57名の遺体が見つかっている。…………」

「そうそう、で、私の手口はぁあ?」

 目の前にいる連続殺人犯は、とても楽しそうに笑った。

「暗闇の中で背後から人間を滅多刺しにするんだ。夜闇に隠れて刃物での殺害が続いた事から通称“シャドウ・ナイフ”として呼ばれるようになった。もっとも、この名称を付けたのは海外のジャーナリストだか、研究家だか、捜査官だかだけどなあ」

「うん。そして現場に必ず刃物を残す。私、番号振っていたもん。ナイフに番号を記していた。本当に57人だけ? 見落としている番号は幾つもあったよねえ?」

 増谷刑事は顎に手を置く。

 何処か気だるそうな顔をする。

「そうだな。俺は捜査一課にいなかったが。彼らは半狂乱になっていたみたいだ。うちの署でもお前は伝説になっている」

「刺すだけじゃなくて、解体したり、寸刻みにもしたよお? とても気持ち良かった。また何度でもやりたい。13歳の誕生日からやっている。何度でもやりたい」

 シリアル・キラーは、手にした得物の刃をうっとりと眺めていた。


「まあいいさ。処でモヤシ、お前、何で付き添いに幽霊女連れてきている?」


 どうやら、シャドウ・ナイフにも、霊は見えるみたいだった。


「俺はな。俺達の一課は、彼女と取引をしたんだ」

「私としてはかなり不満だけど、潮時を感じていたからね」

「この女、境火は。人間だけじゃなくて“幽霊も殺せる”んだ。解決出来ない心霊現象関連の事件の捜査員として動く代わりに、警察側は彼女の罪を消す。だからシャドウ・ナイフ事件は未解決事件として残り続けているんだよ」

「私に殺せない相手なんていないからねえ。実は欧米からも、政府公認の“武力”として、勧誘が来ている。日本の霊能捜査に飽きたら、そっちに行くつもり」


「ああ、それからお前達」


「まだマスコミは報道していないが。ある都心のビルで人間のミンチ死体が見つかった。腐乱死体だ。DNA鑑定の結果、水城由里絵、だと判明している。死亡推定時刻は分からないが、おそらくは円藤兄弟が殺害された前後に彼女も殺されたんだろうな」

「心霊現象なら、私も幽霊が見えるし、私が殺してやる。だから、私の電話番号も教えるから、危なくなったら私に電話をしてこい」

 そう言うと、境花は、ノートの切れ端に自分の電話番号を書いたものを、葵と日向に渡した。


 帰り道の事だ。

 霊能探偵、逆山理念からのメールが来た。

<すまないが、この件に僕は関われない。全貌が見えてしまったからだ。僕の手に負えるものじゃない>

 葵は暗澹とした顔になり、このメールを、日向に話すべきかどうか迷った。



 それから何事も無く五日間が経過した。

 五日後に、あの廃病院を訪れた最後の二人の内、御子柴拓郎が、細切れのバラバラ死体になって、指が、歯が、眼球が、腸が、その他、もろもろの臓器や骨などなどが、部屋中に張り付けられて、さながら花束のように見えたという。

 第一発見者は、彼の父親だという。

 たまたま仕事の出張から帰ってきた矢先に、その光景を目にしたのだと言う。妻とは不仲で、別居しており、仕事の関係が無ければ、このような事にはならなかっただろうと、彼はマスコミの前で、泣き続けていたという。


 日向だけが残った。




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