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第1王子のエミリオがやって来たのは、お昼を少し過ぎた頃だった。
「エミリオ殿下、遠路はるばるお越しいただき恐縮に存じます」
レナード達が出迎える。
「お忍びだから畏まらなくて良いぞ。友として接してくれ」
父親同士が仲が良かったので、レナードとザガートはエミリオ殿下の遊び相手として選ばれ、幼い頃は良く遊んだ。
今でも身分の差が有るものの、殿下は気軽に話し掛けてくる。
「分かりました。部屋を用意しましたので、こちらにどうぞ」
来客用の部屋に案内し、魔物に関する報告書等を用意する。
「これが今までの報告書になります」
渡された報告書をざっと目を通していく。
「今のところ被害無しか。タナーク地方は被害が出てるのに、流石は精鋭部隊だな」
「お褒め頂き光栄です」
金属や怪しい人物の事以外の報告をしていく。
「原因は、まだハッキリとしてません。魔物の出没地域の共通でもあれば調べやすいと思いますが」
「レナードなら何か掴んでるかと思ったがまだだったか。う~ん、共通点ね…タナーク地方は私が幼少期に過ごしただけだから分からないな」
殿下の何気無い言葉に、なにか引っ掛かるのを感じる。
(砦の管轄、幼少期に過ごした場所、殿下に関係している場所に何かあるのか?調べてみるか)
「どうした?」
「いえ、何でもありません」
「そうか、ところでレナードは私の近衛になる気は無いか?」
「ありません」
思わず即答してしまったが、殿下は苦笑している。
「断るだろうと思っていたが、まさか即答だとはな」
「失礼しました。砦の任務が私には合ってるので」
それは構わないと殿下は答えた。
「ただレナードが側にいれば楽しいかと思ったんだ。女性も寄って来そうだし、振られてもお前がいれば嬉しいし」
人を何だと思ってるんだと言いたいが相手は王子だから無言を通す。
ああそうだと、本来の目的の1つを思い出した。
「今回来たのは弟の御披露目がそのうち開催されるから、それも言いに来たんだ」
ユーザレス国には、3人の王子がいる。
第1王子のエミリオは、つり目が特徴のキツネ顔。民からの人望が厚く政治手腕も高いが、女性の扱いが下手で婦女子からの人気は無い。
第2王子イルミオ殿下は容姿端麗で婦女子からの人気が高く、貴族達からの支持が厚い。
第3王子はまだ御披露目されていないが、活発で賢いとされている。
古からの仕来りで10歳の誕生日まで公の場に参加させてはいけないとされているので、まだ誰も姿は見た事は無い。
「確か御名前がエルード様でしたよね?」
「良く分かるな。エルードは私の可愛い弟だ。舞踏会を開催するときは参加するのだろう?」
「仕事がありますし、御披露目ならば父が参加すると思います」
自分が参加する事は無いかと思うと伝えると残念がられた。
「レナードの正装を見られると思ったのに残念だ」
何故そんなに残念がるか分からないが、昔から女性に振られるとベタベタしてくるので、また振られたのだろ。
もしかしたら今回のお忍びも、女性がメインだったかも知れない。
砦の視察をして城へと帰っていった。
この時は、舞踏会であんな事になるとは思ってもみなかった。