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こんな事態になってしまったので御披露目は中止になり帰る事になったのだが、危険なので送って行きますとザガートとエミリオ殿下が言い争いを始めた。
「レイティアは私の婚約者ですから、私が送ります」
「いや、こちらが招待したのだから責任持って送り届ける」
2人は睨み合いを続けている。
「レイティアったら、モテモテね」
ニコニコと笑いながら小声で言ってくる。
「笑い事ではありません‼それに、あの2人は常に張り合ってるので私は関係ありません」
色恋に疎いレイティアはだだの張り合いと思ってる。
「もう!2人とも喧嘩は止めて下さい!どちらにも送って貰わなくても結構です‼」
怒りながら言うと2人は慌てて謝ってくる。
「すまない。喧嘩してるつもりは無かったんだが、不快にさせてしまったようだ」
「申し訳なかった。貴女の気持ちを考えてませんでしたね」
そんな二人に救いの手を差し伸べたのはソフィアだった。
「御二人に送って頂いたら良いのではなくて?」
ソフィアの言葉に2人は飛び付いた。
「そうだな。2人なら更に安心だしな」
「ええ、守り手は多い方が良いですからね」
先程まで争ってなど無かったかのように振る舞い始めて、結局2人に送って貰う事になった。
ただ、その道中もああだこうだ揉めながら帰る事になり、レイティアは家につく頃にはグッタリになったのだった。
「もう!お母様の所為で色々大変な目に遇いました‼」
2人と別れ、家の中に入ってからプンプン怒る娘に対して
「そんな怒らなくても良いじゃない。貴女の為にお菓子を用意してあるから、機嫌を直して頂戴」
「お菓子何かに釣られる私ではありません‼」
プイッと顔を反らす。
「貴女の大好きなチョコのお菓子も沢山用意して有るのよ?」
男の振りをしていると中々食べる事が出来ないので、それは嬉しいかもと反応してしまう。
「本当に?」
「嘘をついてどうするの。機嫌を直してくれるなら一杯用意するわよ?」
「仕方無いですね。今回だけですからね」
しぶしぶと言った感じで言ってるが顔が笑顔だ。
「今すぐ用意させるわ」
そう言って、部屋にお菓子を運ばせる。
彩り鮮やかな菓子やチョコの菓子が並べられ、レイティアの目はキラキラと輝く。
「本当に食べて宜しいですの?」
「ええ、どうぞ」
チョコの菓子をつまみ、口の中に入れるとトロリと溶け甘さと香りが広がる。
「甘くて美味しい~~!」
次から次へと口に運んでは満面の笑みを見せる娘を見て、ソフィアも嬉しくなってくる。
「喜んで貰えて良かったわ」
そんな時に控えめにドアをノックして執事が入って来た。
「失礼します。レナード様に火急の知らせが届きましたのでお持ちしました」
レイティアの秘密を知る数少ない人物で、周りの使用人達に気付かれないように運んできてくれたようだ。
レイティアからレナードへと顔つきが変わる。
「見せろ」
手紙には、砦付近にも多数魔物が出没して隊員が負傷したと書かれていた。
負傷した兵の中にカイルも含まれている。
「母上、砦に帰ります。後の処理等はお任せして宜しいですか?」
「ええ。レイティアの事は任せて」
ソフィアが答えると、レナードになるための準備を始めるが、目は名残惜しそうに菓子を見ている。
「あちらで食べられる様に包ませるから持って行きなさい」
「ありがとうございます」
素直な反応に、笑いながら菓子を包んでくれた。
隊服に身を包んだレナードは甘さの欠片もなく、鋭い剣の様で近寄りがたい雰囲気を出している。
「行ってらっしゃい。あまり無茶をしないように気を付けてね」
ソフィアはレナードの頬にキスをする。
「わかってます。では、行ってきます」
愛馬に乗り砦へと急いだ。
途中で同じく知らせを受け取ったらしいザガートが合流して来た。
「ザガートも知らせを受け取ったのか?」
「そうです。カイルも負傷したと書いてあったので急いで来た所です」
2人で馬を駆っていると、ザガートが話し掛けて来た。
「隊長が落馬したと聞きましたが大丈夫何ですか?」
そうだった。母が落馬した事にしてたんだった。
「大丈夫だ‼怪我も何もしていない‼母が大袈裟に騒いでいただけだ」
「隊長にしては珍しいと思ったのですが、そうだったんですね。」
何とか納得してくれた様なので安心すると
「そう言えば、隊長の妹と結婚を前提に付き合う事になりました。お兄さんと呼んでも良いですか?」
「許可しない‼妹も結婚する気は無い‼」
「シスコンは嫌われますよ。やはり隊長はレイティアと違って可愛いげが有りませんね」
面倒なので、この話題には触れないように馬のスピードを上げた。
砦に着くと騒然としていた。
急いでカイル達の元へ行くと、部屋には怪我人が溢れていた。
「隊長。申し訳有りません。任せて下さいと言ったのに…」
頭や腕に包帯を巻いたカイルが謝ってくる。
「怪我をしているのに悪いが、何があったか聞かせて欲しい」
レナード達がいなくなって少ししたあたりから、5体の魔物が出没し始めた。
隊員達の奮闘により街に被害は出なかったが、怪我をした者が多数出てしまったらしい。
「すみません。自分の所為でカイル連隊長に怪我させてしまったんです」
赤毛にソバカス顔の若い隊員が、自分がヘマをした為に魔物の攻撃を許してしまったと涙ながらに謝ってくる。
「自分のミスだと分かってるんだな?」
「はい。どんな自分はどんな罰でも受ける覚悟です」
「待って下さい!隊を率いてた自分の責任であります。罰なら私が受けます!」
「なら2人に罰を与える。今まで以上に仕事をこなせ。カイルは傷の回復に努めろ」
「「はっ!」」
2人はレナードに深々と頭を下げた。
しかし隊員が怪我をしている状況で、魔物が出没すると不味い。
魔物が自我を持って攻撃して来てるならただ倒せば良いが、人に操られてるならただ倒すだけでは問題解決にならない。
「今回、敵からしたら思った以上に成果が出なかっただろう。焦って攻撃して来る可能性が高い」
早急に動ける隊員の確認と編隊を考え砦の強化をはかろうとした時に、思わぬ来訪者が訪れた。
活動報告にも書きましたが、不定期更新になると思います。
頑張って書こうと思いますのでよろしくお願いします。