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突然、広間の明かりが全部消えた。
「レイティア私から離れないで下さい!」
いつの間にか名前を呼び捨てにされ、片手で抱き締め直し、もう片方の手は戦闘体勢をとる。
しかし、暗くなったのは一瞬で、直ぐに明かりが点いた。
広間にいる招待客も一体何があったと、ざわめいている。
周りを警戒しながら様子を確認していると、鳥獣型の魔物が窓を突き破り侵入してきた。
魔物が現れた為、広間はたちまち大混乱になった。
「レイティア、貴女は避難して下さい!」
「ザガート様はどうされるのです?帯剣されてないのに危険です!」
人が大勢いる状態の広間では魔法が使えない。
「危険だとしても、皆を避難させなくては‼貴女は早く逃げなさい‼」
ザガートはレイティアを逃がそうと出口に誘導しようとした時だった、上を旋回していた魔物が襲ってきた。
鋭い鉤爪で逃げ惑う人を攻撃する。広間には悲鳴が充満する。
「衛兵や近衛は前に!招待客を避難させろ‼」
エミリオ王子が指揮をとりつつ自らも剣を握るが、普段魔物と対峙することが無い部隊だからか攻撃が当たらない。
(あれでは倒すことが出来ない‼しかし魔法を使えばバレてしまうし、どうしたら…そうだ結界を張れば、ザガートは魔法を使える‼)
「ザガート様、私が結界を張りますので魔物に攻撃をして下さい!」
「貴女が結界を?わかりました。やってみましょう」
魔物と対峙している王子達の場所に移動する。
「エミリオ殿下、微力ながら援護します」
「ザガート助かる!って女性を連れてくるとは何を考えている!足手まといで危険だ‼」
2人がやり取りしている間に、結界を張るために集中する。
「聖なる光よ、悪しきものより我らを守りたまえ!」
結界はエミリオ殿下やザガート達だけではなく、広間の招待客もを包み込む。
すかさずザガートが爆炎の魔法を放つと、炎は龍の形になり魔物に襲い掛かった。
炎の龍に締め上げられ悶え苦しむ魔物を見て、エミリオが衛兵や近衛に追撃の魔法攻撃を指示する。
2人の結界や魔法を見て呆気に取られていた兵達は王子の号令で我に返り、連携で攻撃魔法を放ち魔物を倒すことが出来た。
「やったぞ!皆良くやった‼」
魔物が倒せた歓喜と安堵が広がる。
「先程は、その…色々とすまなかった」
王子が寄ってきて、足手まとい呼ばわりした事と鷲掴んだ事を謝ってくる。
王子の顔が真っ赤だったので、つられてレイティアも赤くなる。
「しかし助かった。流石はレナードの妹だな。あれ程の結界を張るとはな」
「結界を張る位しか出来ないので…」
「あの結界がなければ魔物を退治出来ず、被害が拡大してたでしょう。そうでしょう、殿下?」
2人で話してるのが気に食わないとばかりにザガートが間に入ってくる。
被害の状況を確認すると、中には大怪我をした者もいるようだが亡くなった人等は出なかった。
「ああ、そうだな。被害を抑える事が出来たのは姫のお陰だ。名前を聞かせて欲しい」
レイティアの手を両手で握りしめ聞いてくるが、ザガートが邪魔をする。
「レイティア姫ですよ。王子と言えども私の婚約者に馴れ馴れしく触らないで下さい」
「待って下さい。いつ婚約者になったのです?!」
「結婚を前提とした手紙でのやり取りを許可して頂きましたよ」
手紙を許可したら婚約者?強引過ぎるだろうと抗議すると悲しそうな顔をされるので強く言えずにいると、いつの間にかザガートに手を握られている。
「婚約者で無いのなら、私にもチャンスがあると言うことか…」
王子の独り言はレイティアの耳には届かなかった。
「そうですわ。先程お兄様と間違えた時に殿下が仰ってた、噂とはなんですの?」
気になっていた事を聞いてみる。
「最近、若い令嬢が夜会の最中に消える事件があるのだ。2~3日すると戻って来るが、その間の記憶を無くしているので神隠しと言っている者もいる」
その為にレナード達が変装して潜入して来たと思ったらしい。
「管轄が違うでしょう?私や隊長だって暇じゃないんですよ」
「そうなんだが、衛兵達も頭を悩ませているから優秀なお前達ならと思ってしまってな」
気にはなるがザガートの言う通り管轄が違うし、今はそれどころじゃない。
何か忘れているような気がする…。何だろう……
「あっ!ザガート様、お母様は大丈夫なのでしょうか?無事避難されてれば良いのですが…」
落ち着いたら一緒に来ていた母の事を思い出した。
「怪我をされてる人の所にはいないようです」
辺りを見回していると青い近衛の服を着た男性と一緒にソフィアがこちらに向かって来るのが見えたので駆け寄る。
「お母様ご無事ですか?」
「無事よ。魔物が来た時は王妃様とお話ししてたから一緒に逃げたのよ」
何でも第2王子の近衛が直ぐに駆けつけ、守って貰ったと報告してくれた。
確かに一緒に来た男性は第2王子の近衛だ。
近衛は仕える主によって隊服の色が違う。王の近衛は白で、エミリオは赤、イルミオは青になるので誰の隊かわかるようになっている。
「貴女も無事そうで良かったわ。それどころか男性に囲まれて良いわね」
ソフィアがニコニコしながら見ているのは、ザガートが離してくれない繋いだままの手だ。
「お母様コレには色々な訳があって‼」
「ミルジュ侯爵夫人、レイティア姫と結婚を前提にお付き合いさせて頂く事になりましたので許可して貰えますか?」
「まあまあ!短い間に一体何が合ったのかしら?」
胸の当たりで両手を合わせたソフィアは色々聞きたそうに目を輝かせている。
「お母様…」
こんなに大勢いる場所では何も言えないので、無言を貫くことを決めた。