(33)
リリスの話を聞き報告書を纏めていると、陛下に連絡を終えたウィルが戻って来た。
「陛下に連絡した所、明日には保護した令嬢達を迎えに兵を寄越すそうです」
「分かった。たが、家に戻しても問題無いのだろうか?」
「隊長はあの令嬢達から黒い靄など見えましたか?」
じっくり見たわけでは無いが靄などは見えなかったので、横に首を振る。
「リリスさんが言っていた通りなら、石を持っていたから呪が発動したのであって、彼女達は呪われてません。だから戻しても大丈夫だと思います」
ただ、途中で逃げてきたのは今回が初めてだと思うので、しばらくの間は城で保護して貰うことになった。
「そうしてもらった方が良いだろうな」
「リリスさんには砦に残って貰った方が良いと思います」
保護ならば城の方が安全だろうが、リリスの力は強く、もしもの時の戦力としたいと言うのがウィルの考えだった。
「それは…、リリス嬢が良いと言えばだろうが、危険は無いのか?」
「下手な遣い手より魔力が強いですし、警護にザガートを付ければ問題無いでしょう」
「問題有りだ‼」
ノックもそこそこに部屋に入ってきたザガートは、不穏な話を聞きウィルに詰め寄る。
「何の話か分からないが、何故私がリリスの警護をしなければならない⁉」
「彼女の力が必要だからですよ。魔力があっても物理的な力は無い彼女を守る人が必要でしょう?」
「別な人間で良いだろう!」
「私や隊長が警護に付くと言っても、彼女は嫌がるでしょうね」
確かに、リリスはザガート以外の男性には手厳しい所がある。
お茶の出し方さえ細かくチェックし文句を言ったりしてたくせに、ザガートのミスは激甘だった。
「本人に聞いてみて、ザガートを指名したらその時は頼むぞ。彼女は貴重な戦力になると思うからな」
「………………畏まりました」
ザガートはこちらを見ながら、一応返事はしたが顔が物凄く嫌だと語っていた。
***
翌朝、城から迎えが来る前にリリスに話をするために研究棟に行くと、部屋の前にグッタリとしている研究員達が廊下に立っていた。
「あ…、レナード隊長。リリス様はお部屋にいらっしゃいます」
「お前達どうしたんだ?」
「えっと、その…、リリス様やお嬢様方のワガマ、いえ御要望が多くて…」
お嬢様であるリリス達からしたら当たり前の要求なのかも知れないが、彼女達のワガママに答えなければなかった研究員達の気苦労は並大抵のモノでは無かったようだ。
「すまなかったな。後は休んで構わない」
ウィルが部下達に休みように声を掛け部屋をノックすると、ドアが少し開きリリスが顔を覗かせた。
「お嬢様方に、話をしたいので中へお邪魔して宜しいですか?」
「構いませんわ。ですが、大人数ではご遠慮して頂けるかしら」
「中に入るのは3人だけですのでご安心を」
ならどうぞと中へ招き入れてくれたのだが、部屋の雰囲気がガラリと変わっていた。
元々来賓用の部屋は、エミリオ殿下が泊まる時にも使われていたので砦の中でも豪華な部屋だったが、殿下の趣味が反映されていて男っぽかった部屋は、趣味の良い部屋に変わっていた。
「違う部屋に見える…」
「男くさくて仕方無かったので、少し模様替えさせて頂きましたわ」
少しと言うより大分だと思うが…と3人は心の中で呟いた。
「それで、お話とはなんですの?」
「貴女方の事を城に報告したところ、今日迎えが来ることに決まりました。身の安全の為に少し城での保護になりましたが、ここよりは過ごしやすいと思います」
城で家族が待ってると伝えると、令嬢達はホッとした表情で手を握りあっていた。
「ただ、リリス嬢には砦に残って神隠しについて協力して頂きたいのです」
「嫌ですわ‼多少魔力が強くても、か弱い私が残らなければならないなんて‼」
「もちろん警護をつける予定です。私でもザガートでも、他の兵でも好きに選んで貰って構いません」
私も他の方と一緒に城に行きますわ!っと騒いでいたリリスだったが、ザガートの名前を出すと急に大人しくなった。
「ザガート様でも宜しいのですの?でも、女性一人は…」
ザガート様は嬉しいが、一人は寂しいから嫌だと言う。
「お喋り相手も欲しいですし、何より嫁入り前の娘が男の中に一人でいるなるて変でしょう?誰か私以外で女性がいるなら考えて差し上げますが」
それはそうかも知れないが、リリスの後ろで震えている令嬢達には残れとは言えないし、貴重な戦力とは言え女性に強制させる訳にもいかないので城には全員で行ってもらうかと考えていると、ザガートがポツリとレイティアの名前を呟いてしまう。
「彼女なら…」
「「ダメだ!!」」
「何故です?魔力があって、砦の事も良く知ってる彼女が最適かと思います」
それは無理だとウィルと二人で言うが、何故ダメなのか説明してくださいと言われた。
(もうリリスさんには城に帰って貰って良いですよ)
(ああ、その方が良いだろうな)
二人で小声で話し合っている間に、リリスとザガートは話を進めていた。
「ザガート様、レイティアとはどなたですの?」
「隊長の双子の妹で可愛らしい方ですよ」
ほんの少しザガートの口元に笑みが浮かんだのをリリスは見逃さなかった。
「ふ~ん。そうですの。決めました!レイティア様に会うまでは砦から帰りませんわ!」
そう宣言が聞こえたので、二人で振り返る。
「ザガート様が褒めるレイティア様に会わせて頂けるなら協力して差し上げますわ」
それは困る。
「いや、砦に残らずに城に行って貰って構いません。引き留めるようにしてしまって申し訳ありませんでした」
「そうそう、昨日忘れてましたが、他にも情報がありますの。聞きたければ会わせて下さい。会わせてくれるまで帰りませんわ!!」
どうしよう。ザガートのヤツは余計な事を言ってくれたなとチラリと睨むが何故睨まれるのか分からないと顔をしていた。
「隊長、彼女は身体が弱いのでしょう?なら彼女にも聞いてみないとダメなのでは有りませんか?」
「ああ、そうだな。連絡をしてみるので情報だけでも教えて頂けますか?」
会うまでは教えないと笑顔で言われたが、目が笑っておらず怖かった。
そんなやり取りをしていると、予定の時間より城からの迎えが来た。令嬢の中に大臣の娘が居たので迎えが早く来させられたのだろう。
リリスも馬車に乗っても良いと言ったのだが、馬車に乗らず3人を見送った。
(隊長、ここはレイティアに来てもらうしか無いでしょう)
(いや、しかし私はどうするつもりだ?居ないと不自然だろう?)
(王弟の手紙を用意しましたので城に向かう振りをして、レイティアになって来るしか無いでしょう)
「二人でコソコソと何を話しているんですか?」
「ああ、隊長に城から呼び出しの手紙が来たので渡していただけです」
「隊長の呼び出し、最近多いですね」
「最近、騒ぎ等が多いからじゃないか?」
とにかく城に行くので留守を頼むぞとザガートに言う。
「では、私はレイティアを迎えに行きますよ。隊長、途中までご一緒しましょう」
「ウィルでは無く私が…」
「ザガート様は私の護衛でしょう?」
ニッコリ笑ったリリスに上着を掴まれて砦の中へと引き摺られるように連れていかれた。
ウィルと共に砦を出て、途中の街で着替える事になった。
「何故、ドレスをウィルが持っているか不思議なんだが」
「レイティアにプレゼントする為に用意していただけです。しかし、王都まで行って戻って来た振りをする為に少し時間を潰さないとダメですね」
着替えの間に何かお昼を買ってきますとウィルが部屋を出ていったので、入口の鍵をかけ着替え始める。
胸の布を取りコルセットを着けると、女性らしい谷間が出来た。
「最近また大きくなった様な気がする…」
このままだと、シリルが跡取りとして名乗りをあげる前に胸でバレてしまうんじゃ無いかと少し不安に思うが、悩んでも仕方無いのでドレスを取り出す。
ウィルが用意した淡いピンクのドレスはサイズがぴったりで、手触りが良く軽かった。
くるりと一回りするとスカートの裾がフワリと広がる。
「凄い着やすいドレス。でも、何でいつもこんなにサイズがぴったりなのかしら?」
サイズが少し合わなかったのは一番最初の時だけで、毎回用意されるドレスは、教えてないのにサイズがぴったりだった。
髪を梳かしているとウィルが戻ってきたのか、部屋がノックされる。
「お昼を買ってきましたよ。鍵を開けて下さい」
ドアを開けると、手に大量の荷物を持ったウィルが立っていた。
「凄い荷物ですね。何を買ってきたんですか?」
「説明は後です。とにかく中に運びたいので手伝って下さい」
ウィルに手渡された荷物を部屋のテーブルに運ぶ。
食べ物の他に、女性用の帽子や靴、それに小物類だった。
「ドレスは何着かあるので大丈夫ですが、小物が全然無かったので買ってきました」
テーブルに置いた荷物の中から帽子を取り出し被せられた。
「うん。良く似合います」
にっこり笑って褒められると、顔が赤くなる。
「そうだ。お金払います!」
「要りませんよ。全て貴女にプレゼントします」
「それは出来ません‼ウィルに悪いです!」
そんな事は無いので受け取って下さいと言われるが、見るからに安物ではないので、ハイそうですかと貰う訳にはいかない。
でも…と言うと、ウィルは何やら考え胸元から紙を取り出す。
「それじゃあ、こうしましょう。隊長との約束でもある貴女からのキスで支払いをして頂きましょう」
「それはウィルが騙してサインさせたんじゃない‼」
「ええ、でもサインしてあるでしょ?それにタダでプレゼントを貰うのは嫌なんでしょ?」
どうすれば良いのか分からず、唸っていると頭を撫でられる。
「レイティアは、私の事が嫌いですか?」
「嫌いじゃありません!でも…」
ウィルは少し悲しそうな顔をして、頬にキスでも良いですよっと言ってきた。
「恥ずかしいのなら目を閉じますので、して下さい」
ウィルは少し屈んで目を閉じた。
頬にならとウィルの顔に手を添えてしようとしたのだが、直前に見たウィルの悲しそうな顔を見て胸が痛んだ。
色々と協力してくれ自分の為に尽くしてくれてるのに、ウィルに甘えてるだけで、なにも返してない…。これで良いのだろうかと止まっていると、頬でも嫌ですか?と落ち込んだ声で言われてしまう。
「ち、違います!ウィルもう少し屈んでくれますか?」
「わかりました」
ウィルが更に屈んだところで、ウィルの唇に自分の唇を重ねた。
本当にさらっと重ねただけだったが、ウィルは驚き目を丸くして固まってしまった。
自分も顔から火が出そうなくらい熱くなってしまったが、しばらくたっても動かないウィルが心配になり声を掛ける。
「ウィル?」
「レイティア…、貴女って人は…」
ウィルに腕を引っ張られたと思った瞬間に抱き締められ、おでこにキスをされた。
「愛してます」
耳元で囁かれた後に腕から解放されたが、胸がドキドキして今度は自分が動けなくなってしまった。




